第13話 「二人で歩く未来」
年が明け、一月。
街はクリスマスの華やかさから一転し、澄んだ冬の空気に包まれていた。
恋人になって三か月。
ユウキとマミは、お互いの存在が当たり前になり始めていた。
朝は「おはよう」。
昼休みには「ちゃんとご飯食べた?」。
夜は「おやすみ」。
毎日の何気ないやり取りが、二人の日常になっていた。
しかし、その穏やかな日々に小さな試練が訪れる。
月曜日。
ユウキは営業部長に呼び出された。
「ユウキ。」
「はい。」
「来月から半年間、名古屋支社へ応援に行ってくれ。」
「……え?」
思わぬ辞令だった。
大型プロジェクトの立ち上げメンバーとして選ばれたらしい。
営業としては大きなチャンス。
だが、頭に浮かんだのは一人だけだった。
(マミ……。)
その日の夜。
いつものカフェで待ち合わせる。
「どうしたの?」
ユウキの表情を見て、マミが心配そうに尋ねる。
ユウキは少し迷ったあと、正直に話した。
「名古屋へ行くことになった。」
マミの笑顔が止まる。
「いつから?」
「来月。」
「半年。」
言葉が続かない。
「そう……なんだ。」
マミは笑おうとする。
でも、その笑顔は少しだけぎこちなかった。
数日後。
二人とも仕事に追われるようになった。
ユウキは引き継ぎ資料の作成。
マミも年度末の営業で忙しい。
会える時間は減り、メッセージの回数も少しずつ減っていく。
「おやすみ。」
「おやすみ。」
それだけの日も増えていった。
ある金曜日。
約束していた夕食。
しかし、マミから一本の電話が入る。
「ごめん……。」
「急にお客様対応が入っちゃって。」
「今日は行けそうにない。」
ユウキは笑って答える。
「仕事なら仕方ない。」
「気にしないで。」
電話を切ったあと。
「仕方ない。」
そう思う反面、寂しさは消えなかった。
翌日。
今度はユウキの休日出勤が決まる。
デートはまた延期。
気付けば二週間、まともに会えていなかった。
恋人なのに。
近くに住んでいるのに。
会えない。
そんな日々が続く。
ある夜。
マミは仕事帰り、一人で高校の近くを歩いていた。
文化祭の日にユウキと再会した校門。
あの日の笑顔を思い出す。
「寂しいな……。」
思わず口にした瞬間。
後ろから聞き慣れた声がした。
「俺も。」
振り向く。
そこには息を切らしたユウキが立っていた。
「ユウキ!?」
「会いたくなった。」
「仕事終わって、そのまま来た。」
マミの目に涙が浮かぶ。
「私も……。」
「会いたかった。」
二人は校門の前で向かい合う。
「ごめん。」
ユウキが先に頭を下げる。
「仕事ばかりで。」
「違う。」
マミも首を振る。
「私も。」
「もっと甘えてよかったのに。」
「一人で我慢してた。」
二人とも同じだった。
相手を困らせたくない。
応援したい。
そう思うあまり、本音を言えなくなっていた。
「マミ。」
「うん。」
「半年なんて。」
「きっとあっという間だ。」
「毎日電話する。」
「休みの日は帰ってくる。」
「だから。」
「少しだけ待ってて。」
マミは涙を拭きながら笑う。
「うん。」
「待ってる。」
「私も仕事頑張る。」
「帰ってきたら。」
「いっぱいデートしよう。」
「約束。」
二人は小指を絡める。
高校一年生ではできなかった約束。
恋人になった今だから交わせる約束。
帰り道。
二人は手をつないで歩く。
「ねぇ。」
マミが笑う。
「覚えてる?」
「何を?」
「文化祭の日。」
「『高校時代の続き、しようよ』って私が言ったこと。」
「もちろん。」
「あの日から全部始まった。」
ユウキは優しく微笑む。
「ありがとう。」
「あの日、来てくれて。」
「こちらこそ。」
「来てくれてありがとう。」
駅前の交差点。
信号待ちをしながら、二人は夜空を見上げる。
「これから先。」
「楽しいことばかりじゃないと思う。」
ユウキが静かに言う。
「仕事もある。」
「ケンカもするかもしれない。」
「遠距離になることもある。」
「でも。」
「一緒に乗り越えていこう。」
マミは力強く頷いた。
「うん。」
「一人じゃなくて。」
「二人で。」
その言葉と同時に信号が青へ変わる。
二人は手をつないだまま、一歩を踏み出した。
五年前。
あと一歩踏み出せなかった高校生の二人。
文化祭での奇跡の再会。
五年越しの初恋。
そして恋人になった今。
もう迷わない。
もう後悔しない。
二人なら、どんな未来も歩いていける。
手をつないで。
笑い合いながら。
ゆっくりと。
一歩ずつ。
――第1期 完――
第2期予告
半年間の名古屋赴任で始まる、初めての遠距離恋愛。
離れているからこそ募る想い、新たな出会い、仕事での成長、そして将来を意識し始める二人。
遠距離という試練を越えた先に待つのは、「同棲」という新たなステージ。
第2期では、社会人ならではのリアルな恋愛と、さらに深まる二人の絆を描いていきます。




