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残高ゼロの極小ダンジョン経営~頼りない水晶コアと、ネズミ穴から始める迷宮拡張記~  作者: 盆ちゃん


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第5話:迫り来る緑の影と、メタ知識の防衛線

第5話:迫り来る緑の影と、メタ知識の防衛線

 大深緑の迷い森、その一角にある薄暗い泥の集落。

 そこを支配するホブゴブリンの「バグズ」は、苛立ちとともに大きな棍棒を地面に叩きつけた。

「……遅い。戻りが、遅すぎる」

 バグズは、同族の中でも一際巨大な体躯と、僅かながらの知性を持っていた。

 ここ数日、森の特定のエリアに向かった偵察の小鬼ゴブリンたちが、一人として戻ってこない。最初は獲物を見つけて追い回しているのかと思っていたが、十匹近くが消息を絶つに至り、バグズの生存本能が警鐘を鳴らしていた。

「あそこには、何もなかったはずだ。ただの、岩山だった」

 だが、森の魔力の流れが変わっている。微かだが、あの「穴」の周辺から、甘美で濃厚なダンジョンの香りが漂ってきているのだ。

 バグズは、自ら向かうことを決めた。部下を失った怒りよりも、そこに眠るであろう「宝」と「肉」への渇望が勝った。

「俺が行く。……皆殺しだ」

 バグズは三匹の精鋭ゴブリンを引き連れ、森の奥へと足を踏み出した。

 ***

「よし、トドメだ。テト!」

「キュオォーン!」

 洞窟内に、心地よい衝撃音が響く。

 滑り台の罠に引っかかり、杭に突き刺さって悶絶していたゴブリンの頭部を、テトの『瞬動突進』が貫いた。

『マスター! 討伐完了です。5 DP獲得、累計で 120 DPになりました!』

 ルリの報告を聞きながら、俺は手にした岩の武器を置いた。

 ここ数日、この「滑り台&杭」のコンボで面白いようにDPが稼げている。俺自身のレベルも上がり、体つきも少しずつ逞しくなってきた実感がある。

==============

【個体名】シン

【レベル】4(↑UP)

【スキル】『打撃 Lv2』『地形利用 Lv1』『気配察知 Lv1』(NEW)

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「テトの気配察知をずっと共有してたおかげか、俺もスキルを覚えたな」

 テトを撫でてやると、彼は嬉しそうに目を細めた。

 しかし、俺の心には拭いきれない不安があった。

「なあ、ルリ。……そろそろ『来る』と思わないか?」

『えっ? 何がですか、マスター?』

「ファンタジー小説の定番だよ。これだけ雑魚スカウトを狩り続けて、相手が知性のある種族……例えばゴブリンなら、次は必ず『群れのリーダー』が状況を確認しに来る」

 俺は現代で読み漁った知識を総動員して、敵の行動を予測する。

 これまでのゴブリンたちは、何も考えずに穴へ飛び込んできた。だが、もしリーダー格――ホブゴブリンやゴブリンシャーマンが来たら?

 彼らは仲間が死んでいる形跡や、この不自然な「滑り台」を警戒するはずだ。

「今の罠は、初見殺しには最適だ。でも、警戒されたら飛び込んではくれない。……ルリ、残りのDPを使って、さらに奥に『二段目の罠』を作るぞ」

『わかりました! どんな構造にしますか?』

「『落とし穴の中の落とし穴』だ。滑り台を自力で踏みとどまったり、杭を飛び越えたとしても……その着地地点に、さらにえげつないのを仕掛ける」

 俺は『地形利用』のスキルを使い、ルリに指示を出した。

 まず、滑り台の終着点である杭のエリア。あえてそこに、安全そうに見える「平坦な足場」を数箇所だけ作る。だが、その足場は薄い岩板で支えられただけの、一点に体重をかけると崩落する罠だ。

 その下には、さらに深い縦穴を掘り、底にはスライムから採取した粘着液を溜めておく。

 さらに、俺はテトの隠し通路にも手を加えた。テトが戻った後、入り口を岩のシャッターで即座に閉鎖できるようにした。

 ――準備が整ってから、数時間後。

 俺の『気配察知』に、これまでとは比較にならないほど重く、どす黒い殺気が引っかかった。

「……来た。テト、合図するまで隠れてろ」

 穴の向こうから、巨大な影が差し込む。

 入り口に現れたのは、肌の青黒い、筋骨隆々のホブゴブリン。その背後には武装したゴブリンたちが控えている。

 ホブゴブリン――バグズは、穴の入り口で足を止めた。

 彼は鼻をひくつかせ、血の匂いと、不自然に滑らかな床を睨みつけている。やはり、これまでの雑魚とは知能が違う。

「……ギギ。罠、カ」

 バグズが低く唸る。彼は滑り台に足を踏み入れず、手にした棍棒を壁に叩きつけ、足場を確かめ始めた。

 だが、その瞬間。

「テト、今だ! 誘い出せ!」

 隠し通路からテトが飛び出し、バグズの顔面目掛けて『瞬動突進』の構えを見せる。

 バグズは反射的に棍棒を振り上げたが、テトは攻撃の直前で翻り、再び通路へと消えた。

「グガァァッ!!」

 激昂したバグズが、テトを追って強引に踏み込む。滑り台を強靭な脚力で踏みしめ、杭のエリアを大きく跳躍して飛び越えた。

 ――その着地地点こそが、俺の用意した「二段目の罠」だった。

『バキッ!』

「!? ガ、アッ……!」

 着地した瞬間に足場が崩れ、巨体が奈落へと真っ逆さまに落ちていく。

 底にあるのは、這い上がることのできない超粘着液の沼だ。

「ルリ、シャッターを閉めろ! 雑魚を分断するんだ!」

 入り口の岩壁が轟音とともに閉まり、外に残されたゴブリンたちを遮断する。

 俺は深さ三メートルの縦穴を見下ろした。沼に足を取られ、もがくバグズ。

「……悪いな。これが『ダンジョン経営』だ」

 俺は『打撃』スキルの乗った重い岩を、無防備なホブゴブリンの頭上へと振り上げた。

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