第4期 第1話 「おかえり、婚約者」
四月。
桜が満開を迎えた朝。
空港の到着ロビーには、多くの人が行き交っていた。
ユウキは少し落ち着かない様子で到着ゲートを見つめている。
三か月。
長いようで短かった時間。
毎日ビデオ通話をしていても、直接会える日を何度も待ちわびてきた。
「もうすぐだ……。」
案内表示が「到着」に変わる。
少しして、自動ドアがゆっくりと開いた。
「ユウキ!」
聞き慣れた声。
その瞬間、ユウキの表情がぱっと明るくなる。
「マミ!」
スーツケースを引いたマミが、小走りで駆け寄ってきた。
二人は自然と向かい合い、笑顔になる。
「ただいま。」
「……おかえり。」
その一言だけで、三か月の距離が消えていくようだった。
「お疲れさま。」
ユウキがスーツケースを受け取る。
「ありがとう。」
「疲れた?」
「少し。」
「でも。」
マミは左手を見つめて微笑んだ。
婚約指輪が春の日差しを受けて小さく輝いている。
「帰ってきたら、一番最初にユウキに会えるって思ってたから。」
「元気だった。」
ユウキも笑った。
「俺も。」
「毎日電話してたのに。」
「やっぱり直接会うのは違うね。」
「うん。」
空港を出る。
桜並木が二人を迎える。
「シンガポールは暑かった?」
「毎日夏だった。」
「じゃあ日本は寒く感じる?」
「少し。」
「でも。」
「この季節、好き。」
マミは舞い落ちる桜の花びらを見上げた。
「高校の入学式も桜だったよね。」
「そうだった。」
「また桜の季節に戻ってきた。」
家へ帰る。
玄関のドアを開ける。
「ただいま。」
マミが少し照れながら言う。
ユウキは笑顔で答えた。
「おかえり。」
久しぶりの我が家。
リビングには、ユウキが飾っていた小さな花が置かれていた。
「え?」
「これ。」
「帰ってくる日に合わせて買った。」
マミは嬉しそうに笑う。
「ありがとう。」
「やっぱり。」
「この家が一番落ち着く。」
夕方。
二人で近所のスーパーへ買い物に行く。
「今日の夕飯は?」
「今日は二人で作ろう。」
「賛成。」
シンガポールで覚えてきた料理をマミが提案する。
「チキンライス作ってみる。」
「楽しみ。」
「失敗しても笑わないでね。」
「焦げても食べる。」
「焦がしません。」
二人は笑いながら食材を選んでいく。
夜。
食卓にはシンガポール風チキンライスとスープが並んでいた。
「いただきます。」
「いただきます。」
一口食べたユウキは目を見開く。
「おいしい!」
「本当?」
「お店みたい。」
「よかった。」
マミはほっとしたように笑った。
「向こうで少し料理教室にも通ったんだ。」
「だからか。」
「腕上げたね。」
「先生が良かったから。」
「俺も習いたい。」
食後。
ソファでくつろぎながら、シンガポールで撮った写真を見る。
高層ビル。
マーライオン。
夜景。
職場の仲間との集合写真。
「すごい経験だったね。」
「うん。」
「大変だったけど。」
「行ってよかった。」
マミは静かに言う。
「ユウキが応援してくれたから。」
「夢を諦めずに済んだ。」
ユウキは首を横に振る。
「頑張ったのはマミだよ。」
しばらくして。
マミが少し照れながら切り出した。
「ねぇ。」
「ん?」
「私たち。」
「婚約したんだよね。」
「うん。」
「なんか。」
「まだ実感ない。」
ユウキは笑う。
「じゃあ。」
テーブルの上に一冊の雑誌を置いた。
表紙には大きく書かれている。
『理想の結婚式ガイド』
「え?」
「帰ってきたら。」
「一緒に見ようと思って。」
マミは目を丸くしたあと、嬉しそうに笑った。
「もう準備してたの?」
「少しずつ。」
「気が早い。」
「今さら?」
二人は顔を見合わせて笑う。
ページをめくる。
チャペル。
ガーデンウェディング。
少人数の式。
海が見える会場。
「どれがいいかな。」
「迷う。」
「でも。」
マミはユウキの肩にもたれた。
「どこでもいい。」
「ユウキと一緒なら。」
ユウキは優しく微笑む。
「俺も。」
「二人らしい式にしよう。」
「うん。」
その夜。
ベッドに入る前。
マミは婚約指輪をそっと眺めた。
「ただいま。」
「おかえり。」
その言葉がまた毎日聞ける。
それだけで十分幸せだった。
そして翌朝。
ユウキの母から一本の電話が入る。
「今度の日曜日。」
「両家で一度食事でもどう?」
いよいよ。
結婚へ向けて、両家の顔合わせの日程が動き始める。
――第2話「家族になる日へ」へ続く。
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