第12話 「初めてのクリスマスイブ」
季節は冬。
街にはイルミネーションが灯り、どこからともなくクリスマスソングが流れてくる。
ユウキとマミが恋人になってから、二か月が過ぎていた。
仕事帰りに食事へ行ったり。
休日に映画を観たり。
何気ない時間を積み重ねるたびに、二人の距離は少しずつ縮まっていた。
そして今日は、二人にとって初めて迎えるクリスマスイブ。
午後六時。
待ち合わせは駅前の大きなクリスマスツリーの前だった。
ユウキが先に着くと、ツリーの前には写真を撮る人で賑わっている。
「待った?」
聞き慣れた声に振り返る。
「マミ。」
白いコートに赤いマフラー。
冬の澄んだ空気の中で、マミの笑顔はいつも以上に眩しく見えた。
「全然。」
「今来たところ。」
「また嘘。」
「今日は十五分前。」
「……惜しい。」
「二十分前でしょ?」
「正解です。」
二人は顔を見合わせて笑った。
「寒いね。」
「うん。」
そう言った次の瞬間。
マミは少し照れながらユウキの腕にそっと触れた。
「今日は……恋人らしく歩いてもいい?」
ユウキは優しく微笑む。
「もちろん。」
二人は自然に手をつなぐ。
冬の冷たい空気とは反対に、その手は温かかった。
イルミネーションが輝く並木道を歩く。
「きれい……。」
マミが目を輝かせる。
「高校生の頃は、こういう場所に来るなんて想像もしなかったね。」
「うん。」
「当時の俺は、マミを映画に誘うだけでも一週間悩んでたと思う。」
「誘われてたら、絶対来たのに。」
「今だから言うなよ。」
「ふふっ。」
マミは楽しそうに笑った。
予約していたレストランは、夜景が見える最上階だった。
窓際の席に案内される。
「すごい……。」
街の灯りが宝石のように広がっていた。
乾杯をして、ゆっくりと食事を楽しむ。
仕事の話。
家族の話。
将来の夢。
高校時代には話せなかったことまで、自然と話せるようになっていた。
「ユウキ。」
「ん?」
「社会人になって思ったんだけど。」
「うん。」
「嬉しいことがあった日に、一番最初に伝えたい相手っているじゃない?」
「いるね。」
「今、その相手がユウキ。」
その一言が、胸の奥に優しく響く。
「俺も。」
「営業で契約が取れた日も。」
「仕事で落ち込んだ日も。」
「最初にマミの顔が浮かぶ。」
マミは照れながら笑った。
「なんか幸せ。」
食事を終え、店を出る。
外では雪が降り始めていた。
「初雪だ。」
「ホワイトクリスマスだね。」
マミは嬉しそうに空を見上げる。
白い雪が髪に舞い降りる。
ユウキはそっとマミの肩についた雪を払った。
「ありがとう。」
目が合う。
ほんの少しだけ、お互い照れ笑いを浮かべる。
「そうだ。」
マミがバッグから小さな紙袋を取り出した。
「はい。」
「クリスマスプレゼント。」
「俺に?」
「うん。」
中を開けると、ネイビーの革製キーケースだった。
「営業で外回りが多いから。」
「毎日使ってくれたら嬉しい。」
ユウキは思わず笑顔になる。
「ありがとう。」
「大事に使う。」
今度はユウキが紙袋を差し出した。
「俺からも。」
「え?」
マミが開ける。
中には、小さなシルバーのブレスレット。
派手すぎず、仕事の日でも身につけられるシンプルなデザインだった。
「かわいい……。」
「仕事でも使えるかなって。」
マミは目を潤ませながら頷く。
「すごく嬉しい。」
その場でブレスレットを身につける。
「どう?」
「すごく似合ってる。」
「ありがとう。」
帰り道。
駅前のツリーの前で立ち止まる。
「写真撮ろうか。」
「うん。」
スマートフォンをセットして、二人並んで笑う。
シャッターが切られる。
そこには、高校時代には叶わなかった「恋人として過ごすクリスマス」が残された。
写真を見たマミが優しく笑う。
「これ、宝物にする。」
「俺も。」
改札前。
帰る時間が近づく。
「今日はありがとう。」
「こちらこそ。」
少しだけ沈黙が流れる。
「来年も。」
マミが静かに言う。
「再来年も。」
「その先も。」
「一緒にクリスマス過ごしたい。」
ユウキは優しく頷いた。
「もちろん。」
「約束。」
二人は小さく指切りをした。
高校一年生の頃には交わせなかった約束。
今は恋人として、自然に未来の話ができる。
そんな幸せを噛みしめながら、二人は改札へ向かった。
しかし翌週、新年を目前にしたある出来事が、二人に「恋人として初めての試練」を運んでくる。
仕事。
将来。
そして、お互いを想うからこそのすれ違い――。
二人の絆が試される新しい物語が始まろうとしていた。
――最終話「二人で歩く未来」へ続く。
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