6.毒消しの聖水、味が終わってる
魔王軍の刺客との激闘。なんとか勝利した俺だったが、右腕にはどす黒い毒が回り、視界がチカチカと点滅していた。
「勇者様! お気を確かに! 今すぐ、我がパーティが誇る特級調合師(?)のボブに薬を……!」
『……はぁ、はぁ、頼む、じいさん。早くしてくれ。これ、マジで死ぬやつや……。ボブ、頼むわ……』
ボロボロの俺の前に、黄金の鎧をガシャガシャ鳴らしながらボブがズカズカと現れた。
彼はニヤリと不敵な笑みを浮かべ、懐からドロドロに汚れた小瓶を取り出した。
「……ヨォ、ユーシャ。死ヌナヨ。コレ、俺サマ特製ノ『ミラクル・デトックス』ネ。副作用、チョト心臓バクバク、デモ毒、全ブサヨナラネ」
『片言すぎるわ! 怪しい通販番組か! その「チョト」が一番怖いねん! 治すのかトドメ刺すのか、どっちかにしろ!』
「サア、一気ニ、GOネ! 毒ガ心臓タッチスルマデ、あと60秒(1セット)ヨ!」
老魔導士も「さあ、勇者様! ボブを信じるのです!」と急かしてくる。
俺は覚悟を決めた。鼻を突き抜ける、湿った犬をさらに10年放置したような悪臭。俺は目を閉じ、その漆黒の液体を喉に流し込んだ。
『……ッ!!!???』
あまりの衝撃に、俺の全身の毛穴が同時に開き、心臓がパチンコ屋の入替日の島移動並みに激しく脈打ち始めた。
『えぐいねん!!! 味のデッドヒートすな! 舌の上で毒と薬が殴り合いしとるわ! 治る前にショック死するわ!』
「……Oh、ユーシャ。イイ顔ネ。ソレ、隠シ味ニ俺サマノ『黄金ノ髭』、一本煮込ンダネ。魔力、モリモリヨ」
『髭を煮出すな! 隠し味のクセが強すぎるわ! 泥水にタバコの吸い殻とボブの加齢臭混ぜたんか! ボブ、これ作ってる時どんな顔してたんや! 髭の「黄金」は色だけでええねん、出汁取るな!』
あまりの不快感に、視界の隅には「期待度:絶望」のカットイン。
喉を通るたびに、体中の細胞が「これ、アカンやつや!」と本能で拒絶反応を起こしている。
『味が「確定申告」の時期の胃の痛みと同じやねん! 生々しすぎるわ! もっとファンタジーらしい、イチゴ味とかメロン味のポーション用意しとけよ! ボブのエッセンスが濃すぎるわ!』
「オめでとうございます! 勇者様の顔色が、土色から紫色に『昇格』しましたぞ!」
『悪化しとるやんけ! 紫は毒よりヤバい色の象徴やろ! 顔面の彩度で期待度を演出するな!』
結局、毒は消えたが、俺の味覚は完全に崩壊した。
今なら、何を食ってもボブの黄金の髭の味がする自信がある。
『もうええわ! 次の戦いまでに、まともな調理師呼んでこい! 命の恩人やけど、ボブの黄金の笑顔が直視できへんわ! 俺を元の世界に即帰させろ!』




