第1話「重力の少女」
恒星暦304年。
人類は、かつて地球という青い惑星から宇宙へ旅立ち、いまでは複数の恒星系に広がる文明を築いていた。巨大な軌道都市、恒星発電リング、そして光速に近い航行が可能な宇宙艦隊。人類はついに星の海を支配した――はずだった。
だが宇宙は、人類が思うほど優しくはない。
外宇宙探査艦隊が最初の異常を観測したのは三年前。恒星系が一つ、突然「消えた」。爆発でも崩壊でもない。まるで宇宙から切り取られたかのように、星も惑星も、そこに存在した文明も、すべてが消滅していた。
その原因は、すぐに判明した。
未知生命体群。
宇宙空間そのものを侵食しながら増殖する存在。
人類はそれをこう呼んだ。
ヴォイドスウォーム。
そして今。
太陽系外縁宙域、軌道都市ユグドラシル。
巨大な円環型コロニーの外側には、訓練宙域が広がっている。そこでは宇宙防衛軍の候補生たちが日々、機動訓練を行っていた。
「ソラ!また速度出しすぎ!」
通信越しに怒鳴る声が響く。
小型訓練艇の操縦席で、少女は笑った。
「大丈夫大丈夫!まだいける!」
少女の名は――
アマミヤ・ソラ。
17歳。宇宙訓練校の問題児として有名だった。
理由は単純だ。
操縦が、うますぎる。
通常、宇宙船の操縦は計算と制御AIに依存する。しかしソラは違った。彼女は計算などしない。
「重力の流れ」を感覚で理解していた。
星の引力、軌道の歪み、宇宙の微かな重力波。
それらを、まるで海の潮流のように感じ取る。
「この辺り、重力が変だな……」
ソラは操縦桿をわずかに動かした。
その瞬間。
警報が鳴り響く。
《警告。重力異常を検知》
「え?」
次の瞬間、宇宙が歪んだ。
星空が水面のように揺れる。
空間が裂ける。
そこから現れたのは――
黒い巨大構造体。
生物なのか、機械なのか。
理解できない形状。
全長数百メートル。
観測AIが叫ぶ。
《未知生命体確認。ヴォイドスウォーム》
訓練管制が絶叫する。
「全機帰投!!敵だ!!」
候補生たちは混乱した。
訓練艇では勝てない。
逃げるしかない。
だがソラは、敵を見つめていた。
「……あれが」
彼女は小さく呟く。
「ヴォイドスウォーム。」
そのとき、宇宙ステーションの格納庫で、ある機体が自動起動する。
極秘兵器。
試作機。
人類初の重力兵器。
グラビティフレーム。
型式番号――
GF-01
機体名――
NOVA。
格納庫AIが警告を出す。
《適合パイロット検索》
《重力適性照合》
《候補者発見》
その名前は――
アマミヤ・ソラ。
次の瞬間。
格納庫の巨大ハッチが開く。
白と蒼の巨人が、ゆっくりと宇宙へ姿を現した。
ソラの訓練艇の前に。
通信が入る。
「え……なにこれ?」
AIが答える。
《GF-01 NOVA。パイロットを要求しています》
「パイロット?」
数秒の沈黙。
ソラは笑った。
「面白そうじゃん。」
彼女は言った。
「やろう。」
こうして――
宇宙の運命を変える戦いが始まる。
そしてこの少女は、まだ知らない。
自分がいつか、
宇宙そのものを支える存在になることを。




