8.伝説の聖剣、ログイン制限でロックされる
魔王軍を退け、俺たちはついに、選ばれし勇者にしか抜けないと言われる「伝説の聖剣エクスカリバー」が眠る聖域へと辿り着いた。
切り立った岩山の頂上、神秘的な光に包まれた台座に、その剣は深く突き刺さっていた。
「勇者様、ついに……ついにこの時が来ましたぞ。これさえあれば、魔王など恐るるに足りません。さあ、その手で運命を切り拓くのです!」
『……おお、やっとや。第1話からパチンコハンドルとか、ボブの髭とか、雀卓とか……散々な目に遭ってきたけど、ようやくファンタジーの主役になれるんやな。じいさん、見てろよ!』
俺は震える手で、黄金に輝く聖剣の柄を力強く握り締めた。
一気に引き抜こうと腰を入れた、その瞬間。
「ピローン。……顔認証を開始します。カメラを直視してください」
『……しゃべった? 剣がしゃべった今? 演出か? 聖剣の意志的なやつが俺の魂をチェックしとんのか?』
「勇者様、動いてはいけません! 聖域のセキュリティーが作動しております! ほら、柄の宝石のところが赤く光って……!」
剣の柄に埋め込まれた小さなルビーが、まるでスマホのカメラレンズのように怪しく明滅し、俺の顔をスキャンし始めた。
数秒の沈黙の後、剣から無機質な合成音声が響き渡る。
「……照合に失敗しました。登録されている勇者様と、現在の顔の彩度が一致しません」
『顔の彩度で落とすな! 第6話でボブの毒消し飲まされて、顔色が紫色のままやねん! 設定変更しとけよ、臨機応変に認証しろ!』
「勇者様、落ち着いて! 別の認証方法があるはずです。ほら、台座のところに液晶パネルが!」
慌てて足元を見ると、岩の表面に「パスワードを入力してください」の文字。
『伝説の武器にログイン制限かけるな! スマホの機種変か! 勇者の指紋と虹彩を事前に石板に登録しとけよ! 誰が設定したんや、このセキュリティー!』
俺はヤケクソで、思い当たる数字をパネルに打ち込んだ。……「7777」。
「ブブーッ! 不正なアクセスです。あと1回間違えると、聖剣は24時間ロックされ、初期化されます」
『初期化すな! 伝説の力が工場出荷状態に戻るんか! 切れ味バツグンのただの鉄くずになるやろ! 24時間待ってる間に魔王が攻めてくるわ!』
「勇者様、思い出してください! 『秘密の質問』があるはずです!」
パネルに表示された質問を見て、俺の血の気が引いた。
【質問:あなたが最初にお金を使い果たした競馬場は?】
『質問が個人的すぎるわ! 誰の履歴参照しとんねん! 異世界にカスタマーセンターあるんか! 秘密の質問が「母親の旧姓」とかじゃなくて、俺の「ギャンブルのトラウマ」なのが一番腹立つわ!』
結局、パスワードがわからず、聖剣からは「1分後に自動アップデートを開始します。電源を切らないでください」という無慈悲な宣告が流れた。
『アップデート長すぎやろ! 今からOSの更新か! 抜く前に容量不足でエラー吐きそうやわ!』
「勇者様、これでは使い物になりませんな。……アップデートが終わるまで、そこらへんの落ちてる枝で戦いますかな?」
『木の枝で魔王に挑めるか! 勇者のステータスをクラウド管理すな! 俺を元の世界に即帰させろ!』




