第4期 第13話 「幸せの、その先へ」
新婚旅行から帰ってきた翌日。
夕暮れ。
久しぶりの我が家。
玄関のドアを開ける。
「ただいま。」
マミが笑顔で言う。
ユウキも自然に返す。
「おかえり。」
夫婦になってから、この何気ないやり取りが少しだけ特別に感じる。
荷物を片付け終え、二人はソファへ腰を下ろした。
「旅行、楽しかったね。」
「うん。」
「また行こう。」
「何十回でも。」
二人は笑い合った。
ふとユウキが、本棚の上に置いてあった一通の封筒を手に取る。
「あ。」
「佐伯先生の。」
結婚式のリハーサルの日に渡された封筒。
『結婚式が終わってから読め』
そう言われていた手紙だった。
「開けようか。」
「うん。」
二人は並んで座り、ゆっくりと封を開く。
中には、一枚の便箋。
先生らしい、少し丸みのある字で書かれていた。
『ユウキ、マミへ。』
『結婚、おめでとう。』
『教師という仕事を長く続けてきたが、生徒から結婚式に招待されることは何度もあった。』
『でも、お前たち二人は少し特別だ。』
マミは静かに読み進める。
『高校一年生。』
『数学の授業中、お前たちはよく話していた。』
『注意しようと思って近付くたび、お互いを見る目がとても優しかった。』
『だから私は、つい言ってしまった。』
『"お似合いですね"と。』
ユウキは思わず笑う。
「あの日だ。」
「懐かしいね。」
マミも笑いながら頷いた。
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『人は遠回りをする。』
『失敗もする。』
『好きなのに伝えられないこともある。』
『でも、遠回りした時間は決して無駄ではない。』
『その時間が、人を優しくする。』
『お前たちを見て、それを教えてもらった。』
二人とも、言葉を失った。
『これから夫婦になる二人へ、一つだけ宿題を出す。』
『毎年、結婚記念日に高校へ来なさい。』
『あの教室を見て、初心を思い出しなさい。』
『ケンカした年も。』
『笑顔だった年も。』
『必ず二人で来なさい。』
『それが、お前たちへの最後の宿題だ。』
最後の一文。
『幸せは、完成するものではない。』
『毎日、二人で作り続けるものだ。』
『数学教師 佐伯』
読み終えたあと。
しばらく誰も話さなかった。
静かな部屋。
窓から夕日が差し込んでいる。
マミが小さく涙をぬぐった。
「先生らしいね。」
「うん。」
ユウキも目を潤ませながら笑う。
「最後まで宿題だった。」
「約束しよう。」
ユウキが静かに言う。
「毎年。」
「結婚記念日に。」
「花園高校へ行こう。」
マミは迷わず頷いた。
「うん。」
「約束。」
二人は小指を絡めた。
高校一年生の頃から変わらない約束の仕方だった。
数日後。
休日。
二人は花園高校を訪れた。
夏休みに入った校舎は静かだった。
許可をもらい、一年一組の教室へ入る。
「変わらないね。」
前から二列目。
窓際。
マミが座る。
その後ろ。
ユウキが座る。
高校一年生と同じ席。
「ねぇ。」
マミが振り返る。
「ユウキ。」
「ん?」
「好き。」
一瞬、高校時代に戻ったような気がした。
ユウキは照れながら笑う。
「俺も。」
「ずっと好き。」
二人は笑い合った。
教室を出る前。
黒板に残されていたチョークで、ユウキが小さく書く。
『ありがとう、花園高校。』
その横にマミが続ける。
『また来ます。』
二人は黒板へ一礼して教室を後にした。
夕暮れ。
校門を出る。
桜の木は青々と葉を茂らせている。
「春じゃなくても。」
「ここは特別だね。」
「うん。」
「私たちの始まりだから。」
ユウキはマミの手を優しく握る。
「帰ろう。」
「俺たちの家へ。」
「うん。」
「ただいまって言える場所へ。」
二人は並んで歩き始めた。
その背中を、夏の優しい風がそっと押していた。
高校一年生。
前後の席で始まった初恋。
すれ違い。
再会。
遠距離恋愛。
同棲。
プロポーズ。
結婚。
そして夫婦へ。
物語はここで一区切りを迎える。
けれど。
人生という物語は、まだ始まったばかり。
笑う日も。
泣く日も。
迷う日も。
二人なら、きっと大丈夫。
手をつないで歩いていける。
そう信じられる未来が、そこにはあった。
「ただいま。」
「おかえり。」
その何気ない言葉が、二人にとって世界で一番幸せな言葉になった。
――第4期 完――
エピローグ
そして一年後。
二人は約束通り結婚記念日に花園高校を訪れる。
その時、マミはユウキへ、小さく微笑みながらこう告げる。
「ユウキ。」
「家族が増えるよ。」
驚きと喜びに包まれるユウキ。
新しい命。
新しい季節。
二人の物語は、恋愛物語から「家族の物語」へと続いていく。
――第5期『そして、家族になる』へ続く。




