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亡国の王子ですが、のんびりしようと下級官吏になったら、なぜか昼行燈と噂の第七皇女の秘書官になりました  作者: 萩原梓荻(旧:萩原詩荻)
最終章 あなたはだあれ?

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第101話 亡国の王子、大宴会。

「さて」


 皇帝陛下が片手を上げて、拍手を鎮める。


 この人、病人なのに存在感あるのホント反則だと思う。


「エレオノーレ、何か言っておくことはあるか?」


 丸投げスタイル。


 こういうとこ、エレオノーレ殿下の父親だなぁ。


「では、三つだけ」


 エレオノーレ殿下が、一歩前へ出た。


 会場の貴族たちが、息を呑む。


 次代の皇帝が、最初に何を宣言するのか。


 みんな、それを聞き逃すまいとしている。


 ――今この場にいるのは、もう昼行燈の第七皇女ではなかった。


「なんだ、たった三つでいいのか?」


「はい。他は書類にして、後日改めて」


「欲がないな」


「いえ、欲だらけですよ」


 エレオノーレ殿下が笑う。


「一つ、お父様には、教会の治療を受けていただきます」


 ――ざわっ。


「陛下に、教会の?」


「あの陛下が……?」


「エレオノーレ殿下、早くも取り消されるのでは?」


 皇帝陛下の教会嫌いは、帝国中の誰もが知っている。


 それを、次代の皇帝が最初の決定として突きつけた。


 まあ、事前に出されていた条件を知らない人は全員驚くよな。


「……ふん」


 皇帝陛下が、心底嫌そうに鼻を鳴らす。


「儂が神に縋ったなどと知れば、帝国は弱くなったと見られるぞ?」


「それはその時、考えます」


「……次代が命じるのであれば、従おう。二言はない」


 ……受けるんだ。


 皇帝のくせに、変なところで律儀だな。


 ドロテア殿下が目を閉じ、カミラ殿下が小さく息を吐いたのが見えた。


 ……よかったですね、ドロシーさんもカミラ殿下も。


 あと、ヘレナさん。


 条件クリアしたので、よろしくお願いしますね。


 患者さんは、なんと帝国皇帝です。


「二つ目。オスカー兄様は、ご体調が優れないと伺っております」


 大広間が、またざわめいた。


 今夜、オスカー殿下がここにいない理由は、貴族たちの間では「体調不良」で通っている。


 本当のことを知っているのは、ほんの一握りだ。


「なので、しばらくはグスタフ兄様の元で体力をつけていただこうと思います」


「任せろ!」


 グスタフ殿下の顔が、ぱあっと輝いた。


「オスカーは昔から体力がないからな!走り込みからみっちり鍛え直してやる!」


「お、お気の毒に……」


「第四皇子殿下、ご体調が優れないのに……」


 貴族たちが、同情的にざわめいている。


 体調が優れない人を、グスタフ殿下に預ける。


 事情を知らない人から見たら、ただの拷問だ。


 事情を知っている俺から見ても、だいたい拷問だと思う。


 オスカー殿下。


 小説の解決編、走り込みの合間に読めるといいですね。


 届けませんけど。


「あら、素敵な療養ね」


「あれは、頭ばかり育ったからな。丁度よい」


 カミラ殿下の口元が小さく笑っているし、皇帝陛下まで、同意した。


 怖い。


 うん、まあ。


 思うところがないではないけど、この家族はそれでいいのかもね。


「なお、魔導局長の座については、後日、改めて差配します」


 その一言で、貴族たちの目が、ぎらり、と光る。


 帝国の技術の中枢。


 その長の椅子が、空くかもしれないとなれば当然だろう。


 ……マーリンがなったりしないだろうな。


 あいつ、絶対に逃げるぞ。


「三つ目です」


 殿下の視線が、ゆっくりと横へ動いた。


「ハインリヒ兄様の宮に、ドロテア姉様による監査を」


「「……は?」」


 ハインリヒ殿下とドロテア殿下の声が、綺麗に重なった。


「なんで私が」


 すごく不服そうにドロテア殿下が反論する。


「ドロテア姉様以上に、公平かつ正確に第一皇子宮を監査できる方がいらっしゃいますか?」


「……」


 ドロテア殿下が、黙っちゃった。


 否定できないらしい。


「ド、ドロテアの……監査……」


 ハインリヒ殿下の顔色が、さっき皇帝陛下に詰められた時より悪くなってる。


 やっぱり正座させられたことありそうですね。


「……はぁ」


 ドロテア殿下が、深い深いため息をついた。


「わかりました。徹底的にやりましょう」


「お、お手柔らかに頼む……」


「しません」


 ハインリヒ殿下の肩が、がっくり落ちた。


 第一皇子宮の皆さん。


 あなた方の交際費の余裕は、たぶん今夜で終わりです。


「以上か」


 皇帝陛下がつまらなさそうな顔で、エレオノーレ殿下に問いかける。


「はい。今夜は、以上です」


「思ったより、退屈な決定しかなかったな」


「せっかくの夜会。皆さん、いつまでも話を聞いているより、楽しむ方がいいでしょう?」


「いつも夜会では存在感を消していたくせに言うではないか」


「はい、言います。ついでにお父様は病人なので、このあとはすぐ部屋に戻ってくださいね」


「……」


「……」


「……宴だ」


 皇帝陛下が振り返り、扉に向かいつつ片手を上げる。


「皆、飲め。食え。今夜は……ただ、次代を祝ってやれ」


 楽団が、待っていたかのように華やかな曲を奏で始める。


 一拍遅れて、大広間が爆発した。


 拍手と、歓声と、杯のぶつかる音。


「エル!」


「わっ」


 最初に飛びついたのはカミラ殿下だった。


 次代皇帝に決まったばかりの妹を、遠慮なく抱き締める。


「ちょ、カミラ姉様」


「やったじゃない!」


「苦しいです」


「ガハハハハ!エル!めでたい!持ち上げるぞ!」


「え、ちょっと、兄様」


 グスタフ殿下が、有無を言わさず、次代の皇帝を担ぎ上げた。


「やめてください!髪が!ドレスが!」


「ガハハ!軽いな!もっと食え!」


 次代の皇帝が、第三皇子に高い高いされている。


「降ろしてくださいってば!」


「あらあら、エル。いい眺めじゃない」


「カミラ姉様も止めてください!」


「はは、エル。皇帝になったら毎日こんな感じかもよ」


「ジルベルト兄様は黙っててください!」


「あー、グスタフ。エルも淑女だからね。ドレスの中が見えないように注意してあげなさい」


「ハインリヒ兄様も注意するのはそこですか!?」


「じゃ、がんばんなさい」


「ドロテア姉様!?見捨てないで!」


 ……。


 なんか、すごく仲良さそうだな。


 殿下が、皇族の兄姉に囲まれて、もみくちゃにされて、完璧な顔なんてとっくに投げ捨てて、本気で抗議している。


 あ。


 こっち見た。


 助けを求める目だ。


 ……。


 頑張ってください。


 俺、ちょっとやることがありまして。


 ――そう、今こそお菓子の塔へ!


「ロビン殿!」


 目の前に貴族が現れた!


「いやあ!以前から素晴らしい方だと思っておりました!」


 絶対嘘だ。


 たぶん今日初めてお話しますよね?


「次代陛下の筆頭秘書官として、今後ますますお忙しくなられることでしょう!」


「ぜひ、我が領地についても一度お話を!」


「アルバート殿とお呼びすべきか!?」


「い、いや、その」


 四方八方から声が飛んでくる。


 さっきまで俺、反逆罪で捕まりかけてたんですが!?


 変わり身が早すぎる。


 これが帝国貴族の生存戦略。


 強い。


「今度、我が家の晩餐に!」


「ロビン殿、こちらのワインをご存じですか?」


「ロビン様!ぜひ娘を紹介させてください!」


「あの、私、ただの秘書官で……」


「ご謙遜を!」


 謙遜じゃない!


 本当に下級官吏!


「次代皇帝陛下の最側近でしょう!」


「今後ともぜひ!」


「うちの娘が!」


「領地の税制について!」


「エレオノーレ殿下のお好きな甘味は!?」


 最後の人。


 何するつもりですか。


 ……。


 …………。


 そんなこんなで、大量の貴族に囲まれ続け。


 気付いた時には、お菓子の塔は消え去っていた。


 焼き菓子どころか、てっぺんにいた美しい細工の鳥すらいない。


 たぶん、あれ砂糖細工の食べられる奴だったのに。


 鳥、飛んで行った?


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