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亡国の王子ですが、のんびりしようと下級官吏になったら、なぜか昼行燈と噂の第七皇女の秘書官になりました  作者: 萩原詩荻
第二章 第五皇女ドロテア

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第32話 亡国の王子、ご褒美をもらう?

「終わった……」


 監査二日前。


 最後の書類を机の上へ置く。


 美しい。


 人生で書類の山を見て美しいと思う日が来るとは思わなかった。


 でも美しい。


 全部揃っている。


 日付順。


 項目別。


 必要な添付資料付き。


 数字も確認した。


 リズとエレオノーレ殿下も確認した。


 さらに俺も、もう一度確認した。


 これで何かあったら、もう知らん。


「意外と終わったわね」


「ええ、驚きです」


 エレオノーレ殿下とリズがまるで他人事のようなリアクションをとる。


「驚くくらいなら文官増やしましょうよ!?」


「増やさなくても出来たんだから大丈夫よ」


 エレオノーレ殿下が、「何言ってんだコイツ」みたいな顔をしている。


「もうヤダ!」


 机に突っ伏す。


 あ、冷たくて気持ちいい。


 この三日間。


 俺は働いた。


 とても働いた。


 朝から書類。


 昼も書類。


 夜も書類。


 昨日なんて、夢の中で提出期限を過ぎた書類に追いかけられた。


 紙のくせに足が速かった。


「まあまあ」


 リズが俺の頭を軽く叩く。


「準備終わったんだから、細かいことはいいじゃない」


「人員不足は細かいことじゃない!」


「でも終わった」


「終わらせたんだよ!」


「じゃあ問題ないわね」


「問題あるって言ってんだろ!」


 こういう職場が人を壊すんだ。


 ドロシーさんに教えてあげたい。


 いや、教えたところで俺の職場環境は改善しないけど。


「そうね……」


 エレオノーレ殿下が、少し考えるように頬へ手を当てた。


「そこまで言うなら、監査準備を終えたあなたに、気分転換ができるご褒美をあげましょう」


「ご褒美?」


 反射的に身体を起こした。


「まだ日も高いわ」


 エレオノーレ殿下が窓の外を見る。


 確かに、外は明るい。


 憎らしいほど良い天気だ。


 俺が書類と格闘している間も、きっと帝都の空は青かったのだろう。


 許せない。


「この後はお休みにして、街にお菓子でも買いに行くことにしましょう」


「本当ですか?」


 休み……だと……。


 休み。


 街。


 お菓子。


 なんて甘い響きだ。


「ええ」


 エレオノーレ殿下が、少し得意げに頷く。


「監査の準備も終わったし、今日はもう仕事はしなくていいわ」


「殿下……」


 もしかすると、エレオノーレ殿下は素晴らしい上司なのかもしれない。


「じゃあ、失礼しますね」


 机の上を片付け、鞄を持つ。


 善は急げ。


 殿下の気を変わる前に皇城から出よう!


「ええ、一時間後に、そうね。北区の例のホテルのVIPルーム集合ね」


「……え?」


 ――足が止まった。


 集合?誰が?


 ……まさか。


「私も一緒に買い物行くから」


「殿下!?」


 何言ってんの、この人!?


「ああ、私とリズは一緒に隠し通路通っていくから、先にホテル行ってて」


「その発言自体もだいぶヤバいですよ!?」


 例のホテルって、例のラブホテルでしょ!?


 そこに『先行ってて』発言は普通に意味合いがおかしくなりますからね!?


「大丈夫よ、リズは変装魔術が得意なのよ」


「今そんなこと聞いてませんし、その情報は怖いです!」


 エレオノーレ殿下が、なぜかドヤ顔をしているが何が大丈夫なんだ、それ。


「はぁ……」


 リズが深いため息をついてから、こちらを見る。


 お、リズ!一緒に殿下を止めてくれるか!?


「ロビン、変装魔術は皇城内で使うと結界で強制解除されるの。だからあなたは着替えて先行ってて」


「なんでホテル集合かを聞いてるんじゃないんだよ!?」


 というか、俺の国と一緒で、やっぱりそういう結界あるのね。


 昔、王城でのパーティに恋人を連れてきて、入口で変装魔術が解けて阿鼻叫喚になった貴族がいた。


 あれは正直、他人事としては面白かった。


「諦めなさい。殿下は一度言い出したら聞かないもの」


「諦めないで!?」


 リズは止める側だと思ってたのに。


「だって」


 ちょっと拗ねたような声に振り向くと、エレオノーレ殿下がクッションを抱えてこちらを見ている。


「お土産買ってきたときに『焼きたても美味しい』って言ってたじゃない」


 ……。


 ……言ったなぁ。


 …………わかったよ、わかりましたよ!


「一時間後ですね、わかりました。普通に門から出て、先に行って部屋押さえておきます」


 そんな表情されたら断れないじゃないか。


「ええ、頼んだわよ」


 ちょっとほっとしたような表情に見えるけど、たぶん気のせいだろう。


「あ、ロビン」


 リズが何かを準備しながら声をかけてくる。


「ん?」


「そうそう気付かれないと思うけど、何かあったら先日教えた裏方の店のどこかに駆け込むのよ」


「ああ、わかった」


 普通にまともに襲撃されたら、俺じゃ殿下を守れないからな。


「それから、どうせなら先日買った私服に着替えるといいと思うわよ」


「ああ、そうだな」


 先日、リズに買わされた私服が役に立つ日が来るとは。


 ……いや、待て。


 あの日の買い物と裏方の店紹介って、まさかこれを見越して……?


「リズ」


「何?」


「先日の外出って、まさか……」


「偶然よ」


「本当に?」


「殿下が『正直行きたい』って言った時点で可能性だけは考えてたけど」


「マジで優秀だな!?」


 いや、マジで凄いわ、リズ。


 勝てん。


 とりあえず、休みは休みに違いない。


 さっさと着替えてラブホ行こ。


 ……自分でも何言ってるかわからなくなりそうだけど、気にしない!

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