第4期 第3話 「運命のチャペル」
土曜日、午前十時。
「今日は三か所だね。」
「全部回れるかな。」
ユウキとマミは、結婚式場のパンフレットを手に駅へ向かっていた。
一つ目はホテルウェディング。
二つ目はガーデンウェディング。
そして最後が、丘の上にある独立型チャペルだった。
「楽しみ。」
マミは少し緊張しながら笑った。
「俺も。」
最初のホテル。
ロビーは豪華で、天井には大きなシャンデリア。
「すごい。」
「映画みたい。」
スタッフに案内され、披露宴会場へ入る。
広々とした会場。
大きなスクリーン。
上品な装飾。
「素敵だね。」
「うん。」
でも。
帰り道、二人は同じことを思っていた。
「きれいだったけど。」
「私たちらしい感じではなかったかも。」
「俺もそう思った。」
二つ目はガーデンウェディング。
緑に囲まれた会場。
青空の下で行う挙式。
「ここもいいなぁ。」
マミは芝生の上を歩きながら笑う。
「春なら気持ちいいね。」
「でも。」
「雨だったら?」
「確かに。」
スタッフも丁寧に説明してくれたが、二人とも少し迷っていた。
「決め手がないね。」
「うん。」
午後。
最後の式場。
小高い丘の上に建つ白いチャペルだった。
石畳の道。
色とりどりの花。
大きな木製の扉。
「……。」
二人は自然と足を止めた。
「きれい。」
マミが小さくつぶやく。
チャペルの扉がゆっくり開く。
中へ入る。
高い天井。
白いバージンロード。
大きなステンドグラス。
そこから差し込む柔らかな光。
「……。」
誰も言葉を発せなかった。
静かな空間。
それだけで胸が熱くなる。
スタッフが微笑みながら言う。
「もしよろしければ。」
「バージンロードを歩いてみませんか?」
「え?」
「本番を少しだけイメージしていただけます。」
マミは少し照れながらユウキを見る。
「歩いてみる?」
「うん。」
二人は少し距離を空けて立つ。
マミは入口から。
ユウキは祭壇の前へ。
ゆっくり。
一歩ずつ。
歩き始める。
静かなチャペルに足音だけが響く。
ユウキは、少しずつ近づいてくるマミを見つめていた。
高校一年生。
数学の授業。
文化祭での再会。
遠距離恋愛。
同棲。
プロポーズ。
様々な思い出が頭をよぎる。
(ここまで来たんだな。)
自然と胸が熱くなる。
マミも同じだった。
(あの日。)
(勇気が出せなかった私が。)
(今。)
(ユウキのところへ歩いてる。)
涙が少しだけにじむ。
祭壇の前で立ち止まる。
二人は見つめ合った。
スタッフが優しく言う。
「本番では。」
「この場所で、お互いに永遠の誓いを交わします。」
その言葉に、マミは思わずユウキの手を握った。
見学を終え、チャペルの庭へ出る。
風が優しく吹いていた。
「どうだった?」
ユウキが聞く。
マミは迷わず答えた。
「ここがいい。」
「私も。」
「理由は?」
「分からない。」
「でも。」
「入った瞬間に。」
「ここで結婚したいって思った。」
ユウキも笑った。
「俺も同じ。」
スタッフが見積もりを持ってくる。
「ご予算などもございますので。」
「ご検討ください。」
二人は顔を見合わせた。
「ここでお願いします。」
スタッフは驚きながらも笑顔になった。
「ありがとうございます。」
「精いっぱいお手伝いさせていただきます。」
帰り道。
夕焼けに染まる坂道を歩く。
「決まったね。」
「うん。」
「式場。」
「結婚式。」
一つひとつ現実になっていく。
マミは少し立ち止まり、チャペルを振り返った。
「次に来る時は。」
「ウェディングドレスかな。」
ユウキは照れながら笑う。
「俺も。」
「タキシードだ。」
「似合うかな。」
「絶対似合う。」
「マミも。」
「絶対きれいだ。」
マミは少し恥ずかしそうに微笑んだ。
その夜。
家に帰ると、式場から予約確認のメールが届いていた。
件名には、
『ご結婚式のお打ち合わせについて』
と書かれている。
「本当に始まるんだね。」
マミが小さくつぶやく。
ユウキは頷いた。
「次は。」
「衣装選び。」
「一番悩みそう。」
「楽しみ。」
二人はソファで肩を寄せ合いながら、式場の写真をもう一度眺めた。
その白いチャペルは、まるで二人の未来を優しく照らしているようだった。
――第4話「世界で一番きれいな花嫁」へ続く。
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