第3期 第13話 「君と歩く、その先の未来」
一月。
冬の澄んだ空気が街を包んでいた。
マミがシンガポールへ出発する日まで、あと三日。
スーツケースはほとんど荷造りを終え、リビングの隅に置かれている。
「いよいよだね。」
マミが少し寂しそうに笑う。
「うん。」
ユウキも微笑み返す。
「三か月なんて、きっとあっという間。」
そう言いながらも、お互い少しだけ寂しさを隠していた。
出発前、最後の休日。
「今日はどこ行くの?」
マミが尋ねる。
「ちょっと付き合って。」
「秘密。」
「またサプライズ?」
「今回は成功させたい。」
「前みたいに名古屋ですれ違わない?」
「今回は大丈夫。」
二人は笑いながら電車に乗った。
着いた場所は、高台にある公園だった。
そこからは街並みが一望できる。
夕方になれば、美しい夕日が見えることで有名な場所だった。
「きれい……。」
マミは景色に見とれる。
「初めて来た。」
「ずっと一緒に来たかった。」
ユウキは静かに言った。
ベンチに並んで座る。
「覚えてる?」
ユウキが口を開く。
「文化祭の日。」
「もちろん。」
「あの日。」
「もし勇気を出してなかったら。」
「今はなかった。」
マミは静かに頷く。
「私も。」
「あの日、『高校時代の続きをしよう』って言えてよかった。」
「高校一年生。」
「遠距離恋愛。」
「同棲。」
「いろんなことがあった。」
ユウキはゆっくりと言葉を続ける。
「嬉しい日も。」
「苦しい日も。」
「全部。」
「マミと乗り越えてきた。」
マミは優しく微笑む。
「うん。」
「全部、一緒だった。」
夕日がゆっくりと沈み始める。
オレンジ色の光が二人を包む。
ユウキはゆっくり立ち上がった。
「マミ。」
「ん?」
深呼吸をする。
少しだけ震える手。
高校一年生の頃、告白できなかった自分を思い出す。
でも、もう逃げない。
ポケットから、小さなリングケースを取り出した。
マミの目が大きくなる。
「え……?」
ユウキはマミの前に立ち、真っすぐ目を見つめた。
「高校一年生の時。」
「本当は、ずっと好きだった。」
「でも。」
「勇気がなくて言えなかった。」
「文化祭で再会して。」
「もう一度チャンスをもらえた。」
「遠距離も。」
「同棲も。」
「全部、マミが隣にいてくれたから頑張れた。」
リングケースを開く。
中には、シンプルなプラチナの指輪が輝いていた。
「マミ。」
「これから先も。」
「嬉しいことも。」
「苦しいことも。」
「笑いながら、一緒に乗り越えていきたい。」
一呼吸置いて、優しく微笑む。
「僕と結婚してください。」
マミの目から、大粒の涙がこぼれた。
言葉にならない。
何度も頷く。
そして、涙をぬぐいながら笑った。
「はい。」
「よろしくお願いします。」
「私も。」
「ずっと。」
「ユウキと一緒に歩いていきたい。」
ユウキはそっと指輪を左手の薬指にはめる。
ぴったりだった。
「似合ってる。」
「ありがとう……。」
マミは涙を流しながら、幸せそうに笑った。
その帰り道。
二人は手をつないで歩く。
左手には新しい指輪。
「高校一年生の私たち。」
マミが空を見上げる。
「今の私たちを見たら。」
「驚くだろうね。」
「たぶん。」
「信じられなくて固まる。」
「うん。」
「でも。」
「ちゃんと伝えてあげたい。」
「未来は大丈夫だよって。」
ユウキも優しく頷く。
「遠回りしたけど。」
「ちゃんと幸せになれるよって。」
三日後。
空港。
マミは婚約指輪を大切そうに見つめていた。
「行ってきます。」
「行ってらっしゃい。」
「帰ってきたら。」
マミは笑顔で言う。
「結婚式の準備、始めようね。」
「もちろん。」
「約束。」
二人は固く手を握り合う。
今度の「またね」は、もう不安ではない。
帰る場所がある。
待っていてくれる人がいる。
そして、その先には「夫婦になる未来」が待っている。
飛行機がゆっくりと滑走路を走り、空へ飛び立つ。
ユウキは空を見上げ、小さく微笑んだ。
「おかえり。」
その言葉を言える日まで、自分も前を向いて歩こう。
高校一年生。
席が前後になった二人。
勇気を出せず、すれ違った初恋。
社会人になって訪れた奇跡の再会。
遠距離恋愛。
同棲。
そして婚約。
少しずつ、一歩ずつ積み重ねてきた時間は、確かな未来へとつながっていた。
二人の恋は、もう「恋人」の物語ではない。
これから始まるのは、「夫婦」になるまでの新しい物語。
――第3期 完――
第4期予告
海外研修を終えたマミが帰国し、いよいよ結婚式の準備がスタート。
式場選び、両家顔合わせ、結婚指輪、新婚旅行、そして結婚式当日。
恋人から婚約者へ、婚約者から夫婦へ。
ユウキとマミの物語は、いよいよクライマックスとなる第4期へ続きます。




