第4期 第6話 「誓いの指輪」
六月。
結婚式まで、あと一か月半。
仕事を終えた土曜日の午後。
ユウキとマミは、静かなジュエリーショップを訪れていた。
店内には、柔らかな音楽が流れている。
ガラスケースの中には、さまざまな結婚指輪が並んでいた。
「きれい……。」
マミが小さくつぶやく。
「どれも素敵。」
ユウキもケースを眺めながら笑う。
「迷いそうだな。」
「本日は結婚指輪をご覧になりますか?」
スタッフが笑顔で迎えてくれる。
「はい。」
「婚約指輪と重ねづけできるデザインをご希望でしたら、こちらも人気ですよ。」
何種類ものリングがテーブルに並べられた。
シンプルなもの。
細身のもの。
つや消し加工のもの。
ダイヤが一粒入ったもの。
「全部いいね。」
「決められない。」
マミは困ったように笑った。
「一度、着けてみましょう。」
スタッフに勧められ、マミは一本目を指にはめる。
「どう?」
ユウキは少し考える。
「きれい。」
「でも。」
「もう少しシンプルな方がマミらしい。」
「私もそう思う。」
二人の意見は自然と重なった。
今度はユウキ。
「こちらはいかがでしょう。」
シンプルなプラチナリング。
左手の薬指にはめる。
「似合う。」
マミが即答した。
「本当に?」
「うん。」
「営業のスーツにも合う。」
「そこまで考えてるの?」
「もちろん。」
「毎日着けるものだから。」
ユウキは照れながら笑った。
いくつか試したあと。
最後に一本のリングを手に取る。
余計な装飾のない、なめらかなプラチナリング。
内側には好きな文字を刻印できるという。
「これ。」
マミがユウキを見る。
「好き。」
「俺も。」
ほぼ同時だった。
二人は顔を見合わせて笑う。
「決まりだね。」
「刻印はいかがなさいますか?」
スタッフが尋ねる。
マミは少し考える。
「日付だけでもいいかな。」
ユウキは首を横に振った。
「一つだけ。」
「言葉を入れたい。」
「どんな?」
少し照れながら答える。
『Always Together』
「いつも、一緒に。」
マミはその言葉を聞いて微笑んだ。
「いいね。」
「私たちらしい。」
「じゃあ。」
「それにしよう。」
注文を終え、店を出る。
夏の夕暮れ。
オレンジ色の光が街を包んでいた。
「あと一か月で出来上がるんだ。」
「うん。」
「その頃には。」
「結婚式もすぐだね。」
マミは少しだけ緊張したように笑う。
「だんだん実感してきた。」
帰り道。
いつもの公園へ立ち寄る。
ベンチに並んで座る。
「ねぇ。」
マミが静かに言う。
「婚約指輪をもらった日。」
「覚えてる?」
「もちろん。」
「あの日。」
「プロポーズされて。」
「夢みたいだった。」
ユウキは微笑む。
「俺は。」
「返事を聞くまで心臓が止まりそうだった。」
「そんなに?」
「高校一年の告白より緊張した。」
「高校一年は告白してないけど。」
「そうだった。」
二人は声を出して笑った。
少し笑いが落ち着いたあと。
ユウキは真剣な表情になる。
「マミ。」
「ん?」
「結婚しても。」
「今までと変わらない約束をしたい。」
「約束?」
「嬉しいことは二人で喜ぶ。」
「悲しいことは半分こにする。」
「困ったら話し合う。」
「そして。」
「毎日。」
「『おはよう』と『おかえり』を大切にする。」
マミは目を潤ませながら頷いた。
「うん。」
「全部。」
「約束。」
「私も。」
「ユウキが疲れて帰ってきた日は。」
「ちゃんと笑顔で迎える。」
「でも。」
「無理して笑わない。」
「辛い時は。」
「ちゃんと『辛い』って言う。」
ユウキは優しく頷いた。
「その方が嬉しい。」
夜。
家へ帰る。
リビングには、結婚式の準備リストが貼られていた。
・結婚指輪 ✓
・式場 ✓
・衣装 ✓
・招待状 ✓
残る項目はあと少し。
「順調だね。」
「うん。」
マミはリストを見つめながら笑った。
「でも。」
「一番大事な準備は。」
「何?」
「当日。」
「笑顔でいること。」
ユウキも笑う。
「それなら。」
「もう準備できてる。」
二人は顔を見合わせて笑い合った。
数日後。
チャペルから一本の電話が入る。
「来月、最終リハーサルを行います。」
「ご家族にもご参加いただけます。」
いよいよ。
結婚式は、目前まで近づいていた。
そして、そのリハーサルで、佐伯先生が二人へ思いがけない贈り物を用意していることを、まだ誰も知らなかった。
――第7話「先生からの贈り物」へ続く。
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