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亡国の王子ですが、のんびりしようと下級官吏になったら、なぜか昼行燈と噂の第七皇女の秘書官になりました  作者: 萩原梓荻(旧:萩原詩荻)
第四章 皇帝レオンハルト

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第66話 亡国の王子、また負ける。

「ロビンくん」


「はい」


 教会の図書室。


 いつものようにドロシーさんが座ってて、俺も読書でもしようかなと思ったところで、とても優しい笑顔のヘレナさんに呼ばれた。


 あ、まずい。


 この笑顔は本気で怒ってる時の顔!


「先日、怪我したのに教会来てくれなかったのね?」


「あ゛」


 詰んだ。


「さみしいわぁ」


 ヘレナさんが、悲しそうに頬へ手を当てる。


「私、ロビンくんに信用されてないのね」


「ち、ちがうんです!」


 違います!


 信用してます!


 むしろ信用しすぎているからこそ来なかったと言いますか!


「じゃあ、どうして来てくれなかったの?」


「その……」


「たぶん、教会に来てくれた方が早く治ったわよ?」


「……」


 非常に言いづらい。


 だって言ったら絶対怒られる。


 でも、ヘレナさんの表情に耐えられないので、観念する。


「……大した怪我じゃなかったですし」


 少なくとも第三皇子宮基準では軽傷だったので、嘘ではない。


「ヘレナさんに怒られるかなって」


「あらあらまあまあ」


「そういう慈愛に満ちた表情されるのが嫌だったんですよ!」


 ほらぁ!


 今まさにこれ!


 怒鳴られる方がまだマシなの!


 優しく微笑みながら、その「困った子ねぇ」って顔される方が罪悪感すごいの!


「でも、心配したのよ?」


「……ごめんなさい」


 俺は弱い。


 俺が勝てる相手って誰なんだろう。


 書類?


 いや、書類にもたまに負けてるな。


「はい、よく謝れました」


 ヘレナさんが俺の頭を撫でてくる。


 20代男子の頭を撫でるのやめてください、と言いたいけど言えない。


 この人には一生頭が上がらないから。


「次からは風邪ひいたり怪我したらちゃんと来てね」


「……はい」


「約束よ?」


「はい」


 ヘレナさんに逆らってはいけない。


 神様もきっとそう言っている。


「ところで」


「なあに?」


「なんで怪我したの知ってるんですか?」


 俺、ヘレナさんに言ってないよね?


 そもそも言いたくなかったから来なかったわけで。


「あら、普通に街の噂になってたわよ」


「もうヤダこの街!」


 なんでだよ!!


 帝都の情報網どうなってんだ!?


 もっと野菜の値下げとかそういう情報広めようよ!


「それに、ドロシーちゃんが詳しく教えてくれたし」


「……は?」


 ゆっくりと首を回す。


 黒髪眼鏡が、何事もなかったかのように本を読んでいる。


「ドロシーさん?」


「なによ、今読書中なのが見えない?」


「ヘレナさんに話したんですか?」


「話したけど」


「話したけど!?」


「うるさいわねぇ」


 ようやく顔を上げたドロシーさんが、心底面倒くさそうに眉をひそめた。


「図書室では静かにしてよ」


「そこ!?」


 もっと他に言うことあるでしょ!?


「城内のあちこちでも噂になってたんだから、別にいいじゃない」


「少しくらい申し訳ないと思ってもらえませんかねぇ!?」


「なぜ?」


「なぜ!?」


 そこから!?


「ロビンが怪我したって話をヘレナさんに教えるのが、何の規則に違反したって言うのよ」


「ぐっ……」


 そんな規則あるわけないでしょ!


「それに、知ったらヘレナさんが心配するってわかってて来ないロビンが悪いんじゃない」


「ちくしょう正論!」


 ドロシーさんが、少しだけ得意げに眼鏡を直した。


 腹立つ。


「そもそも、グスタフ……殿下に殴られるようなことをするロビンが悪いんじゃない」


 ギルさんといい、ドロシーさんといい、変装するなら呼び方の練習もしておいてほしい。


 まあ、日常生活送ってたら普通はそんなに皇族の名前呼ぶ機会なんてないか。


「俺だって好きで殴られたわけじゃないですよ?」


「でも殴られたんでしょう?」


「殴られましたけど!」


「なら事実じゃない」


「反論できない!」


 否定できない。


 この人、事実で人を殴るのが上手すぎる。


「ちなみに、私が聞いてヘレナさんに教えたのは『第七皇女宮秘書官が第三皇子殿下に無理矢理模擬戦へ付き合わされた上に殴られて、空を飛んだ』という噂だったわね」


「……細かく言えば違うんですけど、もうそれでいいです」


 むしろ、その噂にはこれからも元気に帝都を駆け巡ってもらいたい。


「しかも、グスタフ殿下本人が『エルのとこの細いのはなかなか根性があるぞ!ガハハ!』ってあちこちで言ってたわよ」


「あの人は……」


 なんだろう。


 約束どおり大事なことだけは秘密にしてくれてるのはわかる。


 わかるんだけど、じゃあそれ以外は何言ってもいいってことじゃないと思うんだ!


「まあ、いいわ」


 ドロシーさんが小さく肩をすくめて、また本に視線を戻す。


「今度、暇なときに模擬戦の中身、詳しく聞かせなさい」


「興味あるんですか?」


「模擬戦した本人が話す戦闘描写ってどんな感じになるかという興味はあるわね」


「ああ、戦闘描写って書くの難しいですよね」


 わかる。


「……」


「……」


 え?


 ドロシーさんとヘレナさん、その表情なんですか?


「ロビン」


「はい」


「何か書いたことあるの?」


 あ、俺の馬鹿!?


 ローラントのせいで、あの事思い出したせいだ!


 全部ローラントが悪い!絶対一発殴る!!


「ナイデスヨ?」


「嘘っぽいわね」


「あら、ロビンくん。私にも隠し事?」


 ヘレナさんがお茶を注ぎながら哀しそうな顔で追及してくるけど言いませんよ!


 というか、ごめんなさい。


 教会で目覚めて名乗った瞬間から隠し事してます。


「まあ、いいわ。書いたことがあるなら、そのうち読ませなさい」


「絶対嫌です」


「嫌ってことは、本当にあるのね」


「あら、それなら私も読んでみたいわ」


「もう存在しません!」


 城と共に燃えた筈!たぶん!きっと!!

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