第2期 第2話 「毎日、午後十時の約束」
午後九時五十八分。
名古屋市内のビジネスホテル。
ユウキは仕事から戻ると、ネクタイを緩めながらスマートフォンを充電器につないだ。
時計を見る。
21:59
あと一分。
自然と笑みがこぼれる。
この時間は、一日の中で一番楽しみな時間になっていた。
一方、大阪。
マミも仕事を終え、自宅でお風呂を済ませていた。
髪を乾かしながら時計を見る。
「もうすぐだ。」
テーブルの上には温かいカフェオレ。
お気に入りのクッション。
午後十時。
毎日この時間だけは、お互いどんなに忙しくても空ける。
それが二人の約束だった。
22:00
ビデオ通話の着信音が鳴る。
「もしもし!」
「お疲れ!」
画面いっぱいにマミの笑顔が映る。
それだけで、一日の疲れが少し軽くなる。
「今日はどうだった?」
「初日から忙しかった。」
「そっちは?」
「私も。」
「新しい案件任されちゃって。」
「おめでとう。」
「ありがとう。」
他愛もない会話。
でも、その何気ない時間が心地よかった。
「部屋、見せて。」
マミが笑う。
「散らかってない?」
「まだ大丈夫。」
ユウキはスマートフォンを動かし、ホテルの部屋を映す。
「狭いなぁ。」
「半年だけだからね。」
「ちゃんとご飯食べてる?」
「今日はコンビニ。」
「だめ。」
マミは少し頬を膨らませる。
「野菜も食べなきゃ。」
「分かってます。」
「絶対分かってない。」
その言い方が、高校時代と変わらなくて、ユウキは思わず笑った。
翌日。
名古屋支社。
「ユウキくん。」
朝倉美咲が資料を持ってやってくる。
「この提案書、一緒に確認しよう。」
「はい。」
二人は会議室で打ち合わせを始める。
朝倉は仕事が速く、説明も分かりやすい。
「なるほど。」
「東京ではこういう提案だったんですね。」
「勉強になります。」
「いえ、こちらこそ。」
営業として刺激を受ける相手だった。
その日の昼休み。
ユウキのスマホが震える。
マミ
『お昼食べた?』
ユウキ
『今から!』
マミ
『写真送って♪』
ユウキは社員食堂の定食を撮って送る。
数秒後。
『ちゃんと野菜ある!えらい!』
思わず吹き出す。
「彼女さん?」
隣に座っていた朝倉が笑う。
「はい。」
ユウキも自然に答えた。
「遠距離なんです。」
「そうなんですね。」
朝倉は優しく微笑む。
「毎日連絡してるなら大丈夫ですよ。」
「私の姉も遠距離結婚でしたから。」
その言葉に、ユウキは少し安心した。
その頃、大阪。
マミも大きな商談を終えたところだった。
「マミ。」
部長が声をかける。
「来月から新規プロジェクトのリーダーを任せたい。」
「私がですか?」
「期待してる。」
「頑張ります!」
責任は大きい。
でも嬉しかった。
真っ先に伝えたい相手がいる。
午後十時。
いつものビデオ通話。
「聞いて!」
画面の向こうでマミが嬉しそうに笑う。
「リーダー任されたの!」
「本当に?」
「おめでとう!」
ユウキも自分のことのように喜ぶ。
「すごいじゃん!」
「ありがとう!」
「でも不安もある。」
「大丈夫。」
ユウキは優しく言う。
「高校の頃から知ってる。」
「マミは頑張れる人だから。」
「……。」
マミは少し照れながら笑った。
「そう言ってもらえると安心する。」
話題は自然と高校時代になる。
「覚えてる?」
「一年生の中間テスト。」
「数学だけ私が負けた。」
「一回だけな。」
「すごく悔しかった。」
「俺は三日くらい自慢した。」
「した!」
「今思い出しても悔しい!」
二人は声を出して笑う。
離れていても。
画面越しでも。
笑い合える。
それだけで十分幸せだった。
通話を終える前。
「ユウキ。」
「ん?」
「あと百七十九日。」
「え?」
「帰ってくるまで。」
マミはスマホのカレンダーを見せる。
「毎日数えてるの?」
「うん。」
「楽しみだから。」
ユウキは少し照れながら笑う。
「じゃあ俺も数える。」
「約束?」
「約束。」
通話が終わる。
画面が暗くなった部屋で、ユウキは静かに呟いた。
「あと百七十九日か。」
長いようで短い。
離れている時間は寂しい。
でも、その先には「ただいま」と「おかえり」が待っている。
そう信じられるから頑張れる。
しかし翌日、ユウキのプロジェクトに大きなトラブルが発生する。
仕事と恋愛。
その両立の難しさを、二人は少しずつ知っていくことになる。
――第3話「届かない『おやすみ』」へ続く。
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