第9話 「先生がくれた、あの日の真実」
月曜日。
仕事帰りの夕方。
ユウキのスマートフォンが震えた。
マミ
『今週の金曜日、時間ある?』
すぐに返信する。
ユウキ
『あるよ!』
既読は一瞬だった。
マミ
『高校の数学の先生が、卒業生を集めてご飯に行こうって誘ってくれたの♪』
ユウキは思わず笑う。
(数学の先生……。)
「あの先生か。」
高校一年生の担任でもあり、授業中に何度も二人をからかっていた先生。
『お前ら、本当に仲いいな。』
『付き合っちゃえばいいのに。』
そんな言葉を何度も言われたことを思い出す。
金曜日。
居酒屋の個室。
そこには数学教師だった
佐伯先生が座っていた。
五十代半ば。
少し白髪は増えたものの、優しい笑顔は高校時代のままだった。
「おお!」
「ユウキ!」
「マミ!」
「久しぶり!」
「先生!」
二人は笑顔で頭を下げる。
「元気そうだな。」
「はい。」
「先生もお変わりなく。」
「変わったよ。」
「体重が十キロ増えた。」
「ははは!」
三人で笑う。
料理が運ばれ、昔話が始まる。
「覚えてるか?」
先生がビールを飲みながら笑う。
「お前らの席。」
「もちろんです。」
「前後でした。」
「毎日うるさかった。」
「すみません。」
ユウキが苦笑する。
「いや。」
「見てて面白かった。」
「お互い好きなの丸分かりだったからな。」
その言葉に。
ユウキとマミが同時に固まる。
「え?」
「先生。」
「分かってたんですか?」
「当たり前だ。」
先生は笑う。
「教師を何年やってると思ってる。」
「ユウキ。」
先生は指をさす。
「マミが振り向くだけで顔赤くしてた。」
「うっ……。」
「マミ。」
「はい。」
「ユウキが休む日は、一日中元気なかった。」
「えっ!」
マミが顔を真っ赤にする。
「そ、そんなこと……。」
「毎回だったぞ。」
「先生は全部見てた。」
マミは恥ずかしそうに両手で顔を隠した。
「やだ……。」
「恥ずかしい……。」
ユウキも耳まで真っ赤だった。
先生は笑いながら続ける。
「文化祭も覚えてる。」
「お前ら。」
「お互い誘おうとしてたろ?」
「……え?」
「ユウキは職員室の前まで来て。」
『先生。』
『女子を文化祭に誘うタイミングってありますか?』
「って聞いてきた。」
「えぇぇぇ!?」
マミが驚く。
ユウキは頭を抱えた。
「先生!」
「それ言わない約束だったじゃないですか!」
「約束した覚えはない。」
豪快に笑う先生。
「それで。」
先生は今度はマミを見る。
「マミも相談に来た。」
『先生。』
『男子って、文化祭誘われたら迷惑ですか?』
ユウキは目を見開く。
「本当に?」
「……うん。」
マミは照れながら頷く。
「先生に相談した。」
「じゃあ……。」
二人は同時に笑ってしまう。
「なんで誘わなかったんだろ。」
「ほんとに。」
先生は大笑いしていた。
「青春ってそういうもんだ。」
食事も終盤。
先生は少し真面目な表情になる。
「実はな。」
「今日は二人だけ呼んだ理由がある。」
「理由?」
「うん。」
先生は静かに言った。
「教師をやってると。」
「卒業してから結婚報告に来る教え子も多い。」
「でも。」
「ずっと心残りだった。」
先生は優しく二人を見る。
「お前らは。」
「両思いなのに。」
「一歩踏み出せなかった。」
「それだけが、ずっと気になってた。」
個室が静かになる。
「だから。」
先生は笑う。
「もう後悔するな。」
「高校生じゃない。」
「社会人だ。」
「好きなら好きって言え。」
「それだけだ。」
帰り道。
駅まで先生を見送る。
「じゃあな!」
「また飯行こう!」
「はい!」
「ありがとうございました!」
先生は手を振りながら去っていった。
駅前。
夜風が気持ちいい。
ユウキとマミは並んで歩く。
「恥ずかしかったね。」
「全部バレてた。」
「先生すごい。」
「ほんと。」
少し笑い合う。
やがて。
マミが静かに言った。
「ユウキ。」
「ん?」
「先生の言う通りだね。」
「後悔したくない。」
「……うん。」
「私も。」
その言葉だけで十分だった。
二人は自然と歩幅を合わせる。
そして。
駅のホームへ向かう階段の前で。
マミは少しだけ勇気を出すように深呼吸をした。
「ユウキ。」
「次に会う時。」
「私から、大事な話があるの。」
その真剣な表情に、ユウキも静かに頷く。
「分かった。」
「ちゃんと聞く。」
マミは安心したように微笑んだ。
その「大事な話」が、二人の関係を決定的に変えるものになるとは、まだ誰も知らない。
――第10話「初恋に、答えを」へ続く。
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