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残高ゼロの極小ダンジョン経営~頼りない水晶コアと、ネズミ穴から始める迷宮拡張記~  作者: 盆ちゃん


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第93話:喧騒の胎動と、酒場の熱狂

第93話:喧騒の胎動と、酒場の熱狂

第2都市の建設予定地である巨大な地下空洞は、今や迷宮内で最も熱気と活気に満ちた場所となっていた。

「おうおう! そっちの基礎、もっと魔力土を多めに配合しろ! ここは物流の要になる大通りだ、ドレイクの馬車が何台通ってもビクともしねぇようにガッチリ固めるんだよ!」

ドワーフの鍛冶師にして建築の要であるガストンの野太い怒声が、空洞中にこだまする。だが、その声に悲壮感や焦りは微塵もなく、むしろ祭りを仕切る棟梁のような痛快な響きがあった。

彼の指示のもと、屈強なオークたちや緻密な作業をこなすスケルトン工兵、そして巨体を揺らすストーンゴーレムたちが、種族の壁を越えて見事な連携を見せている。

「ガストンさーん! 第1都市の農場から、冷たい果実水と焼き立ての串焼きの差し入れですよー!」

エプロン姿のリリアが、数羽のハーピーたちと共に空を舞って現れた。彼女たちが抱える巨大なバスケットからは、食欲をそそる香ばしい匂いが漂っている。

「おおっ! 待ってましたぜ、リリア嬢ちゃん!」

「休憩だ、休憩! お前ら、しっかり食って午後の作業に備えろ!」

魔物も、人間も、亜人たちも、誰もが汗を拭いながら満面の笑みで差し入れに群がっていく。

そこには、かつて奴隷として虐げられていた者たちの暗い影はない。自分たちの手で「新しい居場所」を創り上げているという誇りと、希望に満ちた輝きがあった。

壁面には既に巨大な魔石のランタンが等間隔に設置され、地下とは思えないほど明るく、暖かな光で街の輪郭を照らし出している。第1都市とを繋ぐ大通路も着々と開通しつつあり、安全で豊かな生活基盤は、すでに確かな形を成し始めていた。

一方、その頃。

迷宮国家の国境付近、人間の国の辺境に位置する冒険者たちの宿場町は、かつてない喧騒に包まれていた。

「おい、聞いたか? あの『迷宮国家』が、新しく街を造るらしいぞ」

紫煙と安い酒の匂いが充満する酒場の片隅で、革鎧を着込んだ中堅冒険者が身を乗り出して言った。

「ああ、聞いたぜ。なんでも、俺たちみたいな冒険者や傭兵を広く受け入れる『第2都市』ってやつだろ?」

「なんでも、第1都市から安全で美味い飯やら上質な武具やらが、山のように運び込まれるらしい。治安も保障されてて、ボッタクリもねぇって話だ」

「マジかよ。最近、この辺りじゃ魔物も減っちまって稼ぎにならねぇし、貴族の税金は上がる一方だ。そんないい街があるなら、俺も移住してぇよ」

仲間たちがため息交じりにジョッキを傾ける中、最初に口を開いた男がニヤリと笑った。

「街の話だけじゃねぇ。俺たちにとって、もっと『美味い話』があるのさ」

男は声を潜め、テーブルの上の地図を指差した。

「その第2都市のすぐ隣に、俺たち冒険者専用の『新しいダンジョン』が開放されるらしいんだ」

「新しいダンジョンだと!?」

周囲の席の連中まで一斉に聞き耳を立てる。

「しかも、たったの『5階層』ぽっちだ。出てくるのはスライムやゴブリンといった手頃な魔物ばかり。しかも、倒しても倒しても、数日経てばまた同じ場所に湧いてくるらしい。つまり、素材の『枯渇』がねぇってことだ」

「なんだそりゃ……俺たちに安全に稼いで、街で金を落とせってことか? 迷宮の主も、なかなか商売上手じゃねぇか」

一人の傭兵が呆れたように笑うが、その目は興奮で血走っていた。安定した狩り場と、安全な寝床。命を懸けて日銭を稼ぐ彼らにとって、これほど魅力的な環境はない。

「だが、一番ヤバいのはそこからだ」

情報を仕入れてきた男が、さらに声を落とす。

「最下層の5階層には、とんでもないバケモンがボスとして鎮座してるらしい」

「バケモン? なんだよ、結局殺しに来てんじゃねぇか」

「それが違うんだよ。そのボスは……『絶対に冒険者を殺さない』らしい」

「はぁ?」

間の抜けた声が重なる。無理もない。迷宮のボスが冒険者を殺さないなど、前代未聞だ。

「なんでも、そのボスってのは神話に出てくるような『古代種』らしいんだが……適度に手加減して、俺たちの実力と根性を試してくるんだと。で、見事そいつを納得させるだけの『健闘』を見せれば、ボス部屋の奥に隠された宝箱を開ける権利がもらえるらしい」

「け、健闘するだけでいいのか? 倒さなくても?」

「ああ。中身は、そこでしか手に入らない希少素材や、ドワーフの国宝級の武具だっていう噂だぜ」

酒場が、一瞬だけ静まり返った。

そして、次の瞬間、爆発的な歓声と熱狂が弾けた。

「おいおいおい! 冗談だろ!? 死なねぇボス相手に腕試しして、上手く立ち回ればお宝ゲットかよ!」

「最高じゃねぇか! 俺の盾さばきを見せてやるぜ!」

「バカ言え、俺の魔法で一泡吹かせてやる!」

「おい、マスター! エールを追加だ! 明日にはここを出る! 荷造りの準備だ!」

これは、我が迷宮の腹心・ミラージュが、諜報員たちを使って巧みに流布させた「噂」であった。

真実と魅力的な誇張を絶妙に織り交ぜたその情報は、たくましい冒険者や傭兵たちの心を鷲掴みにし、熱病のように周辺諸国へと広がっていた。

安全な暮らし、尽きない狩り場、そして己の限界を試す最高のスリルと報酬。

迷宮の主の思惑通り、野心と希望に満ちた者たちが、今まさに新たな「第2都市」へ向けて大移動を始めようとしていた。

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