第2期 第13話 「未来への挨拶」
十月。
空は高く澄み、秋風が心地よく吹いていた。
今日は、ユウキにとって少し特別な日。
マミの実家へ挨拶に行く日だった。
「緊張する……。」
スーツ姿のユウキは、鏡の前で何度もネクタイを直していた。
そんな様子を見て、マミは小さく笑う。
「高校時代に初めて話しかけられた時より緊張してる?」
「……たぶん。」
「営業のプレゼンより?」
「それ以上。」
「ふふっ。」
マミは優しく微笑み、ユウキのネクタイを整えた。
「大丈夫。」
「私が隣にいるから。」
その一言だけで、少しだけ肩の力が抜けた。
マミの実家。
インターホンを押す。
「ただいま。」
玄関の扉が開く。
「おかえり。」
迎えてくれたのは、優しそうな母。
その後ろから父も現れた。
「初めまして。」
ユウキは深く頭を下げる。
「ユウキと申します。」
「本日は、お時間をいただきありがとうございます。」
父は静かに頷いた。
「どうぞ。」
「上がってください。」
リビング。
少し緊張した空気の中、お茶が運ばれてくる。
「ユウキくん。」
母が優しく話しかける。
「マミから、よく話は聞いてます。」
「本当ですか。」
「文化祭で再会したんだって?」
「はい。」
「まるでドラマみたい。」
「私もそう思います。」
四人で笑う。
少しずつ緊張がほぐれていった。
昼食を囲みながら、高校時代の思い出話になる。
「マミは昔から明るい子で。」
母が懐かしそうに笑う。
「家でも学校の話ばかりしていました。」
「そうなんですか?」
「一年生の頃は、毎日のように。」
『今日ね、後ろの席のユウキがね。』
「って。」
「お母さん!」
マミが真っ赤になる。
「もう!」
「恥ずかしい!」
父も珍しく笑っている。
「家族には全部分かっていた。」
「……。」
ユウキは照れながら笑った。
「俺だけ気付いてなかったんですね。」
「そうみたいね。」
また笑いが起こる。
食後。
父が庭へ出る。
「ユウキくん。」
「少し歩こうか。」
「はい。」
庭には金木犀が香っていた。
「マミは。」
父が静かに口を開く。
「昔から、人のことを優先する子なんだ。」
「はい。」
「だから。」
「無理をしていても笑ってしまうことがある。」
ユウキは真剣に頷く。
「知っています。」
「遠距離恋愛の時も。」
「寂しいのに、『大丈夫』って笑っていました。」
父は穏やかに笑う。
「ちゃんと見てくれているんだね。」
「はい。」
「これからも。」
「マミを大切にします。」
父は少しだけ空を見上げたあと、力強く頷いた。
「よろしく頼みます。」
その一言に、ユウキは深く頭を下げた。
一方、リビングでは。
母がマミへ微笑みかける。
「いい人ね。」
「うん。」
「優しくて。」
「真面目で。」
「昔から変わらない。」
母は少し照れたように笑う。
「そんな人を好きになったマミを見るのが、私は嬉しい。」
マミの目に涙が浮かぶ。
「ありがとう。」
帰り道。
夕焼けに染まる街を二人で歩く。
「終わったね。」
「うん。」
「すごく緊張した。」
「でも。」
「お父さんもお母さんも優しかった。」
「よかった。」
マミはユウキの手をそっと握る。
「今日。」
「改めて思った。」
「私。」
「ユウキと未来を歩いていきたい。」
ユウキはその手を優しく握り返す。
「俺も。」
「高校生の頃には想像できなかった未来だけど。」
「今なら。」
「一緒に歩いていける。」
駅前の公園。
ベンチに並んで座る。
文化祭で再会してから、何度も訪れた場所。
「ねぇ。」
マミが小さく笑う。
「同棲。」
「少しずつ準備しようか。」
「うん。」
「来年を目標に。」
「まずはお金を貯めて。」
「家具を見に行って。」
「部屋を探して。」
「全部、一緒に。」
ユウキは笑顔で頷く。
「楽しみだな。」
「うん。」
「すごく楽しみ。」
夜。
帰り際。
改札の前で、マミがユウキに小さな封筒を渡した。
「これ。」
「何?」
「家に帰ってから見て。」
「分かった。」
電車に乗り、自宅へ戻ったユウキは封筒を開く。
中には、一枚の写真。
高校一年生の文化祭で撮られたクラス写真だった。
そこには、少し離れた場所に立ちながらも、お互いを見つめている高校生のユウキとマミの姿が写っていた。
写真の裏には、マミの字でこう書かれていた。
『あの日は言えなかったけど。』
『今なら何度でも言える。』
『大好き。』
ユウキは写真を胸に抱き、小さく笑った。
「俺も。」
「あの日から、ずっと。」
高校時代にすれ違った初恋。
文化祭での奇跡の再会。
遠距離恋愛。
家族への挨拶。
一つひとつの出来事を乗り越えながら、二人は「恋人」から「人生を共に歩む存在」へと変わっていった。
そして次の春。
二人は、新しい生活を始めるための部屋探しを始める。
それは、恋人としてではなく、同じ未来を生きるパートナーとしての第一歩。
――第2期 完――
第3期予告
新生活、同棲、初めての共同生活。
価値観の違い、家事の分担、仕事との両立、そして少しずつ近づいてくる「プロポーズ」という未来。
恋人から「家族」へ。
ユウキとマミの恋は、第3期で新たなステージへ進みます。




