第4期 第12話 「朝焼けに誓う未来」
新婚旅行二日目。
午前四時三十分。
まだ夜明け前の静かなホテル。
「起きられる?」
ユウキが小さな声で尋ねる。
「もちろん。」
マミは眠そうに笑いながらも、しっかりと頷いた。
今日は早朝限定のサンライズクルーズ。
二人にとって、夫婦になって初めて迎える特別な朝だった。
港へ向かう。
空はまだ濃い藍色。
波は穏やかで、船は静かに出航した。
デッキへ出ると、ひんやりとした潮風が頬をなでる。
「寒くない?」
ユウキが自分の薄手のジャケットをマミの肩へそっと掛ける。
「ありがとう。」
マミは少し照れながら笑った。
「高校の頃から。」
「こういうところ変わらないね。」
「そう?」
「困ってる人を見ると放っておけない。」
「それがユウキ。」
ユウキは照れくさそうに笑った。
「昔からマミには見抜かれてるな。」
船はゆっくりと沖へ進む。
東の空が少しずつ赤く染まり始める。
「きれい……。」
マミが息をのむ。
水平線の向こうから、一筋の光が差し込む。
やがて。
太陽がゆっくりと姿を現した。
黄金色の光が海一面を照らしていく。
「すごい。」
ユウキも思わず見入る。
言葉はいらなかった。
ただ隣にいる人と、この景色を見られることが幸せだった。
「ねぇ。」
マミが静かに口を開く。
「高校一年生の春。」
「席が前後じゃなかったら。」
「私たち。」
「どうなってたかな。」
ユウキは少し考えて笑った。
「きっと。」
「どこかでまた出会ってた。」
「そんな気がする。」
「運命って?」
「大げさかもしれない。」
「でも。」
「今こうして夫婦になってることを考えると。」
「偶然だけじゃ説明できない。」
マミは優しく頷いた。
「私も。」
クルーズの終盤。
スタッフが記念撮影をしてくれる。
「新婚さん、こちらを向いてくださーい。」
「はい。」
二人は顔を見合わせる。
「笑ってください。」
「もう十分笑ってます。」
ユウキがそう言うと、スタッフも笑った。
シャッターが切られる。
朝日に照らされた二人の笑顔が、一枚の写真に残った。
ホテルへ戻る途中。
海辺の小さなカフェに立ち寄る。
テラス席からは、朝の海が見えていた。
焼きたてのパンとコーヒー。
「朝ご飯がおいしい。」
マミが幸せそうに笑う。
「旅行だからかな。」
「いや。」
ユウキは首を横に振る。
「誰と食べるか、だよ。」
その一言に、マミは少し頬を赤らめた。
「そういうこと、さらっと言うようになったよね。」
「昔は言えなかった。」
「成長しました。」
「認めます。」
二人は笑い合う。
午後。
お土産屋を歩いていると、小さなフォトフレームが目に入る。
貝殻で飾られた、海をイメージしたデザインだった。
「これ。」
マミが手に取る。
「結婚式の写真を飾りたい。」
「いいね。」
ユウキも気に入り、その場で購入した。
「家に帰ったら。」
「高校の写真の隣に飾ろう。」
「うん。」
「私たちの歴史がまた一つ増える。」
夕方。
ホテルのベランダ。
夕日が海へゆっくり沈んでいく。
「今日も終わるね。」
マミがユウキの肩にもたれる。
「うん。」
「でも。」
「帰ったらまた仕事だ。」
「現実だね。」
「でも。」
ユウキは笑う。
「帰る家がある。」
「『ただいま』って言える場所がある。」
「それだけで頑張れる。」
マミも微笑む。
「私も。」
夜。
荷物をまとめながら、マミが小さく言った。
「新婚旅行。」
「終わっちゃうね。」
「少し寂しい。」
「でも。」
ユウキはスーツケースを閉じながら答える。
「旅行は終わるけど。」
「新婚生活は。」
「これから毎日続く。」
マミは嬉しそうに笑った。
「そうだね。」
「毎日が、新しい思い出だ。」
翌朝。
チェックアウトを終えた二人は、もう一度ホテルを振り返る。
「また来よう。」
ユウキが言う。
「何年後?」
「十年後。」
「その時も。」
「手をつないで来よう。」
マミは笑顔で頷いた。
「約束。」
二人は指切りを交わし、空港へ向かう。
新婚旅行は終わる。
けれど、夫婦としての旅は、まだ始まったばかりだった。
そして自宅へ戻った二人を待っていたのは、一通の封筒。
差出人は――佐伯先生。
結婚式が終わってから読むようにと託された、あの日の手紙だった。
――最終話「幸せの、その先へ」へ続く。
第4期最終話では、佐伯先生の手紙が明かされ、高校一年生から始まった初恋の物語が一つの大きな完結を迎えます。




