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残高ゼロの極小ダンジョン経営~頼りない水晶コアと、ネズミ穴から始める迷宮拡張記~  作者: 盆ちゃん


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第61話:絶対結界と、次なる盤上の駒

第61話:絶対結界と、次なる盤上の駒

 聖王国からの救出劇から数日が経過した『深緑の無名奈落』。

 新第6層の都市区画は、新たに加わった「頭脳労働のスペシャリスト」たちの手によって、劇的な進化を遂げていた。

「……信じられません。この迷宮の魔力(DP)は、まるで澄み切った地下水のように純粋です。これなら、私の結界術を迷宮のシステムと完全に同調させることができます」

 都市の中央広場。盲目の天才結界師セレンが、宙に浮かぶダンジョンコアのルリにそっと手を触れていた。

『ピピピッ! セレン様の魔力波長をシステムに統合。第6層全域に、多重物理・魔法反射ドーム『無謬むびゅうの聖域』を展開します!』

 ルリの無尽蔵の魔力と、セレンの緻密な術式が組み合わさった瞬間。都市区画の天井を覆うように、薄青く輝く半透明の結界がドーム状に広がった。それは、聖王国が喉から手が出るほど欲しがっていた「いかなる大魔法も、巨大質量も完全に無効化する絶対防壁」であった。

 さらに、都市の内部では——。

「おい、木材の搬入ルートはこっちだ! ドワーフの皆さんの工房と、エルダー・トレント殿の農地を繋ぐ物流網の整備を急げ!」

「治癒院のベッドが足りないわ! エルフの方々、薬草の調合をお願いします!」

 聖王国で無実の罪を着せられていた文官や治癒士たちが、休む間もなく、しかし「心の底からの笑顔」で都市のインフラ整備を指揮していた。

 彼らが行政や医療のシステムを完璧に構築してくれたおかげで、種族が入り乱れる都市は一切の混乱なく、一つの「国家」としての確固たる基盤を築き上げたのだ。

 ***

「——皆の働きには、本当に頭が下がる。特にセレンの結界と、文官たちの都市計画のおかげで、俺の迷宮は文字通り『難攻不落のユートピア』になった」

 マスターズ・チェンバーの円卓。

 シンは、幹部たちと、新たに加わったセレンや文官の代表を前にして、深い感謝を述べた。

「だが、ここで満足して立ち止まる気はない」

 シンは表情を引き締め、円卓の上に山積みになっている「ある物」を指差した。それは、レオンハルトたちが聖王国から根こそぎ強奪してきた、国宝級の魔導具や古文書の山である。

「都市の基礎は完成した。これからは、外敵への『対策』と、さらなる『発展』に目を向ける。……この莫大な未知の財宝を安全に解析し、俺たちの迷宮の技術に昇華できる『頭脳』。そして、帝国や聖王国、さらに『暴食の狂宴』の連中を裏からコントロールするための『眼』が必要だ。……皆、誰か心当たりはないか?」

 シンの問いかけに、円卓の空気は一段と熱を帯びた。

 行政が整った今、次に必要なのは「研究」と「諜報」のスペシャリストである。

「マスター。研究や鑑定のスペシャリストであれば、一人だけ『規格外の天才』を知っています」

 口を開いたのは、元ギルドマスターのガストンだった。

「その者は、森のさらに北、未開の魔境にポツンと建つ『禁書塔』に引き籠っている『異端の魔導学者・ファウスト』です。彼はあらゆる古代魔法や遺物に精通していますが……その知識欲があまりにも常軌を逸していたため、人間の学会から追放された変人です」

「学会を追放された変人の魔導学者。いいじゃないか、そういう尖った人材が欲しかった」

「ええ。ファウストの鑑定眼と研究能力があれば、この聖王国の魔導具の山も、数日で完全に解体・実用化できるでしょう。ただ、彼は金や権力には一切なびきません。『未知の知識や素材』にしか興味を示さない狂人です」

「任せろ。うちのダンジョンコア(ルリ)のシステムや、ウンディーネ、雷鳥なんかの珍しい生態系を見せれば、嬉ションして飛びついてくるだろ」

 シンが悪戯っぽく笑うと、幹部たちも「確かに」と納得の笑みを浮かべた。

「では、諜報と情報戦のスペシャリストについては、俺から提案がある」

 今度は、守備隊長のレオンハルトが身を乗り出した。

「マスター。聖王国は宝物庫と天才を失って発狂寸前、帝国は軍隊が半壊、そして『暴食の狂宴』の残り10人も疑心暗鬼に陥っている。……こんな時、奴らがヤケを起こして結託しないよう、人間の裏社会のネットワークを牛耳って『偽情報』を流し、互いを牽制し合わせるスパイが必要です」

「ああ、まさにその通りだ。情報戦を制する者が次の戦争を制する。心当たりはいるのか?」

「はい。大陸中の裏社会で『千の顔を持つ情報屋スパイ』と呼ばれている、正体不明の怪盗……通称『ミラージュ』です」

 レオンハルトの言葉に、ザイードも大きく頷いた。

「俺も噂は聞いてるぜ。大国の王族の寝室から、裏ギルドの極秘名簿まで、どんな情報でも盗み出す幻のような奴だ。……ただ、神出鬼没すぎて、どこにいるのか誰も知らねえ」

「ミラージュの居場所なら、私が探し出せます」

 ふいに、静かに控えていた幻惑狐のキュウビが、美しい声で告げた。

「我が眷属の狐たちを大陸中の街に放てば、いかなる変装や隠密も、匂いと魔力の残滓ざんしで必ず特定してみせましょう。……そのミラージュという者を我が主の陣営に引き入れ、私の幻術と組み合わせれば、人間の国家など、戦わずして内側から崩壊させることができます」

 魔導具や古代遺物を解析し、迷宮の技術を数百倍に跳ね上げる『異端の魔導学者・ファウスト』。

 大陸中の情報を操作し、敵対勢力を盤上で踊らせる『千の顔を持つ情報屋・ミラージュ』。

 迷宮の「頭脳」と「眼」となるべき、これ以上ない極上のターゲットが定まった。

「よし、決まりだ! キュウビはすぐに狐たちを放ってミラージュの足取りを追え! 俺とレオンハルト、ガストンは、北の禁書塔へ向かって変人の学者を釣り上げてくる!」

 シンが力強く立ち上がり、号令を下す。

「国力が安定した今だからこそ、攻めのスカウトに出るぞ。俺たちの迷宮(国)を、誰も追いつけないほどの絶対的な高みへと引き上げるんだ!」

「「「はっ!!」」」

 絶対の防御と豊かな内政を手に入れた王は、いよいよ世界の裏側——情報と古代技術の深淵へと手を伸ばす。

 シンの底なしの野望と、それを具現化するスペシャリストたちを求める新たなる旅が、最高潮の熱気と共に幕を開けたのであった。

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