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残高ゼロの極小ダンジョン経営~頼りない水晶コアと、ネズミ穴から始める迷宮拡張記~  作者: 盆ちゃん


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第75話(閑話):分岐する奈落と、新たなる守護者たち

第75話(閑話):分岐する奈落と、新たなる守護者たち

 大深緑の迷い森の中心、『深緑の無名奈落』の第1層・入り口ゲート。

 かつては鬱蒼とした森に隠されていたその場所は今、まるで大陸最大の交易都市の玄関口のような、凄まじい活気と喧騒に包まれていた。

「はい、次の家族! 魔力登録票を発行するから、そこの水晶に手を触れてくれ!」

「キキキッ! 荷物ハ俺タチ『鋼断ノ蟻人』ガ運ンデヤル。落チ着イテ進メ!」

 ゲートの受付では、聖王国から救出された文官たちと迷宮の魔物たちが連携し、押し寄せる凄まじい数の「移住希望者」を捌いていた。

 砂漠の国カディスからの大移民を皮切りに、「種族を問わず、誰もが豊かに暮らせる理想郷」の噂は、風に乗って大陸全土へと広まっていた。過酷な税に苦しむ人間の農民、迫害された亜人、さらには人間に住処を追われたオーガやゴブリンの群れまでもが、一縷の望みを懸けてこの迷宮へと辿り着いていたのだ。

「……本当に、魔物も人間も一緒に笑っている。噂は本当だったんだ……!」

 長旅でボロボロになった人間の商人が、オーガから温かいスープを受け取り、ポロポロと涙を流す。

 一切の差別なく、希望する者すべてを受け入れる圧倒的な包容力。入り口をくぐった者たちは皆、心からの安堵と幸福感に包まれていた。

 ***

「——マスター! 大変です、DPのケタがおかしくなってます!」

 第6層、マスターズ・チェンバー。

 先日、神話級コアの魔力によって人間の少女の姿(受肉)を手に入れたルリが、円卓の立体モニターを指差しながら目を回していた。

「移住してきた皆さんが『ご飯が美味しい!』とか『お風呂が最高!』って感じるたびに、ポジティブな感情が莫大な魔力(DP)に変換されて……一日のDP収入が、数ヶ月前の『数百倍』に跳ね上がってます!」

「ははっ、そいつは景気がいいな」

 シンは、バタバタと走り回るルリの頭を撫でて落ち着かせながら、満足げに笑った。

 住人が増え、彼らが幸福を感じるほどに迷宮のエネルギーは無限に膨れ上がる。これぞまさに、シンが目指した「究極のダンジョン経営」の完全なる好循環であった。

「ですがマスター、喜んでばかりもいられませんぞ」

 内務卿のガストンが、分厚い羊皮紙の束を抱えて深刻そうな顔をした。

「爆発的な人口増加に伴い、都市部(第6層)と外界との『物流・交通』がパンク寸前なのです。現状、商人や新たな移住者は、安全を確保したとはいえ『第1層から第5層までの階層』を通って降りてこなければなりません。……生活の導線と、迷宮の防衛線が完全に被ってしまっているのです」

「確かに。一般市民がトラップの横を歩いて通勤・通学するってのは、都市計画としてスマートじゃないな」

 シンは腕を組み、即座に決断を下した。

「よし。ルリ、有り余ってる莫大なDPを使って、ダンジョンの構造を根本から作り変えるぞ」

「はいっ! どうしますか、マスター?」

「第1層の入り口に、巨大な『分岐ターミナル』を作る。そこからルートを完全に二つに分けるんだ」

 シンは円卓に光のマップを描き出し、真っ二つに線を引いた。

「一つ目は**『居住区直通ルート』。セレンの絶対結界とキュウビの幻術で完全に守られた、第6層の都市部へ一瞬で降りられる安全な大階段エレベーターだ。市民や商人は全員ここを通す。……そして二つ目が、外敵を迎え撃つための純粋な『奈落(防衛)ルート』**だ」

「なるほど……!」レオンハルトが目を輝かせる。

「市民が防衛ルートを通らなくなるということは、第1層から第5層にかけての罠や環境を、手加減なしの『純粋な殺意マシマシの迎撃特化』に作り直せるということですね!」

「その通りだ」シンはニヤリと笑う。

「それに、DPが腐るほど余ってるんだ。第6層のさらに下……第7層、第8層と、新しい階層も一気に増設して、未知の資源や環境を作り出そうぜ」

 入り口の完全分岐による利便性の向上と、手加減なしの凶悪な防衛階層の再構築。

 幹部たちはシンの壮大な「迷宮メガロポリス化構想」に感嘆の声を上げた。しかし、そこで防衛隊長のレオンハルトが、顎に手を当てて一つの懸念を口にした。

「マスター。防衛特化の階層を再構築し、さらに階層を増やすとなると……それを統べる『階層ボス』が圧倒的に足りません」

「階層ボス、か」

「はい。現状、軍勢を指揮する幹部は揃っていますが、各階層の最奥に鎮座し、敵に絶望を与えるような『規格外の単体戦力(巨大魔物など)』が不足しています。防衛の要として、強力な守護者が必要です」

 レオンハルトの言葉に、シンは深く頷いた。

 都市のインフラが整った今、次なる課題は「圧倒的な防衛力の確保」である。

「ミラージュ。どこかに手頃な防衛要員……人間に討伐されかけて困っているような、強力で理不尽な魔物の噂はないか?」

 シンが視線を向けると、諜報長官ミラージュはすでに数枚の手配書のような羊皮紙を円卓に並べていた。

「いくつか候補がございます。……例えば、東の火山の火口に封印されている『紅蓮の古竜エンシェント・フレアドラゴン』。あるいは、西の海底神殿で深い眠りにつき、人間から邪神として討伐隊を組まれている『海溝のクラーケン・ロード』などはいかがでしょうか」

「古竜に、クラーケンの王か! いいじゃないか、階層ボスとしては文句なしの箔がつく!」

 シンはバンッと円卓を叩き、目をギラギラと輝かせた。

「決定だ! 都市の分岐工事と階層の増設はファウストとガストンに任せる。レオンハルト、ザイード、俺たちはさっそく、迷宮の新たな『ボス』をスカウトしに行くぞ! 俺たちの国を、文字通り『誰も落とせない神の城』にしてやる!」

「「「おおおおおッ!!」」」

 莫大なDPを背景に、迷宮はもはや一つの「世界」として変異と拡張を遂げようとしていた。

 そして、空き部屋となった防衛階層を彩るための『究極の守護者たち』を求め、シンの飽くなき人材(魔物)発掘の旅は、さらなるスケールへとその領域を広げていくのであった。

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