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残高ゼロの極小ダンジョン経営~頼りない水晶コアと、ネズミ穴から始める迷宮拡張記~  作者: 盆ちゃん


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第56話:内政への号令と、求められる才覚

第56話:内政への号令と、求められる才覚

 『悠久の賢人会』との六脚の円卓会議を終えたシンは、すぐさま迷宮第6層(最深部)のマスターズ・チェンバーへと戻り、自身の『深緑の無名奈落』を支える最高幹部たちを招集した。

 円卓を囲むのは、内務卿ガストン、守備隊長レオンハルト、獣人のザイード、エルフの使節長リリア、幻惑狐キュウビ。さらに水精の歌姫アクアも同席している。

「——というわけで、敵さん(暴食の狂宴)は俺たちが賢人会と同盟を組んだことにも気づかず、勝手に賢人会の幻影に怯えて引きこもった。おまけに、下手な監視魔法を使ったせいで帝国軍と泥沼の潰し合いをして、両者とも再起不能レベルの被害を出したそうだ」

 シンが先ほどの会議の顛末を語り終えると、重苦しい緊張感に包まれていた円卓に、ふっと気の抜けたような空気が広がった。

「はっ……はははっ! なんだそりゃ! 俺たちが警戒して損したぜ」

 ザイードが腹を抱えて笑い出す。

「見事な自滅ですね。帝国軍の精鋭が七割も削られたとなれば、当分は国境の防衛すらままならないでしょう。我々にとってはこれ以上ない吉報です」

 ガストンも、ホッと肩の荷を下ろすように温かい紅茶を一口飲んだ。

「ああ。敵が勝手に疲弊してくれたおかげで、俺たちには莫大な『時間』ができた」

 シンは円卓に広げた迷宮の全体図ホログラムを見渡し、力強く宣言した。

「当面の間、他国や他ダンジョンへの武力侵攻は控える。方針を完全に『内政』と『迷宮の拡張』にシフトするぞ。雷雲の霊鳥のための空、ウンディーネたちのための地下湖、スノー・フリースの牧場……これらを完璧な形に整備し、迷宮内の経済と環境を盤石なものにするんだ」

「異議なしです、マスター」レオンハルトが力強く頷く。「外敵の心配がない今こそ、足場を固める絶好の機会。武力だけでなく、国としての基礎体力を高めるべきです」

「そこでだ」

 シンは前のめりになり、幹部たちの顔を一人一人見つめた。

「迷宮がこれだけデカくなると、俺のDP(魔力)で大まかな地形は作れても、細かいインフラ整備や道具の生産が追いつかなくなる。……種族、人間、魔物を問わない。内政を劇的に豊かにしてくれる『有能なスペシャリスト』のスカウト情報はないか?」

 シンの問いかけに、幹部たちは少しの間考え込んだ。

 最初に口を開いたのは、元辺境ギルドマスターであり、大陸の裏事情に精通するガストンだった。

「……人間(亜人)のスペシャリストであれば、一人心当たりがあります。西の自由都市に身を隠している、『ドラン』という名のドワーフの鍛冶師です」

「ドワーフの鍛冶師。王道でいいな。どんな腕なんだ?」

「ただの鍛冶師ではありません。彼は魔力を武具や道具に刻み込む『ルーンスミス(魔導鍛冶師)』の最高峰です。……しかし、彼は聖王国の専属鍛冶師であったにもかかわらず、『他国を侵略するための剣は打たん。俺は人を笑顔にするための道具を打つ』と豪語して出奔した、筋金入りの頑固者でしてね。聖王国から追われる身となっています」

「なるほど」シンはニヤリと笑った。

「兵器作りを拒否した職人か。うちの迷宮なら、農具でも、建築資材でも、日用品でも、好きなだけ平和のための道具を打たせてやれる。最高の極上鉱石(蟻人のお残し)をチラつかせれば、絶対に落ちるな」

「マスター。魔物のスペシャリストであれば、私から一つ提案がございます」

 続いて発言したのは、エルフのリリアだった。

「階層が拡張され、農地や森林が莫大に増えましたが、それらの『土壌』を完璧に管理・育成するのは通常のエルフでも至難の業です。……もし、古代の魔物である『豊穣の樹人エルダー・トレント』を迎え入れることができれば、迷宮内の農業生産力は数十倍に跳ね上がるでしょう」

「エルダー・トレント……意志を持った巨大な大樹か」

「はい。ですが、生き残っているエルダー・トレントは、魔導帝国の領内にある『静寂の森』の奥深くにたった一体のみ。しかも、近年の帝国軍による乱伐と魔力搾取のせいで、その大樹は枯れる寸前だと風の精霊たちが嘆いておりました」

「帝国の乱伐のせいで、住処を追われかけているのか……」

 シンの瞳に、静かな怒りと、強い使命感が灯った。

「武器を打たないことで国に追われたドワーフの職人と、人間の身勝手な開拓で枯れかけている古代の樹人。……どちらも、不当な扱いを受けている極上の『ダイヤの原石』だ」

 シンはバンッと円卓を叩いて立ち上がった。

「決まりだ! 次のスカウトはこの二人に絞る。ドワーフのドランには『無限の良質鉱石と平和な工房』を。枯れかけのエルダー・トレントには『絶対に伐採されない安全な大地と、アクアたちの極上の水』をプレゼンしてやる!」

「ふふっ、マスターの『悪い顔(営業スマイル)』が出ましたね」

 アクアが口元を隠してクスクスと笑い、他の幹部たちも頼もしそうに頷き合った。

 血みどろの戦争から一転、己の国を真のユートピアにするための「人材発掘」の旅。

 剣と魔法が交差する戦場よりも、ある意味で熱く、そして豊かな未来を約束する『究極のヘッドハンティング作戦』が、今ここに幕を開けたのであった。

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