第3期 第2話 「二人の新居、大ピンチ!?」
月曜日、午前十時。
東京本社。
ユウキが営業会議を終えた頃、スマートフォンが震えた。
画面には、不動産会社の担当者の名前。
「失礼します。」
廊下へ出て電話に出る。
「はい、ユウキです。」
『お忙しいところ申し訳ありません。』
担当者の声は少し申し訳なさそうだった。
『実は、お申し込みいただいたお部屋ですが……。』
ユウキは嫌な予感がした。
『別のお客様からも同時に申し込みが入っておりまして。』
「え……?」
『オーナー様の審査結果待ちになっています。』
「つまり。」
『まだ入居が決まっていません。』
電話が終わる。
ユウキは小さく息を吐いた。
「まいったな……。」
その日の夜。
午後十時。
いつものビデオ通話。
「もしもし。」
「お疲れ。」
マミはユウキの表情を見てすぐに気付く。
「何かあった?」
「実は。」
昼間の電話のことを話す。
「そっか……。」
マミも少しだけ残念そうな顔をした。
「楽しみにしてたもんね。」
「うん。」
「でも。」
「まだ決まったわけじゃない。」
「そうだね。」
「もしダメでも。」
「また探せばいい。」
マミは笑顔を作る。
「二人で。」
その一言で、ユウキの気持ちが少し軽くなった。
三日後。
仕事中。
再び不動産会社から電話が入る。
「もしもし!」
『ユウキ様。』
『申し訳ありません。』
その一言で、結果は分かった。
『今回は別のお客様に決まりました。』
「……そうですか。」
『本当に申し訳ございません。』
電話を切る。
楽しみにしていた部屋。
未来を想像していたリビング。
大きな窓。
全部、なくなった。
その日の夜。
マミは大阪から東京へ来ていた。
「落ち込んでる?」
カフェで向かい合う。
「少し。」
「私も。」
マミも苦笑する。
「でもね。」
バッグから一冊のノートを取り出した。
「何それ?」
「新居ノート。」
「え?」
中には手書きで書かれたメモ。
『絶対に譲れない条件』
・明るいリビング
・広いキッチン
・駅から徒歩10分以内
・休日に二人で料理できること
・桜が見える場所なら最高
ユウキは思わず笑った。
「いつ作ったの?」
「昨日。」
「落ち込んでても進まないから。」
「次を探そうって。」
ユウキはノートを見つめる。
「ありがとう。」
「元気出た。」
翌週の土曜日。
再び不動産会社へ。
「今回は三件ご紹介できます。」
担当者が新しい資料を並べる。
「どれも条件に近い物件です。」
「見に行こう!」
マミはすっかり元気を取り戻していた。
「切り替え早いな。」
「前向きだけが取り柄です。」
「高校の頃から変わらない。」
「褒めてる?」
「もちろん。」
一軒目。
駅近だが少し狭い。
「ここは……。」
「キッチン小さい。」
「却下。」
二軒目。
広いが通勤時間が長い。
「朝が大変そう。」
「却下。」
三軒目。
坂の上に建つ新築マンション。
玄関を開けた瞬間。
「……。」
二人とも言葉を失う。
リビングには大きな窓。
明るい日差し。
対面キッチン。
少し広めのベランダ。
「すごい。」
マミが小さく呟く。
「ここ。」
「好き。」
ユウキも頷く。
「俺も。」
ベランダへ出る。
目の前には、小さな公園。
春には桜が咲くらしい。
「桜。」
マミが笑う。
「また見られるね。」
「文化祭の日みたいに。」
ユウキも微笑む。
「毎年一緒に。」
その言葉に、マミは少し照れながら頷いた。
帰り道。
夕暮れの坂道を歩く。
「今度こそ。」
「決まるかな。」
「決まるよ。」
マミは自信満々だった。
「なんで?」
「だって。」
「この部屋。」
「私たちを待ってた気がする。」
ユウキは苦笑する。
「根拠ないな。」
「恋愛に根拠なんていりません。」
「名言?」
「今考えた。」
二人は声を出して笑った。
その夜。
不動産会社へ申し込みを済ませる。
今度は二人とも不思議なくらい落ち着いていた。
「大丈夫。」
マミが小指を差し出す。
「今度こそ。」
「決まる。」
ユウキも小指を絡める。
「約束。」
翌朝。
一本のメールが届く。
件名。
『入居審査結果のお知らせ』
その結果が、二人の新しい生活のスタートを決めることになる。
――第3話「ようこそ、私たちの家へ」へ続く。
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