↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
亡国の王子ですが、のんびりしようと下級官吏になったら、なぜか昼行燈と噂の第七皇女の秘書官になりました  作者: 萩原梓荻(旧:萩原詩荻)
第四章 皇帝レオンハルト

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
91/112

第85話 亡国の王子、徹夜した。

「カミラ姉さん。急ぎって言われたから来てみたら、随分大所帯ですね」


 先日、カミラ殿下と二人きりで話した第二皇女宮の応接室に柔らかな声が入ってきた。


 銀髪碧眼。


 整った顔立ちに、柔らかい笑み。


 第四皇子オスカー・フォン・ライヘンバッハ殿下。


「あら、何か困ることでも?」


 カミラ殿下が優雅に微笑みながら、オスカー殿下を迎え入れる。


 ちなみに、俺はすでにお腹がいたい。


「いやいや」


 オスカー殿下が、困ったように笑って、エレオノーレ殿下に目を向ける。


「エルがいるって知ってたら、お土産の一つでも持ってきたのにってだけですよ」


「お気遣いなく」


 対するエレオノーレ殿下は、いつもの皇女モードの顔……いや、少しだけ固い。


「あら、私にはお土産くれないのね」


「あんまりいじめないでくださいよ」


 オスカー殿下が困ったように笑う。


 逆に、この状況でいつもどおりの顔で話しているカミラ殿下が怖いです。


「今ちょっと忙しくて。カミラ姉さんが喜ぶようなお土産を探す余裕がないんですよ」


「あら。何かあったのかしら?」


 カミラ殿下。


 あなた知ってますよね。


 何があったか滅茶苦茶知ってますよね。


「まあ、姉さんには隠しても無駄だと思うので言ってしまいますが」


 オスカー殿下が軽く肩をすくめる。


「実は昨夜、魔導局から書類が大量に消えてしまいまして」


 その主犯、知ってます。


 結局、徹夜で俺と一緒にたくさん書類確認するのに奔走して、今は第七皇女宮の長椅子で昼寝してます。


「あら、大変ね」


 カミラ殿下が手に持つカップの中の紅茶は全く揺れていない。


 さすが。


「それは大変ですね」


 エレオノーレ殿下も、いつもの完璧な皇女の顔で頷く。


 こっちも怖い。


 我慢できずに目を逸らすと、扉の傍に立つケイと目が合った。


 目だけで、「助けて」と言ってみたが、目だけで「無理」と返ってきた気がする。


 まあ、そうだよね。


「幸い、普段なかなかやる気を出さない開発班長が、『新発明を試す機会だ!』と張り切ってるので解決自体はすると思いますよ」


 ……。


 …………マーリン?


 お前、何してんの?


 いや、何をしてるかは分かる。


 犯人探しに張り切ってるんだよな。


 犯人なのに。


 ケイの口元が、ほんのわずかに引きつっているのが横目に見える。


 わかるよ。


 俺も今、全力で表情筋を殺している。


「優秀なのね、その開発班長」


「腕だけなら、帝国でも指折りなんですが……」


 オスカー殿下が、少しだけ遠い目をする。


「やる気を出す方向を、たまには選んでほしいところです」


 あいつ、犯人側なのに絶対楽しんでるぞ。


「何かあれば手伝うわよ」


 カミラ殿下がさらりと言う。


「第二皇女宮でできることなら、遠慮なく言ってちょうだい」


「ありがとうございます」


 オスカー殿下が微笑みながら返す。


「でも、大丈夫ですよ。カミラ姉さん」


「そう?」


「ええ」


「ならいいけど」


 二人ともにっこにこである。


 普通に聞けば、弟を心配する姉と、それに礼を言う弟である。


 ホントこういうの嫌。


「それで」


 オスカー殿下が、一度部屋の中を見回す。


 エレオノーレ殿下と俺とケイを見て、またカミラ殿下に視線を戻す。


 ……この人、俺の事覚えてるんだろうか。


 いや、夜会でほんの少し話しただけの秘書官のこと覚えてる皇族なんて普通いないよな。


「そういうわけで、今日はあまり長居できないんですが、どんな用ですか?」


「あら」


 カミラ殿下が、少しだけ首を傾げる。


「勘違いされたら困るわ」


「何をですか?」


「今日あなたを呼んだのは私だけど、用事があるのは、私じゃないもの」


「……そうなんですか?」


 オスカー殿下の表情が不思議そうなものに変わる。


「私がやっても良かったんだけどね」


 カミラ殿下が、優雅に脚を組み替える。


「『頑張ります』って言われたら、譲るしかないでしょ」


「急に何の話です?」


「私の出番はここまでってこと」


 カミラ殿下が、ゆっくりと隣を見る。


 部屋の空気が変わった。


 さっきまでの、姉弟の軽いやり取りが消える。


「エル」


「はい」


 呼ばれたエレオノーレ殿下が、ゆっくりと姿勢を正す。


「オスカー兄様」


 静かな声だった。


「用事があるのは、私です」


 その声は、昼行燈と呼ばれる第七皇女ではなく。


 普段、第七皇女宮でゴロゴロしているエレオノーレ殿下でもなく。


 皇帝の座を目指すと決めた、エレオノーレ・フォン・ライヘンバッハの声だった。


「おや、エルが?」


 オスカー殿下が、少しだけ目を丸くして――すぐに、いつもの穏やかな笑みに戻る。


「珍しいね、何の用かな」


 優しい兄の声に聞こえる。


 妹を心配する兄の顔に見える。


「……」


 エレオノーレ殿下が、一度だけ息を吸った。


 背後から見ている俺には、殿下が少し力を入れて、手を握ったのが見える。


 ……がんばってください。


「オスカー兄様」


 静かに。


 はっきりと。


「お父様に、毒を盛りましたね?」


 ……俺は正直、まだ何かの間違いであってほしいと願っている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。