第3期 第9話 「もう一度、あの日の教室へ」
十月。
秋晴れの日曜日。
リビングのテーブルに置かれた一通の封筒を、マミがそっと開いた。
「花園高校からだ。」
中には、創立五十周年記念式典とホームカミングデーの招待状が入っていた。
『卒業生の皆様へ』
『懐かしい母校で、恩師や仲間との再会をお楽しみください。』
マミは招待状を見つめながら微笑む。
「行こう。」
「うん。」
ユウキも迷わず頷いた。
二人の恋がもう一度動き始めた場所へ。
当日。
校門の前。
「懐かしいね。」
「何回見ても、この門を見ると高校生に戻った気分になる。」
校舎は少し新しくなっていた。
それでも、歩くたびに思い出がよみがえる。
「あ。」
マミが立ち止まる。
「ここ。」
「一年生の時、朝いつも待ち合わせみたいになってた場所。」
「偶然だったけどね。」
「うん。」
「でも毎日ちょっと楽しみだった。」
ユウキは照れ笑いを浮かべた。
「俺も。」
一年一組。
あの教室。
扉を開ける。
「……。」
懐かしい空気。
木の机。
黒板。
窓から差し込む午後の日差し。
「席。」
マミが教室の奥を指差す。
「ここ。」
前から二列目。
窓際。
「私。」
「その後ろが俺。」
二人は当時と同じ場所に座った。
「ねぇ。」
マミが後ろを振り返る。
「ユウキ。」
「ん?」
「授業中。」
「毎日話しかけてごめんね。」
「え?」
「先生が黒板向いてる時ばっかり。」
ユウキは笑った。
「全然。」
「嬉しかった。」
「本当に?」
「話しかけてもらえるだけで、一日頑張れた。」
マミは少し驚いた表情を見せる。
「言ってよ。」
「言えるわけない。」
「高校一年生の俺だぞ。」
「確かに。」
二人は声を出して笑った。
その時。
「おーい!」
廊下から聞き覚えのある声。
「佐伯先生!」
「また会ったな。」
数学教師だった佐伯先生は、相変わらず元気だった。
「同棲生活はどうだ?」
「先生、情報早いですね。」
「卒業生ネットワークは侮れないぞ。」
先生は楽しそうに笑った。
「そうだ。」
先生は教卓に立つ。
「せっかくだ。」
「ホームルームでもやるか。」
教室には十数人の卒業生も集まっていた。
「今日のお題。」
『高校時代に言えなかったこと』
教室が少しざわつく。
「順番にな。」
「じゃあマミ。」
「えぇ?」
「先生!」
「ほら。」
「立って。」
マミは恥ずかしそうに立ち上がる。
「私は……。」
少し照れながら話し始める。
「高校一年生の頃。」
「本当は。」
「毎日ユウキと話すのが楽しみでした。」
教室が静かになる。
「授業より楽しみだった日もありました。」
「おい。」
ユウキが苦笑する。
「だから。」
「もっと勇気を出せばよかったって。」
「ずっと思ってました。」
拍手が起こる。
「次。」
「ユウキ。」
「はい。」
ユウキも立ち上がる。
「俺は。」
「高校一年生の頃。」
「マミが好きでした。」
教室から「おぉー!」という声が上がる。
「でも。」
「告白する勇気がありませんでした。」
「だから。」
「文化祭で再会できて、本当によかったです。」
「今は。」
ユウキはマミを見つめる。
「ちゃんと隣にいてくれて、ありがとう。」
教室は大きな拍手に包まれた。
マミは少し目を潤ませながら笑っていた。
イベントが終わり、夕方。
校舎の屋上が特別に開放されていた。
二人はフェンス越しに街を眺める。
「夕焼け、きれい。」
「うん。」
風が優しく吹き抜ける。
「高校生の頃。」
マミが静かに言う。
「未来なんて全然見えなかった。」
「俺も。」
「でも今は。」
「未来が楽しみ。」
ユウキは頷いた。
「一緒だから。」
「うん。」
帰ろうとした時。
一年一組の黒板に、一枚のメッセージカードが貼られていることに気付く。
『未来の自分へ』
来場した卒業生が自由に書ける企画だった。
「書こうか。」
「うん。」
ユウキはペンを取る。
『これからも、大切な人を笑顔にできる自分でいたい。』
マミは少し考えてから書いた。
『十年後も、今日と同じように隣で笑っていますように。』
二人はカードを並べて貼る。
その二枚は、偶然にも隣同士になった。
「また隣だ。」
「高校一年生みたい。」
二人は顔を見合わせ、自然と笑った。
帰り道。
校門を出る前に、二人は一度だけ振り返る。
「ありがとう。」
ユウキが小さくつぶやく。
「あの日の教室。」
「あの日の席。」
「あの日の出会い。」
そのすべてがあったから、今がある。
マミはそっとユウキの手を握った。
「次にここへ来る時は。」
「もっと未来の私たちだね。」
「きっと。」
「その時も、一緒に来よう。」
「約束。」
二人は夕暮れの坂道を並んで歩き始めた。
しかし、その数日後。
ユウキの会社で新たな大型プロジェクトが始動し、同時にマミの会社でも海外研修の候補者選考が始まる。
二人の未来は、また新しい選択を迎えようとしていた。
――第10話「未来へ続くチャンス」へ続く。
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