第7話 「ライバル出現」
「それでは、本日はよろしくお願いいたします。」
会議室の扉が閉まる。
ユウキは自社の営業担当として。
マミと黒川はOA機器メーカーの営業担当として。
偶然にも、同じ商談の席につくことになった。
(まさか仕事で一緒になるなんて……。)
ユウキは内心驚きながらも、表情には出さない。
営業マンとしてのスイッチが入る。
商談は一時間ほどで終了した。
取引先の担当者は満足そうに頷く。
「ぜひ前向きに検討させていただきます。」
「ありがとうございます。」
三人は名刺を交換し直し、会社を後にした。
ビルを出たところで、黒川が口を開く。
「ユウキさん。」
「はい。」
「営業、すごく分かりやすかったです。」
「ありがとうございます。」
「勉強になりました。」
爽やかな笑顔。
嫌味は一切ない。
好青年そのものだった。
だからこそ、ユウキは少し複雑だった。
駅まで歩く途中。
黒川は自然にマミの隣へ並ぶ。
「マミさん。」
「今日のお昼、一緒にどうです?」
「近くに美味しい定食屋あるんですよ。」
マミは少し困ったように笑った。
「ごめんね。」
「今日はユウキと少し話したいから。」
黒川の笑顔が一瞬だけ止まる。
「……そうですか。」
「また今度お願いします。」
「うん。」
黒川は穏やかに微笑む。
「では僕は会社へ戻ります。」
「お疲れさまでした。」
「お疲れ。」
軽く会釈すると、その場を離れていった。
黒川の姿が見えなくなると、マミは小さく息をつく。
「ごめんね。」
「え?」
「気まずくなっちゃったかな。」
「いや。」
ユウキは首を振る。
「でも。」
「黒川くん。」
「マミのこと好きなんじゃない?」
マミはきょとんとした。
「え?」
「そんなわけないよ。」
「いや。」
「絶対そうだと思う。」
「営業部のみんなに優しいし。」
「私だけじゃないよ。」
(……やっぱり鈍感だ。)
高校時代と何も変わっていない。
ユウキは苦笑した。
近くのカフェへ入る。
ランチを注文し、窓際の席に座る。
「仕事どう?」
マミが聞く。
「毎日忙しい。」
「営業って数字との戦いだから。」
「マミも?」
「うん。」
「今月あと三件契約取らないと。」
「大変だ。」
「でも楽しいよ。」
そう話すマミは、本当に楽しそうだった。
高校時代よりずっと大人になった。
でも、人を笑顔にするその明るさだけは変わらない。
「そういえば。」
マミがストローをくるくる回す。
「ユウキ。」
「ん?」
「高校の時。」
「私のこと好きだったって言ってくれたでしょ?」
「……うん。」
「今は?」
ユウキの手が止まる。
突然すぎる質問だった。
「今も。」
自然と言葉が出た。
「好き。」
マミは目を丸くする。
ユウキ自身も驚いていた。
勢いだった。
でも。
嘘ではない。
「ご、ごめん。」
「急に。」
「いや。」
マミは顔を赤くしながら俯く。
「嬉しい。」
小さな声だった。
「でも。」
「私たち、まだ再会して二日しか経ってないよ?」
「そうだね。」
「だから。」
「もう少しだけ。」
「今のユウキを知りたい。」
「私のことも知ってほしい。」
その言葉に、ユウキは優しく笑った。
「分かった。」
「焦らない。」
「ありがとう。」
マミも笑う。
その頃。
会社へ戻った黒川は、営業部の先輩に声をかけられていた。
「どうした?」
「元気ないじゃん。」
黒川は苦笑する。
「実は。」
「マミさんの高校の同級生に会いまして。」
「へぇ。」
「なんか。」
「勝てる気がしないんですよね。」
先輩は笑う。
「初恋ってやつか。」
「え?」
「女の勘ならぬ、おじさんの勘だ。」
「マミさん。」
「その人を見る目が違った。」
黒川は静かに窓の外を見た。
「……まだ諦めません。」
その瞳には、静かな決意が宿っていた。
夜。
仕事を終えたユウキは、自宅のソファでスマホを見つめていた。
マミとのトーク画面。
今日は何を送ろうか。
そんなことを考えているだけで楽しい。
すると。
先に通知が届いた。
マミ
『今日は仕事で会えるなんて思わなかった♪』
ユウキは笑いながら返信する。
ユウキ
『俺もびっくりした。またどこかで偶然会うかもね。』
数秒後。
マミ
『今度は偶然じゃなくて、約束して会いたいな。』
その一文を見たユウキの胸が熱くなる。
彼はゆっくりと返信を打った。
『じゃあ今週の土曜日、どこか出かけよう。』
既読が付く。
しかし、返事はまだ来ない。
数分後。
スマホが震えた。
『うん。楽しみにしてる♪』
その約束が、二人にとって初めての「デート」になることを、この時のユウキはまだ知らなかった。
――第8話「はじめての休日デート」へ続く。
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