3.伝説の宿屋、チェックインが「抽選制」
魔王軍の先遣隊を退け、満身創痍の俺たちはようやく街の宿屋に辿り着いた。
重厚な門構え、暖かそうな灯り。これこそ冒険者の休息の地だ。
「勇者様、今日はここでゆっくりと羽を伸ばしましょうぞ。この『聖なる安らぎ亭』は、一晩寝れば欠損した部位すら再生すると言われる名宿にございます」
『ほう、やっとまともな施設が出てきたな。効果はちょっとイカレてるが...異世界やし気にせんとくわ。じいさん、俺はもう限界や。ふかふかのベッドで泥のように眠らせてくれ』
「もちろんにございます。さあ、店主! 勇者様にお部屋を!」
カウンターの奥から出てきたのは、愛想のいい太った親父さんだった。彼は俺の顔を見るなり、恭しく一枚のプラスチックカードを差し出してきた。
「いらっしゃいませ、勇者様。まずはあちらの機械で『整理券』をお受け取りください。本日の入場抽選は、あと5分で開始いたします」
『宿屋で整理券? 人気のラーメン屋か! 宿泊客に番号札持たせて並ばすな。空いてる部屋に今すぐ通せよ!』
「何を仰いますか。当宿は完全抽選制。運が良ければ『ロイヤルスイート確変モード』にご案内。運が悪ければ……あちらの『一般雑魚寝スペース』、通称『通常モード』で一晩中、蚊に刺されながら過ごしていただきます」
店主が指差した先には、床にゴザが敷いてあるだけの殺風景なロビー。そこには疲れ果てた冒険者たちが、うなだれて座っていた。
『格差が激しすぎるわ! 宿泊プランに期待度を設けるな! 疲れてる奴から順番に寝かせろよ、何が運任せやねん!』
「勇者様、チャンスですぞ! 抽選機が……光っております!」
老魔導士が叫ぶと同時に、ロビーに設置された巨大なドラムが「ガラガラガラ!」と爆音を立てて回り始めた。神殿の時と同じ、あの耳をつんざくような電子音が響き渡る。
『パチンコ屋の開店初日か! 静かに休ませる気ゼロやんけ! 防音設備に金かけろ、安らぎどこ行ってん!』
ドラムが止まる。浮かび上がったのは、ド派手な虹色の文字。
【おめでとう! 10連泊(継続率80%)確定!】
『10連泊もいらんわ! 明日には出発せなあかんねん! 泊まれば泊まるほどお得みたいな演出やめろ!』
「素晴らしい! さらに、今ならログインボーナスとして『薬草の香りの芳香剤』をプレゼントですぞ!」
店主がドヤ顔で差し出してきたのは、安っぽいプラスチックのケースに入った謎の液体。
『芳香剤いらんわ! 景品交換所か! 宿泊の特典がショボすぎるわ! 部屋の鍵をくれ、普通の、金属製のやつを!』
「では、お部屋へのご案内まで……あと300回転ほどお待ちください」
『潜伏すな! 今すぐ寝かせろ! 結局待たされるんか! 俺を元の世界に即帰させろ!』




