第3期 第8話 「初めての手料理大作戦!」
土曜日、午前九時。
休日の朝。
「おはよう。」
「おはよう。」
リビングには穏やかな空気が流れていた。
朝食を食べ終え、マミが食器を片付けようとした時だった。
「今日は。」
ユウキがエプロンを手に取る。
「約束だから。」
「夕飯は俺が作る。」
マミは目を丸くした。
「本当に?」
「うん。」
「料理担当三割の初仕事。」
「楽しみ!」
そう言って笑ったものの、少しだけ不安そうでもあった。
「キッチン、爆発させないでね?」
「しない。」
「たぶん。」
「たぶん?」
二人は顔を見合わせて笑った。
午前十時。
近所のスーパー。
「まずは献立。」
ユウキはスマートフォンでレシピを見ながら考える。
「何作るの?」
「ハンバーグ。」
「おぉ!」
「この前作ってくれたから。」
「今日は俺が。」
マミは少し後ろから見守ることにした。
「口は出さない。」
「でも。」
「危なそうだったら助ける。」
「先生お願いします。」
買い物を終え、新居へ戻る。
エプロン姿のユウキは、まるで営業のプレゼン前のように真剣な顔をしていた。
「まずは玉ねぎ。」
包丁を持つ。
「よし。」
トントントン……
「いてっ!」
「大丈夫!?」
「指じゃない。」
「玉ねぎが目にしみる。」
「まだ切ってないのに?」
「気持ちの問題。」
マミは笑いをこらえきれなかった。
「パン粉は……。」
「牛乳。」
「ひき肉。」
レシピを何度も確認しながら、慎重に混ぜていく。
「こんな感じ?」
「うん。」
「いいと思う。」
「思う?」
「たぶん。」
「先生も『たぶん』なんだ。」
二人とも笑った。
いよいよ焼き始める。
ジュワァァ……
「おぉ!」
香ばしい音が響く。
「いい感じ!」
ユウキは少し得意そうだった。
しかし。
「……。」
「ユウキ。」
「ん?」
「裏返すタイミング。」
「今?」
「もう少し。」
「え。」
「いや。」
「今!」
「どっち!?」
慌ててひっくり返す。
少しだけ形が崩れた。
「……。」
「……。」
「これは。」
「手作り感。」
「便利な言葉だね。」
また笑い声が響く。
夕方。
テーブルには料理が並んでいた。
少し形のいびつなハンバーグ。
コンソメスープ。
サラダ。
そして、少し焦げ目のついたポテト。
「完成!」
ユウキは大きく息を吐いた。
「お疲れさま。」
マミが拍手する。
「いただきます。」
「いただきます。」
マミはハンバーグを一口食べる。
「……。」
真剣な表情。
「どう?」
ユウキは緊張していた。
「おいしい。」
「本当に?」
「うん。」
「すごく。」
「ちょっと焦げてるけど。」
「そこは言うんだ。」
「でも。」
「ちゃんとユウキの味。」
「それって褒めてる?」
「もちろん。」
マミは嬉しそうに笑った。
「実は。」
ユウキが照れながら話し始める。
「高校生の頃。」
「マミに料理なんて作る未来、想像したことなかった。」
「私も。」
「それどころか。」
「話しかけるだけで緊張してた。」
「だよね。」
「数学の時間なんて。」
「先生に『お似合いですね』って言われて。」
「恥ずかしくて顔真っ赤だった。」
「俺も。」
二人は懐かしそうに笑った。
食後。
いつものようにユウキが皿を洗う。
マミは後ろからそっと抱きついた。
「え?」
「今日は。」
「ありがとう。」
「すごく嬉しかった。」
ユウキは少し照れながら笑う。
「喜んでもらえてよかった。」
「毎日は無理でも。」
「また作る。」
「約束。」
「うん。」
「次はオムライスがいい。」
「難易度上がってない?」
「期待してる。」
夜。
ソファで映画を観る二人。
途中でマミが小さくあくびをした。
「眠い?」
「ちょっと。」
ユウキはブランケットをそっと肩に掛ける。
「ありがとう。」
マミは自然とユウキの肩にもたれた。
静かな時間。
映画の内容よりも、隣にいる相手の温もりのほうが心地よかった。
映画が終わる頃。
マミがぽつりと言った。
「ねぇ。」
「ん?」
「こういう毎日が。」
「ずっと続いたらいいな。」
ユウキは迷わず頷く。
「続けよう。」
「二人で。」
「うん。」
その言葉を聞いたマミは、安心したように微笑んだ。
翌週。
会社から帰宅したユウキは、リビングのテーブルに一枚の封筒が置かれていることに気付く。
差出人は――
「花園高校 創立五十周年記念実行委員会」
二人の恋が始まった場所から届いた一通の招待状。
その封筒が、二人に新たな思い出を運んでくることになる。
――第9話「もう一度、あの日の教室へ」へ続く。
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