第8話:集落強襲、そして大いなる帰順
第8話:集落強襲、そして大いなる帰順
大深緑の迷い森を、三つの影が疾走する。
先頭を走るのは、進化した白い稲妻、テト。その直後を、鋼の肉体を持つガルムが重戦車のごとき足取りで追う。そして中央で二人を指揮するのは、バグズから奪った革ベストをなびかせる俺、シンだ。
「見えたぞ。あれがゴブリンの集落か」
木々の隙間から見えたのは、泥と木材で組まれた無骨な柵に囲まれた村だった。
かつてバグズが統治していたそこは、今や無秩序な暴力に支配されていた。リーダーを失ったことで、残された精鋭たちが次の座を巡って内乱を起こしているらしい。
「ガルム、テト。方針は変わらない。殺すな、眠らせろ。……全員、俺たちの労働力にする」
「ギギッ!(了解!)」
「キュオォーン!」
俺の号令とともに、三人は柵を跳び越え、村の中心へと躍り出た。
乱入者に気づいたゴブリンたちが襲いかかるが、今の俺たちの敵ではない。
テトは『瞬動』で背後に回り込み、角の腹で首筋を正確に叩く。ガルムは鉄の棍棒をあえて振るわず、その巨体での体当たりと掌底だけでゴブリンたちを次々と吹き飛ばしていく。
俺もまた、迫り来るゴブリンのナイフを紙一重でかわし、スキルの乗った拳をその腹部に叩き込んだ。
「『打撃 Lv2』――峰打ちだ!」
みぞおちを貫く衝撃。ゴブリンは悲鳴を上げる間もなく、白目を剥いて崩れ落ちた。
俺たちは、嵐だった。ただの三人に、数十匹のゴブリンが手も足も出ず制圧されていく。
そんな中、村の最奥から一際鋭い殺気が放たれた。
「ギガァァッ! 余所者、殺ス!」
現れたのは、バグズの側近の一人だったであろう、体格のいい精鋭ゴブリン。名はヴィグ。彼は両手に二本の短剣を握り、混乱を収めようと立ち回っていた最中だったらしい。
ヴィグは、他の雑魚とは動きのキレが違った。
ガルムの棍棒を軽やかに跳んで避け、俺の喉元へ短剣を突き出してきた。
「いい動きだ。だが――」
俺の横から、白い閃光が割り込んだ。テトの角とヴィグの短剣が火花を散らす。
一瞬の硬直。その隙を、俺とガルムは見逃さなかった。
「終わりだ」
ガルムがヴィグの腕を掴んで拘束し、俺がその胸元へ掌を添える。
放たれたのは、威力を極限まで制御した衝撃波。
「……ッ!」
ヴィグは膝から崩れ落ちた。死んではいない。だが、全身の力を奪われ、立ち上がることもできないほどの敗北感をその身に刻み込んだ。
「……お前の実力は認める。俺の下に来い。死ぬよりはマシな生活を約束してやる」
俺がヴィグの目の前に手を差し出すと、彼は悔しげに顔を歪めた後、力なく項垂れた。それは、集落全体の完全な敗北と、俺への帰順を意味していた。
制圧が終わると、俺たちは村の全容を把握した。
そこにはゴブリンだけではなく、彼らが猟犬として使っていた『フォレストウルフ』が五頭、そして食肉や乳を得るための家畜モンスター『ココ鳥』が十羽ほど繋がれていた。
『マスター! すごい収穫です! 全員テイムすれば、一日あたりのDP増加量は計り知れませんよ!』
ルリの歓喜の声が響く。
「よし、全員連れて帰るぞ。カルクとログが待っている『家』へな」
その日の夕刻、森の住人たちは奇妙な光景を目にすることになった。
先頭を歩く一人の青年と一匹の白兎。それに続くのは、荷物を背負った二十匹以上のゴブリン、そして大人しく従うウルフたちの群れ。
大移動は数時間かけて行われ、夜には全員が俺たちのダンジョンへと収容された。
「ログ、全員分の飯を用意しろ! 今日は歓迎会だ!」
「ギギッ、ギギィ!(腕が鳴るぜ、マスター!)」
ログの作った大量の肉料理が振る舞われ、新参のゴブリンたちも最初は怯えていたが、その美味さに目を見開いた。ヴィグもまた、与えられた食事の質と、ダンジョン内の清潔さに驚きを隠せないようだった。
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【ダンジョン名】未命名(名無し)
【住民】
・ルリ(コア)、シン(マスター Lv.6 ↑UP)、テト(アサルトラビット)
・ホブゴブリン:ガルム、ログ、カルク、ヴィグ(NEW)
・一般ゴブリン:22匹
・フォレストウルフ:5頭
・ココ鳥:12羽
【自然回復量】120 DP / 日 (劇的UP!)
【保有DP】320
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一日の回復量が三桁に達した。
もう、ただの「穴」ではない。ここは一つの『国』としての産声を上げようとしていた。
俺はヴィグに新しい短剣を渡し、彼をガルムの補佐に任命した。
新たな仲間、新たな家畜、そして膨大なDP。
俺の迷宮経営は、いよいよ周辺諸国を震撼させる第一歩を踏み出したのだ。




