第30話:腐敗石の洗礼と断頭工作
古代ドワーフの工業用配管網の内部は、錆びついた金属の粉塵と凍りつくような冷気に満ちていた。
俺たちは新アジトである兵器庫のハッチを抜け、第3セクターの「教会徴募部隊」の詰所の真下へと潜入していた。
上層の通気口からは、聖職者どもの安酒の臭いと無警戒な笑い声が漏れ聞こえてくる。
だが、俺たちの作戦は力任せに正面突破することではない。工作兵の戦術は常に非対称だ。
「フレヤ、準備しろ」
俺は十歳の一切の幼児性を排した冷徹なトーンで命じた。
「あの小箱の【腐敗石】を1つ、ドワーフの岩油の瓶の中に叩き込め。ねえちゃんの濃密な炎で、外側からミリ単位で熱を絞るんだ」
「わかったわ、ダリオ」
十八歳のフレヤは、引き締まった指先で黒油の中に結晶を落とした。
彼女の角から放たれた極細の熱線が瓶を飽和させた瞬間、化学反応が起きた。
ボコボコと不快な音を立てて沸騰する液体。
通気ダクトのファンを利用し、俺たちはその排気ガスを建物全体へとインジェクションした。
それは、教会の毒によって全滅した12人の子供たちの遺灰から精製された、【常時発動型・腐敗ガス】だった。
「ひ、ヒッ……目が、目が溶ける――ッ!」
「何だこの紫の霧は! 息が、肺が焼けるッ!」
上層の詰所が、一瞬にして阿鼻叫喚の生き地獄へと変貌した。
紫色の濃密なガスが部屋を埋め尽くし、兵士たちの黒鉄の装甲の隙間から侵入して、その皮膚と眼球を生々しく融解させていったのだ。
『前衛防衛線:決壊。突入フェーズ:アクティブ』
鉄の格子をイタロのツルハシでへし折り、俺たち4人の暗殺分隊は詰所へと突入した。
「教会の狂信者ども! 盾の錆にしてやるぜ!」
イタロが28歳の質量を乗せ、タワーシールドで通路の防衛線を構築する。
ガスから逃れようと狂乱する精鋭の重装騎士が剣を振り下ろしたが、イタロの鉄壁の盾の前に虚しく弾かれ、火花を散らしただけだった。
ヒュンッ! ヒュンッ!
頭上の梁に陣取ったコリンが、魔改造クロスボウから高張力のボルトを連射する。
矢は重装兵たちのヘルメットの覗き穴を正確に射抜き、その脳髄を背後の壁へとブチ撒けさせた。
「残りをスライスする」
俺はヘドロと焼けた肉の臭いが立ち込める霧の中を、無音の高速移動で滑り進んだ。
引き抜いたジェレミアスの2本の細身の剣。
内側に圧縮された高周波の熱振動が、空間を陽炎のように歪めている。
イタロの盾を押し込もうとしていた副隊長の背後にチェックイン。
パキンッ。
俺の細身の刃が、奴の脇腹の装甲の継ぎ目を濡れたバターのように滑らかに両断した。
内臓が沸騰するドロドロの血を吐き出しながら、奴が崩れ落ちる。その隣の兵士の喉元にも、間髪入れずに左 of の刃を突き刺して頸動脈を一瞬で調理した。
一切の音も光も放たない、十歳の死神による無音の即時処刑。
わずか数分で、下層セクターを統制していた教会の徴募分隊は全滅した。
死体から異臭のする紫の煙が立ち上る中、俺たちは最奥の「隊長執務室」へと踏み込んだ。
机の上には、枢機卿マラカイの公式印が押された、来月捕獲予定の【500人の異形児の強制徴募リスト】が置かれていた。
「この紙のせいで……みんなが、またパンにされるのね」
フレヤの瞳に、野生的な激しい憤怒が宿った。
「燃やせ、フレヤ。爆音は出すな。熱だけを叩き込め」
「ええ……跡形もなく、炭にしてやるわ!」
彼女の【濃密な炎】の圧縮熱が机を包み込み、教会の数週間に及ぶ官僚的な工作リストを、一瞬にしてただの黒い炭灰へと還元した。
これで教会の「人間盾」の計画は、ロジスティクスの根本から大破したのだ。
俺は隊長の鉄の金庫を細身の剣の高周波で焼き切り、その内部に残されていた地上の最高級のレアアイテムを掴み取った。
1.**【純光のエリクサー】のガラス瓶3つ:**
教会の高位貴族や聖職者しか服用を許されない、細胞再生を極限まで引き上げる伝説の魔法軍事医薬品。
2.**【上層聖堂地区の地下構造図】:**
枢機卿マラカイのバンカーへ繋がる隠し通路が詳細に記された、クエスト進行の最高機密マップ。
コリンは、俺が【純光のエリクサー】の栓を歯で引き抜き、 shadow そのまま普通の水のように一気に飲み干す光景を、赤い瞳を限界まで見開いて凝視していた。
「あんた……本当に狂ってるわ……。それは地上の将軍が命懸けの戦いで使う秘薬よ? 十歳の子供が一度に飲んだら、身体が破裂するわよ!」
「問題ない、わるいおねえちゃん」
俺は空になった小瓶を床のヘドロへと投げ捨て、十歳の冷徹な声で応じた。
体内で猛烈な熱流が駆け巡り、前世の工作兵としての腱と筋繊維が、限界を超えて再構築されていくのを感じていた。
左肩のあの古い鎖骨骨折の最後の鈍痛が完全に消え去り、十歳の俺の戦闘速度は永続的に騎士のそれを超越した。
「これで第3セクターの徴募機能は麻痺した。マラカイの計画のタイムラインは完全に狂ったぞ」
俺は聖堂の構造図を戦術袋へと仕舞い込み、鉄の盾を構えるイタロと、軍服を纏うフレヤを老兵の瞳で見つめた。
「イタロ、コリン、フレヤ。次の標的は、上層聖堂の補給中枢だ。光の教会に教え込んでやる。暗闇の中にこそ、奴らの喉元を喰い千切る真の分隊が潜んでいるという現実をな」




