第60話「重力暴走」
中枢隔壁は、脈動していた。
VOID ARCHITECTの内部で、心臓のように。
あるいは、宇宙そのものの鼓動のように。
COSMOSはその前に立つ。
青い巨神の背には、銀河全域のGFリンクが輝いていた。
ミナトが叫ぶ。
「隔壁の重力密度、異常!」
「これは壁じゃない!」
レイが問う。
「何だ。」
ミナトは青ざめる。
「圧縮された宇宙だ。」
ソラは息を呑んだ。
「宇宙を、壁にしてるの?」
DENEBが震える声で答える。
「たぶん……過去にリセットされた宇宙の残骸です。」
VOID ARCHITECTは、滅ぼした宇宙の残骸を隔壁にしていた。
そこには無数の終わりが折り重なっている。
壊せば、記録が流れ出す。
触れれば、意識が押し潰される。
それでも進むしかない。
ソラはCOSMOSの拳を握った。
「やるよ。」
ミナトが叫ぶ。
「待て!力任せに壊せば、重力が暴走する!」
ソラは静かに言った。
「じゃあ、暴走する前に抜ける。」
COSMOSが拳を突き出す。
青い重力が隔壁へ触れる。
その瞬間――
すべてが反転した。
重力が跳ね返る。
COSMOSの内部へ。
銀河リンクへ。
SPICA部隊へ。
新世代GFへ。
艦隊重力炉へ。
DENEBが悲鳴を上げる。
「逆流!」
「銀河リンク全域に重力暴走!」
外部。
火星防衛線のSPICAが膝をつく。
木星のZEUSの砲身が割れる。
土星のCRONUSの盾が歪む。
艦隊の重力炉が次々と警告を発する。
ソラは叫んだ。
「切って!」
「リンクを切って!!」
ミナトが答える。
「切れない!」
「COSMOSが銀河全域と噛み合ってる!」
重力暴走は、銀河そのものを揺らし始めた。
星の軌道が乱れる。
惑星防衛線が崩れかける。
味方を守るためのリンクが、今度は味方を壊そうとしている。
ソラの顔が青ざめる。
「私が……」
「私が繋げたから……」
レイの声が飛ぶ。
「違う。」
「今は後悔する時間ではない。」
ソラは歯を食いしばる。
「分かってる!」
COSMOSの中で、無数の声が乱れている。
痛み。
恐怖。
混乱。
ソラはその全部を感じる。
押し潰されそうになる。
だが。
その中で、ひとつの声が響いた。
「アマミヤ先輩!」
SPICAの少年だった。
「こっちはまだ持ちます!」
別の声。
「火星隊、制御補助します!」
「木星隊、重力を逃がします!」
「土星隊、盾を反転!」
ソラは目を見開く。
「みんな……」
レイが言う。
「一人で止めるな。」
「暴走も共有する。」
ソラは息を吸った。
そして頷く。
「うん。」
COSMOSの両腕が広がる。
銀河リンクは切らない。
逆に、もっと広げる。
暴走する重力を一か所に押し込めず、銀河全体で受け流す。
ミナトが叫ぶ。
「正気か!?」
ソラは叫び返す。
「正気じゃ宇宙なんか越えられない!」
銀河全域で、青い光が波のように広がる。
火星が受ける。
木星が流す。
土星が曲げる。
外縁艦隊が分散する。
SPICA部隊が小さな重力点となって、暴走を宇宙へ逃がす。
そして、COSMOSが中心で制御する。
ソラの意識が千切れそうになる。
だが、もう一人ではない。
「行ける……!」
重力暴走が収束し始める。
隔壁の反射が弱まる。
ソラは前を見る。
「今だ!」
COSMOSが拳を打ち込む。
今度は力ではない。
暴走した重力を逆に使い、隔壁の構造へ流し込む。
圧縮された宇宙の残骸が、内側からほどけていく。
中枢隔壁に亀裂が走った。
その奥から、白い光が漏れる。
DENEBが叫ぶ。
「隔壁、開きます!」
ミナトが呟く。
「暴走を……鍵にしたのか。」
ソラは荒い息を吐く。
「ちょっと失敗したけど。」
笑う。
「結果オーライ。」
レイが静かに言う。
「毎回それで済ませるな。」
隔壁が完全に開く。
その先にあったのは、VOID ARCHITECTの本体核。
宇宙の終わりと始まりを制御する、中枢そのもの。
だが同時に。
外部では、重力暴走の余波で銀河中心が揺れ始めていた。
ブラックホール群が不安定化している。
DENEBの声が震える。
「銀河中心に異常!」
「このままでは……銀河核が崩壊します!」
ソラは前を見た。
中枢核。
そして、揺れる銀河。
「急がないと。」
COSMOSが青く輝く。
重力暴走は止まった。
だがその代償として、銀河そのものが崩壊への道を進み始めた。




