第10話 プリンセス・アイシェ
俺たちと国王の娘アイシェは、ひとまずテーブルを囲んで話し合うことになった。
俺は車いすに座ったまま、アイシェとの出会いについて説明する。
7歳のころにダンジョンへ入り込んでいたアイシェを、俺が助けた。俺自身は薄っすらとしか記憶に残っていない。でもアイシェは細かく覚えていた。
「つまり、ルーク様は7歳のわたくしを魔物から救ってくださったのです」
「まあ、そういうことになるな」
そんな中、突然、フィリーが天井を見上げた。
「……やっぱり」
フィリーが指をさした先には、小さな魔法道具が取り付けられていた。
「なんだ、あれ?」
「ずっと違和感があったけど、この別荘、至るところに魔法監視カメラがついてるよね?」
「は?」
俺が目を丸くすると、アイシェが当たり前のように答えた。
「ルーク様に何かあったら大変ですもの。24時間、ずっと監視させていただきます」
「やめてくれ! それだけは!」
「なぜですの?」
「落ち着いて過ごせねえわ!」
「すぐに慣れますわ」
「そういう問題じゃないだろ」
エレナがため息をついた。
「アイシェ。これはさすがにやりすぎ」
セシリアも続く。
「ルークは私たちが見ているので、カメラは不要です」
フィリーは魔法監視カメラを魔法を使って取り外していった。
「これで全部。86個」
「いくなんでも多すぎだって……」
そのとき。アイシェのもとへ魔法通信が入った。
「お父様からですわ。はい。何でしょう?」
少しすると、アイシェの顔が露骨に嫌そうになった。
「隣国の王子との会食? お断りしますわ」
「……」
俺たちは黙ってアイシェを見る。
「どうせ、わたくしをそのへっぽこ王子と結婚させたいのでしょう?」
おいおい……、へっぽこは失礼だろ。
「わたくしはルーク様と結婚します」
俺は思わず、せきこんだ。三人がアイシェを睨んでいる。
「ルーク様のように強い子供を産みますので、そんな話は必要ありません」
「ゴホォッ! ゴホッ!」
アイシェは一方的に電話を切った。
「その王子様と結婚するほうがいいんじゃないの? プリンセス・アイシェ」
エレナが言った。フィリーとセシリアも同調する。
「あなた方こそ、元の職場に戻ったらいかがです?」
アイシェは笑顔だった。でも、その笑顔がなんか怖い。
「はっきり言いますけれど、あなた方はもう用済みですわ」
おいおい。俺もそこまでは言ってねえよ。
「……」
「……」
「……」
3人の空気が変わった。
「うち、こいつ嫌い」
「ぼくも苦手。ていうか無理」
「私も、さすがに我慢の限界です」
エレナは腕を組み、フィリーは無言でアイシェを見つめ、セシリアは笑顔のまま目だけが笑っていない。
4人の視線がぶつかっている。
頼むから仲良くしてくれよ。
俺はため息をついた。
こいつらの話を聞いていると、なんだか腹のあたりが痛くなってきた。ズキズキする。
「なんだこれ……」
人生で初めてだった。
俺はこの4人を、俺から解放してやれるのか。
いや、解放してやるのが俺の義務ってやつだ。いつまでも俺に捕らわれてちゃ、こいつらの人生が無駄になる。
「みんな、俺はみんなに迷惑をかけたくない。アイシェも含めてだ」
アイシェの表情が少し変わった。
「いつまでも甘えてるわけにはいかない。それに何より、お前らの才能を無駄にしておくのはもったいないと思ってる」
俺はゆっくり言葉を続けた。
「だから、家政婦を雇って俺は1人で暮らす」
「……」
空気が止まった。4人の顔が完全に固まっていた。
「もちろん、たまに会いに来てくれる分には嬉しい。だから……」
4人は今にも泣きそうな顔をしていた。誰も何も言わない。
「えっと……」
俺、なんか間違ったこと言った?
空気が重い。ものすごく重い。
「……なんつってな!」
俺は慌てて舌を出した。
「冗談、冗談!」
すると4人の表情が一気に変わった。
「……もう。驚かせないでください」
セシリアが胸を押さえる。
「ルーク、冗談にしては悪趣味」
フィリーが頬をふくらませる。
「うち、心臓止まるかと思った」
エレナもため息をついた。
「本当に、びっくりしましたわ」
アイシェも笑顔に戻った。
「……」
俺は苦笑した。
どうすりゃいいんだ。本当に分からん。
「まぁ要するに、俺はみんなのことが好きってことだ。感謝の気持ちを伝えたかった。アハハハハ」
なんだか疲れた。
「だから喧嘩せず、仲良くしてくれ。すまんが、疲れたから休憩するわ」
俺はベッドへ横になった。本当に疲れていた。
そのまま目を閉じる。
話し合いは、そのあとも続いた。
夕方になっても続いていた。
「長すぎだろ……」
俺はベッドの上でつぶやいた。ずっと横になっていた。
4人はいったい何を話しているんだ。俺にはもう聞く気力もなかった。
そして夜。
俺が目を覚ますと、4人が並んでこちらを見ていた。
「おおうっ!? 話し合いは終わったのか?」
「はい」
アイシェが答える。
「わたくしたちは、ある結論にたどり着きました」
「結論?」
「はい」
4人が顔を見合わせる。
そして、アイシェが言った。
「ルーク様の時間を、4人で分けることにしました」
「……は?」
俺は固まった。
「しばらくは、これで平和に過ごせると思います」
「いやいやいや……、えっ?」
なんでそうなるっ!?
「みんなで話し合った結果です」
絶対おかしいって!
「ルーク、文句ある?」
エレナが首をかしげる。
「いや、文句というか……」
「ルーク、みんなで仲良く話し合って決まったことですから」
セシリアが言った。
俺は4人の顔を見る。
どう見ても、全員が本気だった。
「それと、誰と寝るかはこれまで通り1日おきの交代制だよ」
フィリーが言った。
「今日はわたくしですわ。ルーク様!」
「ちょっと待て!」
俺は必死に止めようとする。
「なんで俺抜きでそんな話になってんだ?」
「あら、ルーク様は休んでいらっしゃいましたから」
「そうだけどさ……」
4人は満足そうにうなずいている。
俺はまたベッドに寝転がって天井を見た。
そして心の中で叫ぶ。
なんか、思ってたのと全然ちがぁぁあああう!




