↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
亡国の王子ですが、のんびりしようと下級官吏になったら、なぜか昼行燈と噂の第七皇女の秘書官になりました  作者: 萩原梓荻(旧:萩原詩荻)
第四章 皇帝レオンハルト

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
81/112

第75話 亡国の王子、売られる。

「ただいま戻りました……」


 皇帝陛下の私室から生きて帰った俺は、そのまま第七皇女宮へ戻った。


 偉い。


 逃げなかった。


 普通に考えて、帝国皇帝の私室から生きて出た下級官吏は、そのまま早退しても許されると思う。


 思うのだが、世の中はそう甘くない。


 報告という仕事が残っている。


「おかえりなさい」


「あら、ロビン生きてたのね」


「無事でよかったわ、ロビンくん」


 そこには、エレオノーレ殿下とリズ。


 そして、カミラ殿下がいた。


「……」


 バタン。


 ……カミラ殿下の幻が見えたし、幻聴も聞こえた気がする。


 疲れてるんだな、俺。


「ちょっと待ちなさい」


 扉の向こうからカミラ殿下の声がした。


 ……幻覚じゃなかったのかぁ。


 仕方ないので、もう一度扉を開ける。


「なんで一回閉めたの?」


 エレオノーレ殿下が不思議そうに首を傾げている。


「いえ、ちょっと幻と見間違うほど美しいカミラ殿下が見えたので思わず」


「あら、お上手」


 カミラ殿下が長椅子に優雅に腰掛けながら、いつもの艶やかな笑みを浮かべている。


 よかった。


 昨日の深刻なカミラ殿下よりは、こっちの方がまだ見慣れている。


 でも、元気なら自分の宮へお帰り下さい。


「カミラ殿下、どうしてこちらに?」


「あなたを待っていたのよ」


 絶世の美女に「待ってたの」って言われて、ここまで嬉しくないことある?


「なぜ?」


「お父様に聞かれたことの確認のために、エルのとこ来たら『一人きりでお父様のとこに残されました』って聞いたから」


「はい、疲れました」


「ロビンくんが、お父様と何を話したか気になるじゃない」


 それはそう。


 なぜか秘書官ごときが一人で皇帝と話して来たら気になるよね。


「で?」


 エレオノーレ殿下も執務机で姿勢を正した。


「何を言われたの?」


「……」


 リズも含めた三人の視線が刺さる。


 言いたくない。


 言えば面倒なことになる。


 でも黙ってたらもっと面倒なことになる。


「結論から申し上げますと」


「うん」


「カミラ殿下とエレオノーレ殿下が、皇帝陛下に教会の治療を受けさせようとしてる件はバレてます」


「……」


「……」


 あ。


 二人揃って遠い目をしちゃった。


「『娘どもは、隠し事が上手くなったつもりらしいが、まだ甘い』とのことです」


「「…………」」


 二人の表情が完全に消えた。


 やめてください、俺が悪いみたいじゃないですか。


 伝言してるだけですからね?


 あんなに二人で「バレてるかしら?」とか「微妙ですね」とか真面目な顔してたのに全部バレてましたね。


「……ということは、もう教会の治療を受けてもらうのは無理ってこと?」


 カミラ殿下が何かを堪えるようにこめかみを押さえながら聞いてくる。


 頭痛ですか?


 ヘレナさんに診てもらいます?


「いえ、条件付きで教会の治療を受けていただけるそうです」


 カミラ殿下とエレオノーレ殿下の表情が一瞬明るくなった。


 ごめんなさい。


 その希望、次の一言で消えます。


「次の皇位継承者が、『教会の治療を受けろ』と言えば受ける、と」


「「…………」」


 ほら、綺麗に消えた。


 そのまま二人揃って頭抱えちゃったぜ。


 美人姉妹の皇女二人が同じ顔で頭を抱えている光景は、非常にレアだと思う。


「で、ここからが本題なんですけど」


「まだあるの?」


「あります」


 むしろここからが本番である。


 俺だって聞きたくなかった。


「『次の夜会に自分も出て、その場で後継者を確定させる』と」


「「…………」」


 あ、二人の目が死んだ。


 そのままカミラ殿下とエレオノーレ殿下が、ゆっくりと顔を見合わせる。


 そして。


「「はぁぁぁぁぁ……」」


 タイプの違う銀髪美女が二人揃ってため息を吐いている。


 息ぴったりですね。


 姉妹だなぁ。


 ハハ、おもろ。


「ロビンくん」


 カミラ殿下がちょっとこっちを睨んでくるが、目に力がないですね。


 お疲れですか?


「はい」


「今、ちょっと嬉しそうじゃなかった?」


「気のせいです」


「絶対笑ったわよね?」


「気のせいですよ、カミラ殿下」


「口元」


「元からこの形です」


「嘘つき」


 いいじゃないですか!


 俺はさっき一人で全部食らったんですよ!


 少しくらい共有して苦しんでください!


「……お父様、何を考えてるの」


「『子どもたちにくれてやる最後の余興だ』だそうです」


「最悪ね」


「俺もそう申し上げました」


「言ったの!?」


 エレオノーレ殿下が顔を上げた。


「つい」


「よく生きて帰ってきたわね……」


「笑われました」


「笑うんだ……」


 笑ったんですよ、あの人。


「つまり」


 カミラ殿下が、指先でこめかみを押さえながら言う。


「お父様に治療を受けさせたければ、帝位を取れ、と」


「そうなりますね」


「なんなのよ、もう!」


 エレオノーレ殿下は机に突っ伏してしまったし、カミラ殿下は長椅子のクッションに埋まった。


 普段人を振り回してる人たちが振り回されてる。


 この二人、こうしてると普通に仲良さそうだな。


 というかエレオノーレ殿下、猫かぶり忘れてるけどいいんですか?


 カミラ殿下にはバレてる?そんな余裕ない?それはそう。


「……エル」


 カミラ殿下が、ゆっくりと顔を上げた。


「はい?」


「ちょっと、二時間でいいからロビンくんと二人きりで話させてくれない?」


 なんで!?


「嫌です」


 即答!


 ありがとうございます、殿下!


「手は出さないから」


「当たり前です」


「お願い」


「ダメです」


 いいぞ、もっと言ってやってください。


 俺は今日もう限界なんです。


 皇帝陛下と密室で話しました!


 今日の政治ポイントは上限まで貯まってます!


「……分かったわ」


 カミラ殿下が腕を組んだ。


 諦めた?


「うちのお抱えパティシエ、一回貸してあげるから」


「わかりました」


「殿下!?」


 早ぁ!?


 今までの拒否は何だったんですか!?


「カミラ姉様のお抱えパティシエなのよ?」


 エレオノーレ殿下が見たことないくらい目をキラキラさせてる。


「知りませんよ!?」


「宮廷菓子大会で三年連続金賞取った人よ」


「そういう問題ですか!?」


 いや、すごい人なのはわかるけど!


「借りたら、三人分作ってもらって一緒に食べましょ」


「……ちなみに何を作ってもらう予定で?」


「そうね、頑張りに免じて優先的に希望してもいいわよ」


 え、本当に?


 エレオノーレ殿下が順番譲ってくれるんですか?


 優しい。


「…………」


 いやいやいや!


 騙されるな俺!


「リズ、助けて!」


「ごめん、私もそのパティシエのお菓子食べたい」


「裏切り者!」


 この宮、甘味に弱すぎるだろ!


「それに今朝、第二皇女宮行く心の準備してたんだからちょうどいいじゃない」


「皇帝陛下に会いに行って、その準備分は使い果たしたよ!」


 一日に皇帝私室と第二皇女宮をはしごする心の準備なんてしてねぇんだよ!?


「決まりね。さ、ロビンくん。行くわよ」


 カミラ殿下が、満足そうに立ち上がって俺を引きずっていく。


 いや、力強っ!?


「これでもエルは、あなたのことをすごく大事にしてると思うわよ?」


「今この瞬間、大事にされてる実感が全くないんですが!?」


「あら、うちのパティシエ一回分の価値があるってことでしょう?」


「価値の付け方が謎すぎる!」


「安心しなさい。返す時は綺麗にして返すから」


「何する気ですか!?」


「話をするだけよ」


「今の言い方で信用度下がりましたけど!?」


 俺はそのまま執務室の外へ引っ張られていく。


「行ってらっしゃい、ちゃんと二時間で帰ってくるのよ」


「あ、ロビン。約束どおり晩御飯は奢ってあげるから」


 エレオノーレ殿下とリズが笑顔で手を振ってやがる!


 わかったよ!


 行けばいいんでしょ!行けば!


 その代わりパティシエにはアップルパイ作ってもらうし、リズには麦穂亭で一番高いワイン奢らせてやる!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。