第5期 第10話 「ようこそ、陽菜」
出産から五日後。
病院の窓から差し込む朝日が、病室をやさしく照らしていた。
ベビーベッドでは、小さな寝息を立てる陽菜。
「すやすや寝てる。」
マミが穏やかに微笑む。
ユウキもベッドをのぞき込み、小さく笑った。
「寝顔は天使だな。」
「起きてる時も天使だよ。」
「もちろん。」
二人は顔を見合わせて笑った。
午前十時。
退院の日。
看護師が最後の説明を終える。
「ご退院、おめでとうございます。」
「ありがとうございます。」
マミは陽菜をそっと抱き、病院の玄関を出た。
秋の風がやさしく頬をなでる。
「初めてのお外だね。」
ユウキが小さく話しかける。
陽菜は眠ったまま、小さく口を動かした。
「家に帰ろう。」
「三人で。」
車の中。
チャイルドシートに座る陽菜を、二人は何度もバックミラーで確認してしまう。
「大丈夫かな。」
「寝てるよ。」
「本当に?」
「さっきから五回見てる。」
「そんなに?」
「七回。」
「増えてる。」
二人は笑い合った。
玄関のドアが開く。
「ただいま。」
ユウキが言う。
マミも続ける。
「ただいま。」
そして、小さな声で。
「陽菜。」
「ここがおうちだよ。」
リビングへ入る。
数か月前に組み立てたベビーベッド。
白いうさぎのぬいぐるみ。
桜柄の肌着。
すべてが、この日のために待っていた。
陽菜をベッドへ寝かせる。
「ようこそ。」
「私たちのおうちへ。」
午後。
インターホンが鳴る。
「来た。」
玄関には、両家の両親が立っていた。
「おじゃまします。」
「待ちきれなかった。」
祖父母たちは少し緊張しながら部屋へ入る。
「この子が。」
「陽菜ちゃん。」
ユウキの母は目を潤ませた。
「かわいい……。」
マミの父も、そっと顔をのぞき込む。
「こんにちは。」
「おじいちゃんですよ。」
その声に反応したように、陽菜が小さく目を開けた。
「起きた!」
「見てる!」
部屋中が笑顔に包まれる。
ユウキの父が静かに言う。
「抱っこしてもいいか?」
「もちろん。」
慣れない手つきで陽菜を抱き上げる。
「軽いな。」
「でも。」
「命の重みを感じる。」
その言葉に、みんなが静かにうなずいた。
マミの母は、小さな靴下をプレゼントした。
「少し大きくなったら履いてね。」
マミは受け取りながら笑う。
「ありがとう。」
「陽菜。」
「みんなに愛されてるね。」
夕方。
祖父母たちが帰る。
「また来るね。」
「いつでも。」
玄関で見送ったあと。
リビングには、三人だけの静かな時間が戻ってきた。
「ねぇ。」
マミがソファに座りながら言う。
「本当に家族になったね。」
ユウキは陽菜を見つめる。
「高校一年生の頃。」
「こんな未来。」
「想像できなかった。」
「私も。」
「でも。」
「ちゃんと。」
「ここまで来られた。」
二人は自然と手をつないだ。
その時。
「ふぇ……。」
陽菜が小さく泣き始めた。
「起きた。」
ユウキは少し慌てる。
「おむつかな。」
「それともお腹すいた?」
マミは笑いながら立ち上がる。
「一緒にやろう。」
「うん。」
二人で陽菜のそばへ向かう。
ぎこちない。
でも、温かい。
そんな三人だけの時間が始まった。
夜。
陽菜が眠ったあと。
リビングには静かな時間が流れる。
ユウキはフォトフレームを見つめた。
高校一年生のクラス写真。
文化祭。
プロポーズ。
結婚式。
新婚旅行。
エコー写真。
そして今日。
三人で撮った最初の家族写真。
「また一枚。」
「宝物が増えた。」
マミが微笑む。
「これから毎年。」
「増えていくね。」
窓の外には、満天の星空。
ユウキは小さくつぶやいた。
「ありがとう。」
「花園高校。」
「ありがとう。」
「佐伯先生。」
「あの日。」
「勇気を出して本当に良かった。」
マミは隣で優しく笑う。
「私も。」
「また来年。」
「結婚記念日に。」
「三人で母校へ行こう。」
「うん。」
「約束。」
眠る陽菜の小さな手を、ユウキとマミがそっと包む。
三つの手が重なった。
恋人だった二人は夫婦になり、そして父と母になった。
そのぬくもりは、新しい幸せの始まりを静かに物語っていた。
――第11話「はじめてのクリスマス」へ続く。
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