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残高ゼロの極小ダンジョン経営~頼りない水晶コアと、ネズミ穴から始める迷宮拡張記~  作者: 盆ちゃん


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第98話(閑話):熱狂の目覚めと、最高位の招待状

第98話(閑話):熱狂の目覚めと、最高位の招待状

一週間に及んだ夢のような『グランド・バカンス』が終わり、大深緑の迷い森の地下に広がる迷宮国家は、再び日常の朝を迎えた。

しかし、その景色は休暇前とは決定的に異なっていた。

「おうおうおう! 休みボケしてんじゃねぇぞ! 今日からまた気合い入れて極上の魔銀ミスリルを叩くからな!」

「親方こそ! キャンプ場で毎晩深酒してたくせに!」

第1都市の職人街では、ガストンの工房をはじめ、あちこちから威勢の良い怒号と快活な笑い声が響き渡っている。

彼らの顔には、かつてのような「今日を生き延びるための悲壮感」や「過労による疲弊」は微塵もなかった。一週間の間、一切の労働から解放され、海で泳ぎ、山で語り合い、美味い飯を食いつくしたことで、彼らの心身は完全にリフレッシュされていたのだ。

「よぉし、行くぞお前ら! 次の休みには、高級エリアの海鮮フルコースを食うんだ! 第5階層で魔石を死ぬほど稼いでくるぜ!」

「おう! あのエンシェント・ドラゴンの尻尾攻撃、今度こそ完璧にパリィしてやる!」

第2都市フロンティアの冒険者たちもまた、恐ろしいほどの熱気を帯びていた。

命の危険がない安全な狩り場と、そこで得た報酬で過ごす至高のリゾート。その二つを知ってしまった彼らにとって、ダンジョン探索はもはや「苦役」ではなく、「最高の娯楽バカンスを掴み取るためのエキサイティングな仕事」へと昇華されていた。

「休むために働く」「楽しむために稼ぐ」という意識の劇的な変化。これこそが、シンが莫大なDPを注ぎ込んでリゾート階層を創り上げた最大の目的であり、成果であった。

街全体がかつてないほどのポジティブなエネルギー(DP)をダンジョンに還元し続ける中、迷宮の中枢である『マスターズ・チェンバー』では、次なるフェーズへ向けた重要な対策会議が開かれていた。

「――皆、ご苦労だった。バカンスの成果は上々だな。だが、俺たちの『リゾート計画』は、ここからが本番だ」

玉座に座るシンが、円卓を囲む最高幹部たちを見回して口を開いた。

レオンハルト、ミラージュ、ガストン、リリア、キュウビ、ファウスト。彼らもまた、それぞれの形で休暇を満喫し、鋭い眼光の中に余裕の笑みを湛えている。

「これより、第3都市『リゾート階層』を外部のVIPにも開放し、本格的な外交および外貨(魔力)獲得の装置として運用する」

シンの宣言に、幹部たちの表情がピリッと引き締まった。

「いよいよですね、マスター。あの『身分無用の絶対平等ルール』を敷いた上で、外の世界の権力者たちを招き入れると……」

ミラージュが、妖しくも楽しげな笑みを浮かべる。

「ああ。だが、いきなり見ず知らずの傲慢な貴族どもを無作為に入れるのは、現場の混乱を招く。だから、まずは『第一陣』として、ある程度気心の知れた、あるいは俺たちの力を正しく理解している者たちに招待状を送る」

シンは空間に魔法のホログラムを展開し、いくつかのリストを映し出した。

「まずは、我々の同盟国だ。獣人連邦の重鎮たちや、親交のあるエルフの長老たち。そして、聖王国の中でクーデターに協力してくれたまともな貴族層。彼らには、日頃の協力への感謝も込めて、高級エリアでの最高の歓待を約束する」

「なるほど。同盟国に我が迷宮の『圧倒的な豊かさと余裕』を見せつけることで、同盟関係をより盤石なものにするのですね。見事な一手です」

レオンハルトが深く頷く。

「……だが、マスター。同盟国だけでは、まだ刺激が足りないのではなくて?」

キュウビがキセルを吹かしながら、挑発的に目を細めた。

「当然だ。だから、もう一組……この世界における『最高位のVIP』たちを招待する」

シンはニヤリと笑い、リストの次のページを開いた。

そこに記されていた名前に、幹部たちは一斉に息を呑んだ。

「――『ダンジョンマスターの叡智の賢人会』の5人だ」

シンと同じく、この世界で強大なダンジョンを統べる5柱の古きマスターたち。

彼らは時に牽制し合い、時に情報を交換する、まさにこの世界の裏の支配者とも言える存在である。

「マスター! 正気ですか!? あの賢人会の化け物……もとい、重鎮たちを、我々の迷宮の中枢近くに招き入れるというのですか!」

流石のファウストも、片眼鏡をずらして驚愕の声を上げた。

「大丈夫だ。彼らは強大だが、同時にひどく『退屈』している。何百年、何千年と生き、自分たちの迷宮の底でふんぞり返っているだけの彼らに、『海』『山』『空』という別世界の娯楽と、絶対安全のバカンスを提供してやるんだ。絶対に食いつく」

シンは自信満々に言い放った。

「それに、彼らにも当然『絶対平等のルール』は適用される。賢人会のマスターであろうと、リゾート内では特権は一切ない。一般の冒険者と同じ海で泳ぎ、同じ屋台の飯を食ってもらう。もし彼らがルールを破って暴れるようなことがあれば……」

シンは、レオンハルトとミラージュに鋭い視線を向けた。

「全力で制圧しろ。迷宮の主だろうと容赦はいらん」

「「「……ッ!!」」」

幹部たちの間に、かつてない緊張と、そして爆発的な興奮が走った。

同盟国の王侯貴族にとどまらず、世界の裏側を支配するダンジョンマスターたちをも「一人の客」として扱い、ルールを強制する。

それは、シンの迷宮が名実ともに「世界最高の格」に到達したことを証明する、史上最大のイベントとなる。

「……フッ、ハハハハハ! 最高ですね、マスター! あの尊大な賢人会の爺さん婆さんどもに、水着を着せて砂浜を走らせるというのですね!」

「治安維持の準備は万全です。我が騎士団の威信にかけて、いかなる者の暴挙も防いでみせましょう!」

ミラージュが腹を抱えて笑い、レオンハルトが力強く胸を叩く。

「よし。招待状は、俺の魔力印を刻んだ最高級の羊皮紙で送れ。……さあ、世界中のお偉いさんたちに、本当の『遊び』ってやつを教えてやろうぜ」

熱狂の目覚めを迎えた迷宮国家。

そして今、世界の常識を根底から覆す「極上の招待状」が、各地の権力者たちへ向けて一斉に放たれようとしていた。

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