第24話「宇宙の拒絶」
それは、“圧”だった。
形も、意思も、法則ですらない。
ただ一つの事実。
「それ以外を許さないもの」
シンギュラリティ級最深部。
ソラの周囲のすべてが、静かに崩れていく。
空間がほどける。
時間が抜け落ちる。
存在の輪郭が曖昧になる。
NOVAの光が、わずかに揺らぐ。
《警告》
《存在定義 不安定》
ソラが小さく息を吐く。
「……なるほど。」
「これが“拒絶”か。」
それは、攻撃ではない。
否定でもない。
ただ――
“最初から存在しなかったことにする力”
ソラの手が透ける。
「うわ……」
軽く笑う。
「さすがにこれはきついな。」
外部。
NOVAの信号が断続的に消え始める。
DENEBが叫ぶ。
「反応が消えてる!!」
「いや……戻って……また消える……!?」
レイが声を張る。
「ソラ!!」
内部。
ソラは、ゆっくりと目を閉じる。
「……消えるのは簡単なんだ。」
「何もなかったことにすればいい。」
その通りだった。
この力は絶対。
宇宙の初期状態へ戻す。
例外は許されない。
だが――
ソラは、笑った。
「でもさ。」
目を開く。
「それ、つまんない。」
NOVAの光が、再び灯る。
弱い。
だが消えない。
ソラが操縦桿を握る。
「“あったこと”はさ。」
「消えないよ。」
重力が、わずかに揺れる。
それは力ではない。
記録。
存在したという痕跡。
宇宙の中に刻まれた事実。
「私はここにいる。」
「ちゃんと、ここにいた。」
その言葉と同時に。
NOVAの輪郭が戻る。
《存在確率 回復》
AIの声が震える。
“それ”が反応する。
強く。
完全に。
拒絶が増幅される。
宇宙全体が、ソラを否定する。
だが。
今度は違う。
ソラは消えない。
「ねえ。」
「消すならさ。」
少し笑う。
「全部消さないとダメだよ?」
その意味。
“それ”が理解する。
ソラの存在は、すでに宇宙に影響している。
観測された。
干渉した。
変化を起こした。
つまり――
完全に消すには。
宇宙そのものを巻き戻す必要がある。
ほんの一瞬。
“それ”が停止する。
外部。
DENEBが叫ぶ。
「拒絶反応……一瞬止まった!?」
レイが呟く。
「……突破したのか。」
内部。
ソラはゆっくり前に進む。
「ほら。」
「迷った。」
“それ”は迷わないはずだった。
だが今、確かに遅れている。
ソラは静かに言う。
「完璧すぎるとさ。」
「こういうとき弱いよ。」
だが次の瞬間。
さらに深い層から、圧倒的な“何か”が降りてくる。
拒絶とは違う。
修正でもない。
それは――
“初期化”
ソラの表情が変わる。
「……あー。」
「それやる?」
NOVAの全データが揺らぐ。
記憶。
経験。
存在理由。
すべてがゼロへ向かう。
《全システム リセット警告》
ソラが歯を食いしばる。
「くっ……!」
外部。
NOVAの光が急速に弱まる。
「消える!!」
レイが叫ぶ。
内部。
ソラの意識が薄れる。
過去が消える。
戦いが消える。
仲間が消える。
「……ダメ。」
小さく呟く。
「それはダメ。」
消えてはいけないものがある。
思い出。
選択。
積み重ね。
ソラの目が開く。
「それは……」
強く言う。
「私だから。」
その瞬間。
NOVAの重力が爆発する。
今までで最も強く。
最も深く。
“記録”として。
“存在”として。
宇宙に刻まれる。
初期化が止まる。
完全に。
沈黙。
すべてが止まる。
そして。
初めて。
“それ”が認識する。
ソラを。
単なる例外ではなく。
“新しい可能性”として。
ソラは息を吐く。
「……危なかった。」
少し笑う。
「でもさ。」
前を見る。
「もう戻れないよね。」
宇宙はすでに変わっている。
わずかに。
だが確実に。
そのとき。
さらに奥から。
圧倒的な存在が現れる。
今度こそ。
最深部。
最上位。
ソラが静かに言う。
「……来た。」
それは。
今までのすべてを超える。
真の存在。
戦いは。
ついに――
最終局面へ突入する。




