第3話 「元カノとの再会」
「……マユ?」
ユウキは思わず立ち上がった。
「久しぶり。」
黒髪を肩まで伸ばしたマユは、高校時代と変わらない整った笑顔を浮かべていた。
高校ではバスケ部のマネージャー。
学年でもトップクラスの美少女と呼ばれ、男子から何度も告白されていた存在。
そんな彼女と半年だけ付き合っていた。
「ほんとにユウキだ。」
「マユ……元気だった?」
「うん。」
マユは優しく笑う。
「二人で文化祭?」
そう聞かれた瞬間。
ユウキとマミは慌てて否定した。
「いや、たまたま!」
「偶然会って!」
息ぴったりだった。
その様子を見たマユは、くすっと笑う。
「高校の頃と変わらないね。」
「マユも招待されたの?」
マミが尋ねる。
「うん。」
「先生に会いたくて。」
「そうなんだ。」
「二人も?」
「うん。」
「なんか懐かしくなって。」
三人で歩き始める。
高校時代にも、この三人で話すことは何度かあった。
ただ、あの頃とは違う。
今は全員社会人。
少しだけ大人になっていた。
「そういえば。」
マユがユウキを見る。
「営業の仕事なんだって?」
「なんで知ってるの?」
「同級生のグループLINE。」
「そんなのあるの?」
「あるよ(笑)」
「知らなかった……。」
「ユウキ、SNS全然やらないもんね。」
「見る専門だから。」
「変わらないね。」
三人は笑う。
しばらく歩いていると、当時の担任だった教室の前に着いた。
「懐かしい。」
教室は休憩スペースとして開放されていた。
三人は窓際の席に座る。
偶然にも。
一年生の時の席順と同じだった。
マミが前。
ユウキが後ろ。
マユは隣。
「これ狙った?」
マユが笑う。
「偶然だよ。」
「なんか運命っぽい。」
「そんな大げさな。」
ユウキは照れ笑いを浮かべた。
教室の窓から校庭を眺める。
「あのさ。」
マユが静かに話し始めた。
「高校の頃のこと、覚えてる?」
「もちろん。」
「私が告白した日。」
「……覚えてる。」
高校二年のバレンタイン。
手作りチョコ。
放課後の校舎裏。
「好きです。」
あの日。
ユウキは驚きながらも頷いた。
初めての告白。
初めての彼女。
舞い上がっていた。
「半年だったね。」
「うん。」
「楽しかった。」
マユは笑う。
「私も。」
ユウキは少しだけ申し訳なさそうな顔をした。
「ごめん。」
「なんで謝るの?」
「俺から別れを切り出したから。」
マユは首を横に振る。
「違うよ。」
「え?」
「私の方が先に気付いてた。」
「……。」
「ユウキ。」
「うん。」
「本当に好きだった人は。」
マユはゆっくり視線をマミへ向ける。
「マミだったでしょ?」
教室の空気が止まる。
マミの瞳が大きく開いた。
ユウキも何も言えない。
「高校一年生の時から分かってた。」
マユは穏やかだった。
責めるような口調ではない。
「授業中も。」
「休み時間も。」
「体育祭も。」
「文化祭も。」
「ユウキはずっとマミを見てた。」
ユウキは苦笑する。
「そんな分かりやすかった?」
「うん。」
「全然気付かなかった……。」
「本人だけだよ。」
マユは笑った。
「だから。」
「付き合ってる時も。」
「私はどこかで勝てないって思ってた。」
「マユ……。」
マミが小さく名前を呼ぶ。
「ごめん。」
「なんで謝るの?」
「私……。」
「何も悪くないよ。」
マユは優しく微笑む。
「むしろ。」
「私が割り込んじゃった感じだったし。」
「そんなこと……。」
「でもね。」
少しだけ寂しそうに笑う。
「半年だけでも幸せだった。」
ユウキは胸が締め付けられた。
当時の自分は、きっと未熟だった。
マユの優しさに甘えていた。
だからこそ、今でも少し後悔している。
その空気を変えるようにマユが立ち上がる。
「暗い話は終わり!」
「せっかく文化祭なんだから!」
「写真撮ろ!」
「三人で?」
「もちろん!」
スマホを取り出し、自撮りモードにする。
「はい、チーズ!」
カシャッ。
一枚の写真が保存された。
高校時代には撮れなかった三人の写真。
そこには、少し大人になった笑顔が並んでいた。
写真を見ながらマユが笑う。
「いい写真。」
「うん。」
「じゃあ私は先生に挨拶してくるね。」
「もう行くの?」
「うん。」
「邪魔しちゃ悪いし。」
「邪魔なんて。」
「ふふっ。」
マユは意味深に笑う。
そしてユウキの耳元で小さく囁いた。
「今度は。」
「逃がしちゃダメだよ。」
「……!」
「五年前みたいに後悔しないで。」
そう言って軽く手を振る。
「じゃあね!」
マユは廊下の向こうへ歩いていった。
静かになった教室。
ユウキとマミだけが残る。
「……いい子だね。」
マミがぽつりと呟く。
「うん。」
「昔から優しかった。」
「そうだね。」
沈黙。
夕方の柔らかな日差しが教室を照らしている。
マミが窓の外を見つめながら、小さく笑った。
「ねぇ、ユウキ。」
「ん?」
「さっきマユが言ってたこと。」
「……。」
「本当だったの?」
ユウキの鼓動が一気に速くなる。
五年間、胸の奥に閉じ込めてきた想い。
その扉が、少しずつ開き始めていた。
――第4話へ続く。
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