第3期 第7話 「愛妻弁当デビュー!?」
火曜日、午前六時。
キッチンには卵が焼ける香ばしい音が響いていた。
「ジュッ……。」
フライパンの前で、マミは真剣な表情をしている。
「卵焼きは弱火で……。」
「ウインナーは最後。」
冷蔵庫には昨夜のうちに下ごしらえした食材が並んでいた。
「おはよう。」
眠そうなユウキがリビングへやって来る。
「おはよう。」
マミは振り返って笑った。
「もう起きたの?」
「いい匂いで目が覚めた。」
「ふふっ。」
その一言だけで、マミの表情が少し嬉しそうになる。
「今日はね。」
お弁当箱を取り出しながら言う。
「高校生の頃から、一度やってみたかったことがあるの。」
「何?」
「好きな人に、お弁当を作ること。」
ユウキは少し驚いた。
「高校の時?」
「うん。」
「実は何回か作ろうと思ったんだけど。」
「恥ずかしくて。」
「渡せなかった。」
「そうだったんだ。」
「だから。」
「今なら渡せる。」
マミは照れ笑いを浮かべた。
完成したお弁当。
白いご飯。
卵焼き。
唐揚げ。
ブロッコリー。
ミニトマト。
そして、小さなハート型のニンジン。
「……。」
ユウキはじっと見つめる。
「どう?」
「かわいすぎる。」
「営業マンのお弁当じゃない。」
「いいじゃん。」
「愛情たっぷりだから。」
「それは認める。」
二人は笑い合った。
「はい。」
マミがお弁当を差し出す。
「行ってらっしゃい。」
ユウキは両手で受け取る。
「ありがとう。」
「毎日楽しみになりそう。」
「頑張って作る。」
玄関へ向かう。
「行ってきます。」
「行ってらっしゃい。」
今日も笑顔で送り出してくれた。
東京本社。
昼休み。
「ユウキ。」
同期の佐藤が近付いてくる。
「今日は社員食堂行かないの?」
「弁当。」
「珍しいな。」
ユウキはバッグからお弁当箱を取り出す。
「おぉ!」
「うまそう!」
周りの同僚も集まってきた。
「誰が作った?」
「……。」
少し照れながら答える。
「彼女。」
「同棲始めたんです。」
一瞬静まり返る。
そして次の瞬間。
「えぇぇぇぇ!?」
営業フロアに大きな声が響いた。
「いつの間に!」
「聞いてない!」
「しかも手作り!」
「主任、幸せすぎません!?」
ユウキは苦笑する。
「そんな大げさな。」
「いや!」
「これは羨ましい!」
同期たちは口々に騒ぐ。
「見せて!」
お弁当のふたを開ける。
「うわぁ。」
「彩り完璧。」
「卵焼きうまそう。」
「……。」
「ハートのニンジン。」
全員の視線がそこへ集まる。
「主任。」
「愛されてますね。」
ユウキは耳まで赤くなった。
「……食べる。」
一口、卵焼きを口に入れる。
「……。」
「どう?」
同期が覗き込む。
「うまい。」
思わず笑みがこぼれる。
「本当に?」
「うん。」
「高校生の頃から食べてみたかった味。」
誰にも聞こえないくらい小さく呟いた。
その頃、大阪。
マミも昼休みにスマホを見ていた。
すると、一枚の写真が届く。
ユウキ
お弁当の写真だった。
その横にはメッセージ。
『最高においしかった。ありがとう。全部完食。』
マミは思わず笑顔になる。
同期の女性社員が声をかけた。
「何かいいこと?」
「うん。」
「彼氏がお弁当喜んでくれた。」
「えー!」
「いいなぁ。」
「幸せそう。」
マミは照れながら笑った。
夜。
「ただいま。」
「おかえり!」
帰宅したユウキを見て、マミは少し緊張していた。
「お弁当。」
「どうだった?」
「最高。」
即答だった。
「本当に?」
「営業人生で一番うれしい昼休みだった。」
「大げさ。」
「いや。」
「会社中に自慢された。」
「え?」
「みんなに見られた。」
「えぇ!?」
マミは顔を真っ赤にする。
「恥ずかしい!」
「ハートのニンジンまで。」
「もう!」
クッションでユウキを軽く叩く。
「そんなところまで見せなくていいの!」
「ごめん。」
「でも。」
「嬉しかったから。」
その一言で、マミは照れ笑いに変わった。
夕食後。
ソファでくつろぐ二人。
「ねぇ。」
マミが微笑む。
「明日も作っていい?」
「もちろん。」
「毎日楽しみ。」
「じゃあ。」
「たまにはユウキも作ってね。」
「え。」
「料理担当三割でしょ?」
「……覚えてた。」
「当然。」
ユウキは苦笑しながら頷いた。
「分かった。」
「今度の休日。」
「俺が作る。」
「本当に?」
「挑戦する。」
マミは嬉しそうに拍手した。
「楽しみ!」
その夜。
ベッドに入りながら、ユウキは静かに思った。
仕事で疲れていても。
朝、「行ってらっしゃい」と送り出してくれる人がいて。
昼には手作りのお弁当があって。
夜、「おかえり」と迎えてくれる人がいる。
そんな毎日が、こんなにも幸せだとは思わなかった。
しかし数日後。
「ユウキの手料理」が、思いもよらない大事件を巻き起こす。
――第8話「初めての手料理大作戦!」へ続く。
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