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残高ゼロの極小ダンジョン経営~頼りない水晶コアと、ネズミ穴から始める迷宮拡張記~  作者: 盆ちゃん


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第9話:階層拡張と、沈みゆく迷宮都市

第9話:階層拡張と、沈みゆく迷宮都市

 三十近い命がひしめくようになったダンジョンは、一晩にして深刻な問題に直面していた。

 ――酸欠、そして圧倒的な手狭さである。

「さすがに、このワンフロアで全員寝起きするのは無理があるな……」

 朝、ゴブリンたちのむさ苦しい熱気で目を覚ました俺は、早急な「物件の増築」を決意した。

 幸い、昨晩のテイムと一日の自然回復により、現在の保有DPは 300 を超えている。

「ルリ、大規模工事だ。この第1層の最奥から、地下へと続く広い階段を作れ。その先に、今の三倍の広さを持つ『第2層』を構築する」

『はい、マスター! 階層の追加ですね。大仕事、任せてください!』

 ルリが力強く輝くと、ダンジョン全体が地鳴りのような産声を上げた。

 階段を降りた先に広がったのは、巨大なドーム状の地底空間。俺はここを、ダンジョンの心臓部としてデザインした。

 中央には一般ゴブリンたちが生活し、ココ鳥を飼育するための広場『森の集落』。

 その隣には、大きな木の長机を並べ、ログ(料理長)が腕を振るうための巨大な厨房と食堂を兼ねた『コモンルーム』を配置した。

 さらに、壁沿いにはネームド(名前持ち)のホブゴブリンたち――ガルム、ログ、カルク、ヴィグ――それぞれのプライバシーを守るための『個室』を作り上げた。

「ギギッ! 俺だけの部屋、スゲェ!」

「料理場が広くて、火の魔石石まであるぞ!」

 幹部たちは大喜びで自分の城を確認している。

 ルリの台座もこの第2層の最奥、俺のマスターズ・チェンバーへと移設し、これにて居住区の引っ越しは完了した。

「よし。これで第1層は、完全に『狩り場』として運用できる」

 俺はカルク(工兵長)を呼び、第1層の改造を命じた。カルクは自身の『罠作成 Lv2』のスキルを活かし、あの「滑り台」と「落とし穴」を凶悪にアップグレード。侵入者の重みで壁から丸太が飛び出す物理トラップや、毒草の煙を充満させる仕掛けまで組み込んでみせた。

 同時に、戦力も再編した。

 一般ゴブリンの中から身軽でフォレストウルフと相性の良い五匹を選抜し、『ウルフ騎兵隊』を結成。彼らの隊長には、白銀の雷光であるテトを据えた。

「テト、お前たちは森を駆け回り、獲物をこのダンジョンの入り口まで誘導しろ。使えそうなモンスターなら『生け捕り』で中へ放り込め。凶暴なヤツなら罠にかけて殺す」

「キュオォーン!」

 テトの甲高い咆哮に応え、五頭のウルフと騎乗したゴブリンたちが、一斉に森へと飛び出していく。機動力に特化した彼らの索敵・誘導能力は凄まじかった。

 ――数時間後。

『マスター! テトちゃんたちが、獲物の群れを誘導してきました! ビッグホーン(巨大羊)の群れです!』

「でかした。ガルム、ヴィグ、出番だ!」

 俺たちは第1層のキルゾーンで待ち構えた。

 入り口から、テトと騎兵隊に急き立てられた巨大羊たちが雪崩れ込んでくる。彼らはカルクの作った滑り台で足を滑らせ、次々と罠の餌食になっていく。

 罠をなんとか突破してきた個体も、待ち構えていた俺たちの壁は越えられない。

 ガルムの鉄の棍棒が羊の頭蓋を砕き、ヴィグの双剣が腱を正確に斬り裂く。俺も『打撃』スキルの乗った拳で、突進してくる巨体を正面から殴り飛ばした。

「よし、生きている三頭は第2層の集落へ運べ! 新しい家畜だ! 死んだ個体はログの厨房へ回せ!」

 息の合った連携。無駄のないリサイクル。

 誘導、罠の作動、トドメ、そして解体。すべてがシステム化された巨大な工場のように、ダンジョンはDPと食料を荒稼ぎしていく。

 その夜、豪華な羊肉のローストが並んだコモンルームで、俺は幹部たちを集めて杯(木のジョッキ)を掲げた。

「今日の稼ぎで、DPは一気に 500 を超えた。みんなの働きのおかげだ」

 歓声が上がる中、俺はルリが空中に投影したダンジョンの見取り図を指差した。

「だが、俺たちはここで立ち止まらない。いいか、これからの我が迷宮の『基本計画』を発表する」

 ゴブリンたちが静まり返り、俺の言葉に耳を傾ける。

「DPが一定数貯まるたびに、俺たちはルリの力で『さらに下の階層』を掘り進める。そして、この第2層にある『集落』や『コモンルーム』を、そっくりそのまま下の安全な階層へと移設スライドしていく」

『えっ? お引っ越しですか?』

「そうだ。そして空いた上の階層は、カルクに命じて凶悪な罠や迷路、あるいは毒沼なんかの『防衛フロア』に作り変える。……つまり」

 俺はニヤリと笑った。

「俺たちの生活基盤は、拡張を続ける限り、地中深くへと沈み続けていく。人間や強力な魔物が攻めてきても、何層もの『死の罠』を抜けない限り、俺たちの家には絶対に辿り着けない。……最強の、沈みゆく要塞都市を作るんだ」

 その壮大な構想に、カルクは目を輝かせ、ガルムとヴィグは武者震いをした。テトは頼もしそうに俺を見上げている。

 記憶喪失の青年が思い描いた、悪魔的なダンジョン経営計画。

 その噂が、「迷いの森」を越えて周辺の人間国家へと届くのは、もはや時間の問題だった。

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