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残高ゼロの極小ダンジョン経営~頼りない水晶コアと、ネズミ穴から始める迷宮拡張記~  作者: 盆ちゃん


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第92話 方針会議で第2都市計画発足

第92話 方針会議で第2都市計画発足

帝国が掘り起こそうとしている禁忌の兵器『機巧魔神マキナ』、そしてそれにハイエナのように群がろうとする狂宴の残党たち。その厄介な火種を前に開かれた緊迫の対策会議が終わり、マスターズ・チェンバーには深い静寂が戻っていた。

レオンハルト、ザイード、リリア、ガストン、キュウビ、そしてファウストといった頼もしい迷宮の最高幹部たちが、それぞれの任を果たすために退室していくのを見送った後、俺は深く息を吐き出して玉座に背を預けた。

「お疲れ様です、マスター」

不意に、部屋の隅の影から滲み出るように一人の女性が姿を現した。我が迷宮の諜報と暗躍を担う有能な腹心、ミラージュだ。

「ミラージュか。ご苦労。……で、各国への通達はどうなった?」

俺が尋ねると、彼女は恭しく一礼し、涼やかな声で報告を始めた。

「マスターの仰せの通り、周辺各国の首脳陣に対し、我々の『宣言』を確実に届けました。『我々は、善政を敷く国家に対しては一切の手出しをしない。しかし、我が同盟国や自らの身内への不当な干渉、あるいは民を理不尽に虐げるような事実があった場合、その限りではない』――と。念のため、同盟国へも安心させる意味を含めて広く通達しております」

「反応は?」

「軒並み、青ざめておりました。一部の小国は反発の姿勢を見せかけましたが、これまでの我々の武力と規模を鑑みて、表立って異を唱える愚か者はおりません。これによって、人間国家との間には一応の安全保障と牽制関係が成立し、面倒な外交問題にはひとまずの始末が着いたと言えるでしょう」

「そうか……ならいい」

ひとまず、人間の国々がいきなり束になって攻め込んでくるような事態は避けられる。俺たちから無闇に喧嘩を売るつもりはないのだ。相手が民を思いやり、真っ当な国造りをする限りは、不要な血は流れない。

だが、根本的な問題は残されていた。

「……しかし、マスター。善政というものは、王が宣言してすぐに末端の村々にまで浸透するものではありません。長きにわたる圧政や腐敗に苦しんできた民たちの流入は、未だ止まる気配がありません」

ミラージュの言葉に、俺はこめかみを揉んだ。

事実、ここ最近の第一都市(現在の迷宮都市)への人口流入は凄まじいものがあった。安全と豊かな暮らしを求めて国境を越えてくる難民、ダンジョンの噂を聞きつけて一攫千金を夢見る冒険者、そして食い詰めた傭兵たち。

彼らを可能な限り受け入れてきたが、都市のキャパシティはそろそろ限界に近づきつつある。このまま無秩序に人が増え続ければ、いずれ居住区はパンクし、治安の悪化も免れない。

「マスター、どうしましょうか? このままでは、ずっと私たちを信じて暮らしてくれている皆の生活環境にも影響が出始めちゃいます……」

台座の上で輝くルリ(ダンジョンコア)が、心配そうに明滅しながら問いかけてきた。

足元では、かつて小さなネズミ穴で出会った最初の相棒、角うさぎのテトが「キュイ……」と不安げに鼻先を俺のブーツにすり寄せてくる。

俺はテトの柔らかい頭を優しく撫でながら、かねてより頭の中で温めていた構想を口にした。

「……第2都市を建設する」

「第2都市、ですか?」

ミラージュが目を細め、ルリが一層強く輝いた。

「ああ。今の第1都市は、俺たちの中枢であり、初期からの住人たちが穏やかに暮らす内政と生産の要として維持する。そして、新しく流入してくる冒険者や傭兵、血気盛んな者たちを中心とした『新たな拠点』を作るんだ」

俺は空間に魔法のマップを展開し、第1都市から少し離れた地下の大空洞を指し示した。

「ここを第2都市の予定地とする。両都市の間には、安全かつ大規模な地下連絡通路を開通させる。ただの通路じゃない、巨大な物流の動脈だ。第1都市の豊かな農地や工房で作られた食料、ポーション、武具といった安全で質の高い生活必需品を、第2都市へと供給する。そして、第2都市を拠点とする冒険者たちが集めた魔石や希少な素材を、第1都市へと還元させる。二つの都市を循環させることで、強固な生活基盤と巨大な経済圏を作り上げるんだ」

俺の説明に、ミラージュの目に感嘆の色が浮かんだ。労働力の確実な確保と、役割分担による都市機能の最適化。理にかなった計画だ。

『わぁっ、すごい計画ですね! でもマスター、冒険者さんたちがそんなに都合よく、毎日素材を集めてきてくれるでしょうか? 周りの森も、人が増えすぎて獲物が減ってきているみたいですし……』

ルリの懸念はもっともだ。だからこそ、俺は「ダンジョンマスター」としての本領を発揮する。

「彼らのために、『一般開放用のダンジョン』を新規に創る」

「……新しい迷宮、ですか?」

「ああ。まずは手始めに、全5階層の新規ダンジョンを構築する。そこに出現するスライムやゴブリンといった低〜中ランクの魔物たちは、うちのDPダンジョンポイントを使ってシステム的に定期リポップ(再配置)させるように設定するんだ」

『ええっ!? 私たちのDPを消費して魔物を出すんですか? それって、倒されたら赤字になりませんか?』

慌てるルリに、俺は笑って首を横に振った。

「目先のポイントだけを見ればな。だが、彼らがそこで安全かつ確実に稼ぎ、第2都市で武具を整え、飯を食い、酒を飲めば、その金と素材は巡り巡ってダンジョン全体の収益と拡大のエネルギーになる。冒険者にとって、獲物が尽きない狩り場は最高のインフラだ。生活基盤が安定すれば、彼らはこの街に定住し、さらなる活力を生み出してくれる。損して得取れというやつさ」

「なるほど……自ら狩り場を提供し、彼らを街の経済という巨大な歯車の一部に組み込むのですね。恐ろしいほどに完成されたシステムです」

ミラージュが感息を漏らす。だが、俺の計画はこれで終わりではない。

「とはいえ、ただ作業のように魔物を狩るだけの生ぬるい場所に成り下がってしまっては面白くない。冒険者たるもの、常に挑戦と成長を求める生き物だからな」

俺はニヤリと笑い、さらに計画の『目玉』を明かした。

「5階層の最下層、『最後の間』には強大なボス部屋を設ける。そこには……あの手持ち無沙汰にしている『3柱の古代種』たちに、順番で留守番をしてもらおう」

「なっ……!?」

常に冷静沈着なミラージュが、かつてないほど声を裏返させた。

「マ、マスター、本気ですか!? あの規格外の古代種たちを、たかが5階層のボスに据えるなど……冒険者たちが文字通り消し飛びます!」

「だから、厳命しておくんだ。『絶対に殺すな。適度に手加減しつつ、冒険者の実力と根性を測れ』とね。あいつらも最近は俺の過保護のせいで出番がなくて退屈そうにしていたからな。良い気晴らしになるだろう」

神話クラスの恐ろしい古代種のオーラを前にして、絶望的な力の差を感じながらも、それでも勇気を振り絞って立ち向かう者。知恵を絞り、仲間と連携して一矢報いようとする者。

「見事、彼らの試練に耐え抜き、健闘したと認められたパーティーには、ボス部屋の奥に神々しい宝箱を出現実させる。中身は強力な武具や、ここでしか手に入らない希少素材といった特別な褒美だ。そうなれば、冒険者たちは血眼になって腕を磨き、幾度となく挑み続けるだろう。第2都市は最高の熱気を帯びるはずだ」

俺の全構想を聞き終え、ミラージュは深々と息を吐いた後、ふっと口元を綻ばせた。

「……相変わらず、マスターの描く盤面は恐ろしく、そして心躍るものですね。承知いたしました。直ちに各部署に通達し、第2都市の測量と、地下連絡通路の開削準備に取り掛からせます。古代種たちへの根回しも、私が責任を持って行っておきましょう」

「頼んだぞ、ミラージュ」

彼女が音もなく影に溶けるように退室していくのを見届け、俺はゆっくりと玉座から立ち上がった。

「キュイッ!」

テトが、さあ俺たちも行こうと言わんばかりに元気に跳ね回る。

『ふふっ、また忙しくなりますね、マスター! でも、すごく楽しみです!』

ルリの青い輝きが、マスターズ・チェンバー全体を優しく照らし出した。

かつては残高ゼロのDPに怯え、たった十センチのネズミ穴からスライムを誘き寄せていた俺たちが、今や国を相手に安全保障を突きつけ、二つの巨大都市を束ねる迷宮国家を築こうとしている。

「ああ。俺たちの理想の居場所作りは、まだまだこれからだ。さあ、忙しくなるぞ」

俺は愛すべき相棒たちと共に、新たな世界への図面を引くための一歩を踏み出した。

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