第11話 「恋人になった最初の一日」
「……付き合ったんだよね、私たち。」
マミが少し照れながらそう言う。
「うん。」
「恋人。」
ユウキも笑いながら頷く。
たった数分前。
五年間想い続けた初恋に、ようやく答えが出た。
それなのに。
お互い少しぎこちない。
「なんか……。」
「距離感が分からない。」
「分かる。」
二人は思わず吹き出した。
公園を出て駅前へ向かう。
さっきまでと同じ道なのに、景色が違って見えた。
「彼氏。」
突然マミが呼ぶ。
「……え?」
「彼氏。」
「ユウキ。」
「呼んでみた。」
「反則。」
心臓が一気に高鳴る。
「じゃあ。」
「彼女。」
「マミ。」
「……!」
今度はマミが顔を真っ赤にした。
「恥ずかしい!」
「そっちが先だろ。」
「そうだけど!」
二人で笑う。
恋人になったばかりの、不器用で甘い空気だった。
ショッピングモールへ入る。
「今日は何しようか。」
「恋人っぽいこと。」
「例えば?」
「……。」
二人とも考え込む。
「映画?」
「先週行った。」
「カフェ?」
「この前行った。」
「難しいね。」
「恋人初心者だから。」
その言葉が可笑しくて、また笑ってしまう。
雑貨店を歩いていると、ペアマグカップが目に入った。
「かわいい。」
マミが立ち止まる。
白とネイビーのシンプルなデザイン。
「これ。」
「おそろいにする?」
ユウキが聞く。
「え。」
「いいの?」
「記念。」
「付き合った記念。」
マミは嬉しそうに頷いた。
「欲しい。」
レジで会計を済ませる。
店員が微笑みながら言った。
「記念日ですか?」
二人は顔を見合わせる。
そして。
「はい。」
自然と同時に答えていた。
昼食は落ち着いたカフェ。
窓際の席。
マミはコーヒーカップを両手で包みながら笑う。
「ねぇ。」
「恋人になったから聞いていい?」
「もちろん。」
「高校一年生。」
「いつから好きだったの?」
ユウキは少し考える。
「入学して一週間くらい。」
「早っ!」
「席が前後になった日。」
「毎日話しかけてくれて。」
「気付いたら好きだった。」
「そんな前から……。」
マミは少し目を潤ませる。
「私も。」
「え?」
「自己紹介の日。」
「えぇ!?」
「野球部で。」
「ちょっと緊張して自己紹介してるユウキ見て。」
「かわいいって思った。」
「そんな理由?」
「うん。」
「一目惚れ。」
ユウキは頭を抱えた。
「その話。」
「高校一年生の俺に聞かせたい。」
「ほんと。」
二人で笑う。
昼食を終えたあと。
二人は川沿いを歩く。
前回初めて手を繋いだ場所。
マミは少しだけユウキを見上げる。
「ねぇ。」
「ん?」
「手。」
「今日も。」
ユウキは何も言わず、そっと右手を差し出した。
マミも自然に手を重ねる。
今度は迷いがない。
恋人として繋ぐ手。
指先が絡む。
「……。」
「恋人って。」
「こういう感じなんだね。」
「うん。」
「安心する。」
「俺も。」
歩く速さまで自然と揃っていた。
夕方。
駅前のベンチに座る。
夕焼けが街をオレンジ色に染めている。
「明日から仕事かぁ。」
マミが少し残念そうに言う。
「また一週間会えないね。」
「いや。」
ユウキは笑う。
「仕事帰りなら会える。」
「え?」
「会社近いし。」
「確かに。」
「それに。」
「恋人なんだから。」
「もっと会いたい。」
その一言に。
マミは耳まで真っ赤になった。
「……私も。」
「毎日でも会いたい。」
その言葉を聞いて、ユウキは自然と笑顔になる。
帰り際。
改札の前。
「じゃあ。」
「また明日?」
「うん。」
「仕事終わったら連絡する。」
「待ってる。」
少しだけ沈黙が流れる。
離れたくない。
そんな気持ちが、お互いの表情に表れていた。
マミは小さく息を吸う。
「ユウキ。」
「ん?」
「目、閉じて。」
「え?」
「いいから。」
ユウキは言われるまま目を閉じる。
数秒後。
ふわりと優しい香りが近付く。
そして。
頬に、柔らかな温もりが触れた。
ほんの一瞬。
マミはすぐに離れる。
「……!」
ユウキが目を開けると。
マミは真っ赤な顔で笑っていた。
「ご、ご褒美。」
「今日はここまで!」
そう言うと、照れ隠しのように改札へ走っていく。
「また明日!」
手を振るマミ。
ユウキは頬に手を当てたまま立ち尽くしていた。
「……反則だ。」
嬉しさが込み上げる。
恋人になった最初の一日は、忘れられない思い出になった。
そして二人の恋は、少しずつ、しかし確実に深まっていく。
――第12話「初めてのクリスマスイブ」へ続く。
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