第4期 第5話 「大切な人たちへ」
六月。
結婚式まで、あと二か月。
リビングのテーブルには、真新しい招待状が並んでいた。
白い封筒に金色の文字。
二人の名前が並ぶ、その一枚一枚には、これまで支えてくれた人たちへの感謝が込められていた。
「いよいよだね。」
マミが一通の招待状を手に取り、優しくなでる。
「うん。」
ユウキも静かに頷いた。
「今日は大切な人たちに届けよう。」
最初に向かったのは花園高校だった。
休日だったが、部活動の声がグラウンドから聞こえてくる。
校舎へ入ると、職員室から聞き慣れた声がした。
「おっ!」
「ユウキ! マミ!」
「佐伯先生。」
「お久しぶりです。」
先生は二人の左手を見て、すぐに気づいた。
「おぉ……。」
「その指輪。」
「ついに婚約したんだな。」
「はい。」
二人が笑顔で答えると、先生は目を細めた。
「本当に、おめでとう。」
応接室でお茶を飲みながら、高校時代の話に花が咲く。
「先生。」
ユウキが一枚の招待状を差し出した。
「ぜひ、結婚式に来てください。」
佐伯先生は封筒を受け取り、しばらく黙って見つめていた。
「まさか。」
「数学の授業で『お似合いですね』なんて言った二人の招待状を受け取る日が来るとはな。」
先生は少し笑いながらも、目元を潤ませる。
「必ず行く。」
「最前列で見届ける。」
「ありがとうございます。」
その帰り道。
野球部のグラウンドの前でユウキが立ち止まる。
「懐かしい。」
「毎日ここで走ってた。」
「夕方まで練習して。」
「そのあと教室で、マミと少し話せる時間が楽しみだった。」
マミは驚いたように笑う。
「そんなこと考えてたの?」
「当時は言えなかったけど。」
「今なら言える。」
二人は照れながら笑い合った。
午後。
高校時代の友人たちが集まるカフェへ向かう。
「おーい!」
野球部の仲間たちが手を振る。
「久しぶり!」
「元気だった?」
学生時代と変わらない空気。
「あれ?」
一人の友人がユウキの左手を見る。
「指輪?」
「婚約した。」
一瞬静まり返ったあと。
「おおおおーーっ!」
店中に歓声が響いた。
「ついにか!」
「高校時代から応援してたぞ!」
「結婚式、絶対行く!」
みんなが口々に祝福してくれる。
「そういえば。」
友人の一人が笑う。
「高校一年の頃、お前。」
「マミさんのこと好きなのバレバレだったぞ。」
「え?」
ユウキは目を丸くする。
「本人だけ気付いてなかった。」
「うそだろ。」
「昼休みになると、教室へ戻るの早かったし。」
「席替えのたびに落ち込んでたじゃん。」
周囲は大笑い。
マミも笑いながら言う。
「知らなかった。」
「俺だけだったのか……。」
「鈍感すぎ。」
友人たちの笑い声が響いた。
夕方。
最後に訪れたのは、小さなカフェだった。
窓際の席には、一人の女性が座っている。
「久しぶり。」
「マユ。」
高校時代、半年だけ付き合った元恋人。
そして、マミの親友。
「二人とも。」
「本当に久しぶり。」
マユは昔と変わらない優しい笑顔を見せた。
三人でコーヒーを飲みながら、高校時代を振り返る。
「不思議だね。」
マユが笑う。
「高校二年生の頃は、こんな未来になるなんて思わなかった。」
「うん。」
マミも頷く。
「私も。」
少しだけ沈黙が流れる。
するとマユが、ふっと笑った。
「実はね。」
「高校の頃から分かってた。」
「え?」
ユウキとマミが同時に声を上げる。
「二人がお互い好きなの。」
「私だけじゃなくて。」
「たぶん、周りのみんな気付いてたよ。」
ユウキは思わず頭を抱える。
「やっぱりか……。」
マユは優しく笑った。
「私ね。」
「ユウキと付き合えた半年は、大切な思い出。」
「でも。」
「今思うと。」
「ユウキの隣にいる人は、最初からマミだったんだと思う。」
マミは静かにマユの手を握る。
「ありがとう。」
「高校の頃も。」
「今も。」
「親友でいてくれて。」
マユは照れくさそうに笑った。
「もちろん。」
「結婚式では泣くかもしれないけど。」
「笑って送り出すから。」
帰り際。
ユウキはマユにも招待状を手渡した。
「来てくれる?」
マユは迷わず頷く。
「もちろん。」
「二人の幸せな姿を見届ける。」
「それが私の役目。」
三人は笑顔で別れた。
夜。
家へ帰った二人は、テーブルの上に残った最後の招待状を見つめていた。
「全部渡せたね。」
「うん。」
「改めて思った。」
マミが静かに言う。
「私たち、本当にたくさんの人に支えられてきたんだね。」
ユウキは頷く。
「だから。」
「結婚式は。」
「ありがとうを伝える日にしたい。」
「うん。」
「二人らしい一日にしよう。」
窓の外では、初夏の風がカーテンを優しく揺らしていた。
結婚式まで、あと二か月。
二人の人生で最も特別な日は、少しずつ近づいていた。
――第6話「誓いの指輪」へ続く。
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