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残高ゼロの極小ダンジョン経営~頼りない水晶コアと、ネズミ穴から始める迷宮拡張記~  作者: 盆ちゃん


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第71話:影の先送りと、交差する愚者たち

第71話:影の先送りと、交差する愚者たち

 聖王国ルシリスの完全解体から数日後。

 『深緑の無名奈落』のマスターズ・チェンバーにて、シンはこれまでの戦果と各国の情勢をまとめた書類に目を通していた。

「聖王国の残党は完全に沈黙、同盟国への賠償も滞りなく進んでいるか。……完璧だな」

 シンは満足げに頷き、背後の影に向かって声をかけた。

「さて、一息ついたところだが、ミラージュ。次は——」

「——『帝国』と『暴食の狂宴』の生き残りについてですね、我がマスター。すでに調査は完了しております」

 シンの言葉を先読みするように、灰色の外套を羽織った諜報長官・ミラージュが音もなく円卓の前に進み出た。その手には、分厚い羊皮紙の束が握られている。

「……お前、本当に優秀すぎるな。俺が指示を出す前に動き終わってるじゃないか」

 シンが呆れ半分、感心半分で苦笑すると、ミラージュは淡々と一礼した。

「優秀な眼とは、主が目を向ける前にその先の景色を映し出しておくものです。聖王国が崩壊したことで、他の勢力が静観を決め込むはずがないと踏んでおりましたので」

「で、どう動いている?」

 シンが表情を引き締めると、ミラージュは円卓の中央に大陸の立体地図を投影した。

「まず、魔導帝国ゼノスです。彼らは以前のダンジョン侵攻で精鋭を失い弱体化していましたが、歴史ある聖王国が『得体の知れない力』によって一夜で滅ぼされた事実に、首脳陣は極度のパニックに陥りました。……結果、彼らは国法で禁じられていた『古代技術アーティファクトの封印』を解くという禁手に出ました」

「古代技術の封印?」

「はい。大陸中西部の『死の谷』の地下深くに眠る、神話の時代の大量破壊兵器……通称『機巧魔神マキナ』の発掘と再起動です。帝国はなりふり構わず、数万の労働力と魔導師を死の谷へ送り込んでいます」

 ミラージュの言葉に、円卓の空気がピリッと張り詰めた。

「さらに、問題はそれだけではありません」

 ミラージュは地図の「死の谷」の周辺に、いくつか赤いマーカーを点灯させた。

「同士討ちによって壊滅したと思われていた戦闘狂の派閥『暴食の狂宴』ですが……なんと総帥を含む数名のマスターが生き残り、迷宮を捨てて地上へと逃げ出していました」

「なんだと? まだ生きていたのか、あのゴキブリども」

「ええ。彼らは帝国の不穏な動きを嗅ぎつけ、死の谷の周辺に潜伏しています。目的は十中八九、帝国が発掘している古代兵器『機巧魔神』の動力炉……すなわち『神話級のコア』を強奪し、自らの迷宮と力を完全復活させることでしょう」

 帝国の禁忌の兵器と、それに群がる狂宴の残党たち。

 これまで交わることのなかった二つの厄介な勢力が、一つの巨大な「火薬庫」を中心にして結びつこうとしているのだ。

「……なるほどな。こいつは放っておけない。全幹部を至急この部屋に集めろ! 対策会議だ!」

 ***

 数分後。

 マスターズ・チェンバーには、レオンハルト、ザイード、リリア、ガストン、キュウビ、そしてファウストといった迷宮の最高幹部たちが顔を揃えていた。

「——というわけで、帝国がとんでもない爆弾を掘り起こそうとしていて、そこに狂宴の残党がハイエナのように群がろうとしている」

 シンがミラージュの報告を共有すると、円卓は一気に熱を帯びた。

機巧魔神マキナだと……!?」

 白衣を着た異端の学者・ファウストが、片眼鏡をギラリと輝かせて身を乗り出した。

「伝承によれば、あれは周囲の魔力を根こそぎ吸収して焦土と化す、理外の自律型破壊兵器だ! まさか実在していたとは! おおお……我が師よ! その古代のガラクタ、ぜひとも私に解体と解析をさせてくだされ!」

「落ち着けファウスト。解析なら後でいくらでもさせてやる」

 シンは興奮する学者を宥めつつ、戦力の中核であるレオンハルトたちを見回した。

「問題は、どう対処するかだ。奴らが勝手に潰し合うのを待つという手もあるが……」

「それは得策ではありませんな、マスター」

 ガストンが顎髭を撫でながら進言する。

「もし帝国が兵器の起動に成功してしまえば、周辺の自然環境に甚大な被害が出ます。逆に、狂宴の総帥が神話級のコアを手にしてしまえば、奴らは再びこの大陸の脅威として蘇る。どちらに転んでも、我々にとって放置は危険すぎます」

「俺も同意見だぜ」ザイードが双剣の柄を叩く。「爆弾が爆発してからじゃ遅え。両方の馬鹿どもが死の谷に集まってるなら、俺たちから乗り込んで、まとめてブチのめすのが一番手っ取り早い」

 幹部たちの意見は一致していた。

 後手になれば被害が広がる。ならば、こちらから打って出るのみ。

「よし、決まりだ」

 シンは立ち上がり、円卓の立体地図に投影された「死の谷」を力強く指差した。

「作戦の目標は二つ。一つ、帝国が発掘している『機巧魔神』を、起動する前に完全に制圧・強奪すること。二つ、周囲に潜伏している『暴食の狂宴』の残党を、一人残らず盤上から排除することだ」

 シンの宣言に、幹部たちの目に獰猛な光が宿る。

「ミラージュ、お前の情報網で死の谷の正確な発掘状況と、狂宴の総帥たちの潜伏位置を完全に特定しろ。レオンハルト、ザイード、お前たちは強襲部隊を編成。ファウストは古代兵器を無力化するためのジャミング装置を『科学』の力で組み上げろ」

「「「御意!!」」」

「聖王国に続いて、今度は帝国と狂宴の残党か。あいつらには、この大陸が誰の庭なのか、まだ理解できていないらしい」

 シンは不敵な、そして絶対的な自信に満ちた覇王の笑みを浮かべた。

「教えてやろうぜ。時代遅れの兵器や過去の栄光にすがる愚か者たちに、俺たち『深緑の無名奈落』の本当の恐ろしさをな!」

 ミラージュの神がかった先読みによってもたらされた、次なる大戦の火種。

 しかしそれは、シンの陣営にとっては脅威ではなく、自らの圧倒的な力を世界に再認識させ、新たな古代技術おもちゃを手に入れるための「極上の狩り」の始まりに過ぎなかった。

 すべてを呑み込むべく、迷宮の精鋭たちは「死の谷」へと向けて怒涛の進軍準備を開始するのであった。

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