第11話 親友と書いてライバルと読む
●エレナ視点
今日はうち1人で買い物。ルークの身の回りの物を買うためだ。
店を見ながら歩いていると、後ろから声をかけられた。
「ねえ、お姉さん」
「……」
無視した。
「ちょっと待ってよ」
振り返ると、3人の冒険者が立っていた。
「1人で買い物? よかったら俺たちと一緒に食事でもどう?」
「興味ない」
「そんなこと言わずにさ」
「俺たち結構強いんだぜ?」
「この町じゃ、そこそこ名前も知られてんだ」
本当にうっとうしい。
「無理」
「そういうこと言わずに、一緒に――」
うちは足を止めた。腰の剣へと手を伸ばした。
3人のうち1人が、うちの顔をじっと見た。男の顔がどんどん青くなっていく。
「勇者パーティーの剣聖……、エレナ?」
「そうだけど」
「「「ええっ!?」」」
3人が同時に飛び上がった。
「「「す、すみませんでした!」」」
3人は頭を下げると、逃げるように走っていった。
うちはため息をつき、再び歩き出した。
「ルークの独り占め禁止、か……」
昨日、4人で話し合って決めたことを思い出す。
ルークを1人で独り占めしない。4人で一緒にルークを愛する。そういう約束になった。
「みんな、ルークのこと好きすぎるんだよな」
でも、仕方ないと思う。それぞれ、ルークとは特別な出会い方をしている。
「でも、ルークを好きな気持ちは絶対うちが1番だから」
そこだけは譲れない。誰にも譲るつもりはない。
「ていうか、ルークってモテすぎっ」
そのときだった。背後に殺気を感じた。
うちはすぐに剣を構えて振り返った。
そこには、フードを深くかぶった人物が立っていた。背中には大きな弓を背負っている。
こいつ、強い……。
「少しお主と話したいんじゃが?」
その人物は路地裏を指さした。
警備兵は近くにいない。市民を巻き添えにするわけにはいかない。うちは小さくうなずいた。
路地裏で話し出す。
「ルークの元へ連れて行ってほしい」
「は? あんた、ルークの何なの? もうこれ以上、ルークに近づく人はいらないんだけど」
フードの奥で、そいつは小さく笑った。
「親友と書いてライバルと読む。そんな関係じゃ」
なに、この胡散臭いやつ。ルークに近づけるわけにはいかない。
「じゃあ、1回だけ相手してあげる。負けたら素直に帰りなさい」
「わしはそれでも構わんが」
速っ!
次の瞬間、矢が飛んできていた。うちは剣ではじいた。
「まだまだ!」
次々と矢が飛んでくる。うちは壁を走りながらかわしていく。
そして隙を見て、一気に距離を詰めた。
男は弓を捨て、短剣を抜く。剣と短剣がぶつかる。
「やるのぉ! さすがは勇者パーティーの剣士と言ったところか!」
「ふんっ! あんたみたいな輩にはうんざりよ!」
何度も刃がぶつかる。男の動きはかなり速い。
でも、うちのほうが上!
一気に踏み込む。男の短剣を弾き飛ばした。
取った!
そう思った瞬間だった。男の姿が消えた。
「……え?」
次の瞬間、背後から肩に手を置かれた。
「一本じゃな」
「……!」
完全に背後を取られていた。
「わしの勝ちで、文句はあるまい?」
「くっ……」
悔しい。剣聖であるうちが、完全に背後を取られた。
そのときだった。頭の中へ突然、知らない光景が流れ込んできた。
森の中。そこには幼い少年がいた。
「ルーク……!?」
幼いルークが拳を前に突き出したり、蹴りの練習をしている。
その隣にはエルフの女性がいる。エルフの女性も一緒になって訓練している。
映像が消える。
「今のは……」
男がフードへ手をかけた。フードが外される。
「エルフ族のオリビアじゃ」
長い耳。整った顔。銀色の髪。そこにいたのは美しい女性のエルフだった。
声が低かったから、男だと勝手に思い込んでいた。
オリビアは笑った。
「勘違いされるのには慣れておる」
オリビアは真剣な顔になった。そして、はっきりと言った。
「わしなら、ルークを元の体に戻せる」
●オリビア視点
別荘の外。ルークに見つからないよう、窓の中をのぞく。
背中しか見えない。それでも、わしには分かる。あれは間違いなくルークじゃ。
わしは耳を澄ませた。エルフ族は人間より耳がいい。小さな声でも聞き取れる。
「くっそー、なんでこんなことに……。元の状態に戻ってくれよ」
そりゃ、元の体に戻りたいに決まっておる。
両手もない。右足もない。左足の感覚もないのじゃから。それで平気なわけがない。
「どうせお主のことじゃ。仲間たちには強がっておるんじゃろ」
仲間たちの前では笑いながら、大丈夫だと言っているのが目に浮かぶ。でも本当は違う。
「バカ者が……」
涙が頬を伝った。
安心しろ、ルーク。わしがお主を元の姿に戻してやる。
その場を離れ、わしはリビングにいるエレナたち四人と向かい合った。人間の女性4人は緊張した面持ちでわしを見る。
「みなに伝えておきたいことがある」
わしは、さっき聞いた言葉をそのまま伝えることにした。
「ルークは部屋で1人、こう言っておった」
そこで一度息を吸った。
「くっそー、なんでこんなことに……。元の状態に戻ってくれよ、と」
女性4人の顔が固まり、泣き始めた。こやつらのルークへの思いは本物らしい。ひとまず、良き者たちに恵まれておるようじゃ。よかった。
「それで、本当にあるの? ルークを元の体に戻す方法」
エレナが顔を上げていった。
「エルフの泉じゃ。エルフ族が守っている特別な泉での……。強い浄化の力がある」
「ルークの四肢に残っているのは、魔王の呪いです。聖女である私でも浄化できないほど強力ですよ」
わしは続けた。
「ルークの体を泉まで運べれば、ほぼ間違いなく呪いは解除できるであろう」
4人が笑顔になった。
「しかし、泉へたどり着く途中で命を落とす可能性もある。それほど危険な場所じゃ」
4人が黙った。わしは四人の前に手を出した。
「協力してくれる者はおるか?」
●ルーク視点
俺は首から下げているペンダントを見ていた。
そして気づいた。
「……あれ?」
いつも青くて透明なペンダントが、少し黒ずんでいる。
これは親父の形見だ。ずっと身につけている。普段は青くて透明なのに、今日はなんだか薄汚れた色になっていた。
手入れをしていなかったから、というわけではない。そもそも手入れなんてしたこともない。
「くっそー、なんでこんなことに……。元の状態に戻ってくれよ」
まあ、しょうがない。別に天国の父さんだって、こんなことでキレたりはしないだろう。
俺は窓の外を見る。今日もいい天気だ。
「のんびり日向ぼっこでもしてぇな……。今日も世界は平和だぜ」
魔王を倒せて良かった。こんな体になっても、一切の悔いはない。
俺は窓から入ってくる日差しを浴びながら、目を閉じた。暖かい。なんだか眠くなってきた。
「ふぁ……、あぁ……」
ぼーっとしていると、勢いよく部屋の扉が開いた。
「おいおい、ノックくらいしろよ」
俺は顔を上げた。
「……って、オリビアじゃねえか!」
「よおライバル。相変わらずしけたツラしておるのぉ!」
「お前、数年ぶりに会って一言目がそれかよ」
オリビアは昔と変わらない笑顔を浮かべていた。
その後ろには、エレナ、フィリー、セシリア、アイシェまでいる。
「ルーク、お主をエルフの泉まで連れていく」
「……ん?」




