第6話:強奪と帰順、そして迷宮の「文明」
第6話:強奪と帰順、そして迷宮の「文明」
縦穴の底で、ホブゴブリン「バグズ」の巨体が静かに光の粒子へと変わっていく。
後に残されたのは、重厚な『鉄の棍棒』と、使い古された『魔力の革ベスト』。そして、かつてないほどの濃密な魔力の奔流だった。
『マスター! やりました! バグズ討伐報酬、および初ボス撃破ボーナスで合計 300 DP獲得です! さらに……!』
ルリの声が興奮で裏返る。
『外に取り残されたゴブリン三匹が、リーダーの死とマスターの威圧に完全に戦意を喪失しています。今なら少量のDPで「集団テイム」が可能です!』
「……集団テイムか。ちょうど労働力が欲しいと思っていたところだ」
俺は岩のシャッターを開けさせた。
そこには、震えながら平伏する三匹のゴブリンがいた。俺はバグズから奪った革ベストを羽織り、鉄の棍棒を肩に担いで、彼らを見下ろす。
「死ぬか、俺の下で働くか。選べ」
言葉は通じずとも、ダンジョンマスターの意思はルリを介して彼らの脳裏に直接響く。
ゴブリンたちは顔を見合わせ、一斉に床に頭を擦りつけた。
『集団テイム完了です! 彼らは今後、ダンジョンの住民としてポイントを微量ずつ生成し、命令に従う労働力となります!』
こうして、俺たちは「三人」から「六人(?)」の小組織へと進化を遂げた。
***
それからの数日間、ダンジョン内は劇的な変化を遂げた。
貯まった総計 400 DP以上を惜しみなく投入し、俺は「生活環境の改善」と「防衛線の強化」に乗り出した。
「まず、このお椀型の部屋を『エントランス兼キルゾーン』に固定する。ルリ、奥へ向かって新しい通路と部屋を三つ作ってくれ」
『了解です!』
ルリの光と共に、岩壁が削れ、新しい空間が広がっていく。
1.【居住区】:ゴブリンたちが寝起きする雑魚寝部屋。床には干し草を具現化し、最低限の清潔さを保つ。
2.【貯蔵・調理室】:倒した獲物の肉を解体し、保存するための冷涼な小部屋。
3.【主君の間】:俺とテト、ルリの部屋。待望の「木のベッド」と「机」を配置した。
「……ああ、床で寝なくていいっていうのは、こんなに幸せなことなんだな」
木のベッドに横たわると、現代人としての尊厳が回復していくのが分かった。テトも新しい毛布の上で「キュイ……」と満足げに丸まっている。
さらに、生活の質を上げたのは「灯り」だ。
これまではルリの光と穴からの外光だけだったが、DPを使って壁に『発光石』を埋め込んだ。これにより、二十四時間、ダンジョン内は柔らかな光に包まれるようになった。
防衛面も抜かりはない。
ゴブリンたちには、バグズの集落から持ってきた武器を整備させ、入り口の滑り台に「落石」の仕掛けを追加させた。
彼らがここに住むだけで、一日あたりの生成ポイントは 3 DP から 15 DP へと跳ね上がった。住民が増え、活気(魔力)が回ることで、ダンジョンそのものの心臓が力強くなったのだ。
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【ダンジョン名】未命名(名無し)
【マスター】シン(Lv.5 ↑UP)
【住民】ルリ(コア)、テト(アサルトラビット)、ゴブリン(3匹)
【自然回復量】15 DP / 日
【保有DP】80(大規模改装後)
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「よし、ルリ、テト。そしてお前らゴブリン。……今日からここを、ただの洞窟じゃなく『迷宮』と呼ぶことにする」
俺はバグズから奪った『魔力の革ベスト』の感触を確かめる。これは着用者の防御力を上げるだけでなく、微量ながら体力を回復させる効果があった。まさに指揮官に相応しい一品だ。
「これからは効率よく獲物を狩り、さらに住民を増やし、ダンジョンを深くしていく。……いずれ、この森のすべてを飲み込むほどにな」
ゴブリンたちは「ギギッ!」と忠誠を誓うように鳴き、テトは凛々しく一本角を光らせた。
生活環境が整い、心に余裕ができたことで、俺の思考はさらに先へと向かう。
(ゴブリンを統率したことで、次は対人……つまり冒険者への対策も必要になるだろう。彼らがこの異変に気づくのは、そう遠くないはずだ)
文明の灯がともった迷宮。
だが、その灯火は同時に、外の世界の「強欲」を呼び寄せる道標でもあることを、俺は本能的に予感していた。




