7.新入りの魔導士、戦場を雀荘に変えるな
ボブ(ゴールドver.)の髭の出汁を飲まされて以来、心身ともにボロボロだった俺の前に、ついに「魔法学校を首席で卒業した」という超エリート魔導士が現れた。
その名も、ゼンイチ。眼鏡の奥の瞳が知的に光る、いかにも「仕事ができそう」な男だ。
「勇者様、お初にお目にかかります。私の魔法は、この世界の理を数式と確率で支配します。もはや無策で突っ込む必要はありません」
『……おお、やっとまともな知性派が来たな! じいさん、見たか。この溢れ出る安心感。ボブとはえらい違いや。ゼンイチ、期待しとるぞ!』
「お任せください。さあ、魔王軍の先遣隊が見えましたね。陣形を組みましょう。……ふむ、現在は東から風が吹いています。場の流れは悪くありません」
『ほう、風の流れを読むんか。気象魔法か何かか? 知的やんけ。で、どうやって戦うんや? 派手な爆裂魔法とか見せてくれんのか?』
「いえ、まずはこれの設置が必要です」
ゼンイチが厳かに杖を掲げた。……いや、杖じゃない。
彼が背負っていた巨大な風呂敷をバサァッ! と広げると、そこから四角い、重厚な装飾が施された「石板」が地面に突き立てられた。
『……石板、四角すぎんねん! 魔法の杖を「卓」にするな! 表面が緑のラシャ張りやんけ、どこからどう見ても全自動雀卓やろ!』
「勇者様、静かに。これぞ秘儀『四神降臨』……。さあ、始めましょう。ジャラジャラジャラ……」
静まり返った戦場に、牌を洗うあの独特な爆音が鳴り響く。
迫りくるオークたちも「……え、何この音? 宴会?」みたいな顔で、武器を構えたまま困惑して立ち止まっている。
『戦場で牌を洗うな! 集中できへんわ! 魔王軍も完全に引いとるやろ、殺し合いの最中に「親睦会」始めようとすな!』
「……配牌完了。勇者様、あなたは『親』です。このターン、攻撃力は1.5倍ですが、敵の攻撃を食らえば点数は2倍支払っていただきます」
『「親」とか決めるな! 異世界のパワーバランスを麻雀のルールで管理すな! ライフポイントを「点棒」で数えるな、俺の残り千点しか残ってへんわ! リーチ一発で死ぬやんけ!』
ゼンイチは眼鏡をクイッと上げ、無言で石板の上にある牌を一つ、スッと戦場に向かって投げ捨てた。
「……西。」
『「西」とか言うな! 魔法の詠唱が短すぎるわ! ただの捨て牌やんけ! 攻撃になってへんぞ、相手に塩送ってるだけや! 全くダメージ入ってへんわ!』
「……チッ。勇者様、あなたのせいで流れが変わりました。ここは『鳴き』を入れます。……ポン!」
ゼンイチが叫ぶと、倒したはずのオークの死骸がガタガタと震えだし、俺の目の前にワープしてきた。
『死体で「ポン」すな! 鳴くのは勝手やけど、演出がホラーすぎるわ! 役を揃えるために死霊術使うな!』
「勇者様、チャンスです。テンパイしました。……さあ、運命のボタンを叩いてください!」
卓の真ん中から、例によって巨大な「PUSH」ボタンが飛び出してきた。
『ボタン連打で「ツモ」るな! 自力で引き寄せろよ! 魔法の発動条件が「役満」とか、一生攻撃できへんやろ! 天和でも狙ってんのか!』
俺がヤケクソでボタンを叩くと、ゼンイチが「ロン!」と叫んで石板をひっくり返した。
その瞬間、空から巨大な「五筒」の形をした岩石が降り注ぎ、敵を粉砕した。
『「ドラ」で物理的に殴るな! 魔法で勝負せえよ! 結局、運ゲーやんけ!』
「ふぅ……。勇者様、次は『南入』です。半荘行きますか?」
『延長戦すな! 1回戦で終わらせろ! 肩こるわ、俺を元の世界に即帰させろ!』




