第2期 第9話 「恩師からのアドバイス」
八月。
夏休みのある土曜日。
花園高校では、創立記念行事の一環として卒業生向けの交流会が開かれていた。
「久しぶりだね。」
「うん。」
校門をくぐるユウキとマミ。
二人が初恋をもう一度動かした文化祭から、約一年が過ぎようとしていた。
「ここに来ると、不思議な気持ちになる。」
マミが校舎を見上げる。
「全部ここから始まったんだもんね。」
「そうだな。」
ユウキも静かに頷いた。
廊下を歩いていると、聞き覚えのある声が響いた。
「おーい!」
振り返る。
「佐伯先生!」
「久しぶり!」
数学教師だった佐伯先生は、相変わらず元気そうだった。
「聞いたぞ。」
「付き合ってるんだって?」
「……はい。」
二人は少し照れながら答える。
先生は大きく笑った。
「やっとだな!」
「五年以上待ったぞ!」
三人で笑い合う。
職員室の隣にある応接室。
先生が缶コーヒーを三本並べる。
「それで?」
「今日はどうした?」
「何か悩みでもある顔だな。」
ユウキとマミは顔を見合わせる。
「実は……。」
同棲を考えていること。
勤務地が東京と大阪で離れていること。
お互い仕事を続けたいこと。
将来のこと。
二人は包み隠さず話した。
先生は最後まで口を挟まず聞いていた。
「なるほどな。」
先生はゆっくり頷く。
「じゃあ質問だ。」
「はい。」
「お前たち。」
「どっちかが仕事を辞めたら幸せか?」
二人は同時に首を横へ振る。
「それは違います。」
「私もそう思います。」
「じゃあ。」
先生は笑った。
「答えは出てるじゃないか。」
「え?」
「仕事も恋愛も。」
「どっちも大事にすればいい。」
「でも。」
ユウキが苦笑する。
「現実は難しくて。」
先生は静かに頷いた。
「もちろん簡単じゃない。」
「だからこそ。」
「二人で考えるんだ。」
「一人で背負うな。」
先生は窓の外を眺めながら続ける。
「教師をやってると。」
「卒業生が何人も結婚報告に来る。」
「うまくいく夫婦には共通点がある。」
「共通点?」
「話し合うことをやめない。」
「意見が違っても。」
「答えが出なくても。」
「ちゃんと向き合う。」
「それだけで全然違う。」
その言葉は、二人の胸に深く響いた。
「ユウキ。」
「はい。」
「高校一年生の時。」
「告白できなかった理由は?」
「……。」
「話せなかったからです。」
「そう。」
先生は優しく笑う。
「じゃあ今は?」
ユウキはマミを見る。
「今は。」
「ちゃんと話せます。」
「マミも?」
「はい。」
「不安でも。」
「寂しくても。」
「ちゃんと伝えられます。」
先生は満足そうに頷いた。
「だったら大丈夫だ。」
帰り際。
校門の前。
先生は二人に向かって言った。
「最後に一つ。」
「人生は正解探しじゃない。」
「二人で正解を作るものだ。」
「……。」
「高校時代のお前たちは。」
「同じ答えを持っていたのに、言葉にできなかった。」
「今は違う。」
「二人なら。」
「どんな答えでも正解にできる。」
先生はそう言って笑った。
「結婚式には呼べよ。」
「気が早いですよ!」
ユウキが苦笑すると、先生は豪快に笑った。
高校を出たあと。
二人は、文化祭の日に初めて再会した中庭へ向かった。
「あの時。」
マミがブランコに腰掛ける。
「『高校時代の続き、しようよ』って言ったよね。」
「うん。」
「あの一言で人生が変わった。」
ユウキは隣のブランコに座った。
「俺も。」
「文化祭に来てなかったら。」
「今はなかった。」
少しだけ風が吹く。
蝉の声が響く。
夏の夕暮れだった。
「ねぇ。」
マミが小さく笑う。
「私。」
「焦るのやめる。」
「え?」
「同棲も。」
「結婚も。」
「急がなくていい。」
「その代わり。」
「二人でいっぱい話そう。」
「いっぱい悩もう。」
「そして。」
「二人で決めよう。」
ユウキは微笑んだ。
「賛成。」
「俺たちらしい。」
その日の帰り道。
ユウキのスマホに一本のメールが届く。
『昇進面談の日程について』
いよいよ、自分の将来を決める面談が始まる。
その選択は、二人の未来にも大きく関わるものだった。
そしてマミにもまた、会社から正式な辞令が届こうとしていた。
二人が描く未来は、もうすぐ大きく動き始める。
――第10話「それぞれの決断」へ続く。
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