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残高ゼロの極小ダンジョン経営~頼りない水晶コアと、ネズミ穴から始める迷宮拡張記~  作者: 盆ちゃん


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第77話:食い気味の古竜と、海に眠る旧友

第77話:食い気味の古竜と、海に眠る旧友

 東の果て、空を焦がすように黒煙を上げる活火山『イグニス』。

 ファウストが開発した「絶対冷却の魔導コート」を羽織ったシン、レオンハルト、ザイードの三人は、むせ返るような硫黄の匂いの中、ついにその火口付近へと到達した。

「……すげえ熱気だ。コートがなけりゃ、立ってるだけで肺が焼け焦げちまうぜ」

 ザイードが火口の縁から下を覗き込み、顔をしかめた。

「ああ。だが、間違いない。このマグマの底から、とてつもない質量の魔力が——」

 シンが言葉を紡ぎかけた、その瞬間である。

 ——ガァァァァァァァンッ!!

 火口の奥底から、分厚い鋼が弾け飛ぶような凄まじい轟音が鳴り響いた。

 直後、煮えたぎるマグマの海が真っ二つに割れ、数百本もの『封魔の鎖』を自らの膂力で強引に引きちぎった巨大な影が、火柱と共に上空へと飛び出してきたのだ。

「なっ!? 自力で封印を破りやがったぞ!」

「マスター、下がってくだされ! いきなりお出ましとは血の気が多い!」

 レオンハルトが大盾を構え、ザイードが双剣を抜いてシンを庇うように前に出る。

 マグマの飛沫を散らしながら、火口の縁にドスンッ! と降り立ったのは、家屋ほどもある巨大な体躯を持つ『紅蓮の古竜』であった。煤けた赤い鱗、鋭い牙、そして周囲の空気を歪ませるほどの圧倒的な魔力。伝説の魔物と呼ぶにふさわしい、絶対的な威容である。

 だが——シンは、大盾の隙間から古竜の「顔」を見て、ピタリと動きを止めた。

(……ん? なんか、全然殺気がないぞ……?)

 古竜は、巨大な顎から炎の息を漏らしてはいたが、その瞳には憎しみや怒りは一切宿っていなかった。

 それどころか、古竜はレオンハルトたちには目もくれず、真っ直ぐにシンの一挙手一投足を見つめ、巨大な尻尾をパタパタと小刻みに揺らしていたのだ。

 その姿は、まるで「大好きな主人の帰りを待っていた忠犬」が、今か今かと褒め言葉を期待しているようにすら見えた。

『……おお。おおおおお……!』

 古竜は、シンの全身から溢れ出る暖かな魔力を間近で浴び、感動に打ち震えるような低い唸り声を上げた。

「マスター、危険です! 何かブレスを吐く気かも——」

「いや、待てレオンハルト。武器を下ろせ。こいつは戦う気なんてない」

 シンは二人の静止を振り切り、一人で堂々と古竜の真正面へと歩み出た。

「初めまして、紅蓮の古竜。俺は西の森にある『深緑の無名奈落』のマスター、シンだ」

 シンはいつものように、営業スマイルを浮かべてプレゼンを開始しようとした。

「お前が人間に封印されてるって聞いて、スカウトに来た。俺の迷宮は今、すげえ勢いでデカくなっててな。もしうちの防衛階層のボスになってくれるなら、安全な寝床と、美味い飯と——」

『行きますッ!!!』

「……え?」

 シンは目を丸くした。

『行きます! ぜひ連れて行ってくだされ! 貴方様こそ、私が数百年待ちわびた真の主! この身も魂も、すべて貴方様の迷宮に捧げましょうぞ!!』

 古竜は、シンの言葉が終わるのも待たず、食い気味に……いや、もはや前のめりにズサーッ! とシンの足元へ頭を擦り付けた。

「え、いや。あの……まだ労働条件とか、福利厚生の話とかしてないんだけど」

『そのようなもの、貴方様から溢れ出るこの「暖かな魔力」に比べれば些末なこと! さあ主よ! 早く私に「我に従え」と命じてくだされ!』

 目をキラキラと輝かせ(巨大な爬虫類の顔だが、間違いなくそう見えた)、全身で喜びを表現する古竜。

「……マスター。なんか、すごい勢いで懐かれてますね」

 殺気を空振りさせられたザイードが、呆れたように双剣を鞘に収めた。

「まさか、会う前から陥落していたとは……マスターのオーラは、伝説の竜の心すらも一瞬で魅了してしまうのですね」

 レオンハルトも感心したように深く頷いている。

「ま、まあ、話が早いのはいいことだ」

 シンは苦笑しながら、すり寄ってくる古竜の巨大な鼻面を撫でた。

「契約成立だ。今日からお前の名前は『イグニス』だ。うちの強力な防衛要員として、よろしく頼むぞ」

『ははぁーッ! ありがたき幸せにございます!』

 こうして、大陸全土から恐れられていた紅蓮の古竜は、一滴の血を流すことも、一言の交渉を長引かせることもなく、あっさりとシンの陣営に加わった。

 歓喜に身をよじるイグニスだったが、ふと何かを思い出したように首をもたげた。

『あ、そうだ、我が主よ。一つだけ、折り入ってお願いの儀がございまして……』

「ん? なんだ? 迷宮に火山を作ってほしいとかか?」

『いえ。実は私には、神話の時代に共に酒を酌み交わした「昔馴染み」がおりまして』

 イグニスは少し寂しそうな声で西の空を見た。

『名を「海溝のクラーケン・ロード」。彼もまた、私と同じように人間の恐怖と強欲によって、西の海底神殿に封じられ、狂気と孤独の中で苦しんでおります。……どうか、主のその暖かな力で、彼をも救ってはいただけないでしょうか!』

 その言葉を聞いた瞬間、シン、レオンハルト、ザイードの三人は顔を見合わせ——ニヤリと笑った。

「なんだ、クラーケン・ロードなら、次にお前をスカウトした後、そのまま西の海に向かって勧誘しに行く予定だったんだよ」

『なんと!? では……!』

「ああ、もちろん助けるし、うちの迷宮の『水棲階層のボス』としてスカウトする気満々だ」

 シンはイグニスの分厚い鱗をポンポンと叩いた。

「旧友を助けに行くんだ、お前も一緒について来い! 海底だろうが何だろうが、俺たちの力でブチ抜いてやる!」

『おおおお……! 我が主よ! 一生、いえ、永遠について行きますぞォォッ!』

 孤独に震えていた古竜は、暖かな居場所と「旧友の救済」という最高の希望を与えられ、歓喜の雄叫びと共にシンの背後に付き従った。

 東の活火山から、次なる舞台である西の海底神殿へ。シンの「規格外のスカウトの旅」は、古代の守護者たちを巻き込みながら、さらなる勢いをもって加速していくのであった。

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