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残高ゼロの極小ダンジョン経営~頼りない水晶コアと、ネズミ穴から始める迷宮拡張記~  作者: 盆ちゃん


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第48話:吐き出された暴食と、三つの影の潜入

第48話:吐き出された暴食と、三つの影の潜入

 大陸の地下深く、三箇所の迷宮で、地鳴りのような咆哮が響き渡っていた。

 『暴食の狂宴』に属する三人のマスター――雷の獅子、猛毒の蟷螂、不死者の王は、それぞれの迷宮の第1層に数万にも及ぶ魔物の群れをひしめかせ、いざ『深緑の無名奈落』へ向けて出撃させようと血気にはやっていた。

「グルル……準備は整ったな。我が雷獣の群れよ、新参者の森を焦土に変えてこい!」

 雷の獅子が玉座から立ち上がり、出撃の号令を下そうとした、まさにその時だった。

『マ、マスター! 緊急事態です!』

 監視用の水晶から、第1層の入り口付近を見張っていた配下の魔物が、ひきつった声で報告を入れてきた。

「何事だ。新参者の迷宮が逃げ出す準備でも始めたか?」

『ち、違います! 我らの迷宮の地上出口……その周囲を、獣人連邦の正規軍数万が、完全に包囲して陣を敷いています! 強固な防衛柵まで構築されており、もはや包囲網は完成しております!』

「――何だと!?」

 驚愕の声は、雷の獅子だけではなかった。

 時を同じくして、商業共和国の国境付近に位置する猛毒の蟷螂の迷宮では、ヴァロワが金で雇い上げた屈強な傭兵団と冒険者の大軍が入り口を封鎖。

 聖王国の国境付近にある不死者の王の迷宮では、聖王国ルシリスの聖騎士団と神官団が、巨大な浄化の結界を張り巡らせて待ち構えていたのだ。

「ば、馬鹿な……! なぜ我々が今日この刻に、このルートでスタンピードを起こすことが人間どもに筒抜けになっているのだ!」

 不死者の王が、玉座の肘掛けを粉砕して激昂する。

 彼らの極秘会議の内容は、内通者である蝙蝠のマスターを通じてシンに漏れ、シンから各同盟国へと「魔物暴走スタンピードの確かな警告」としてすでに通達されていた。

 人間国家からすれば、自国の国境から数万の魔物が溢れ出すなど国家存亡の危機である。彼らはシンの警告を100%信じ、持てる全戦力を迷宮の入り口へと差し向けていたのだ。

「……ええい、構わん! どうせ人間どもは我らの餌だ!」

 猛毒の蟷螂が、水晶越しに凶悪な鎌を振りかざして叫んだ。

「作戦は変更せん! むしろ好都合だ、入り口に集まった人間どもを最初の血祭りに上げ、その死肉を喰らってから新参者の森へ向かえ! 全軍、出撃ィィッ!!」

 傲慢な三匹のマスターたちは、計画が漏れていたことへの不安を力でねじ伏せるように、迷宮の扉を全開にし、十万規模の魔物の群れを一斉に地上へと吐き出した。

 ***

「来たぞォォッ! 迷宮から魔物が溢れ出してきた!」

「陣形を崩すな! 我らが国境を死守するのだ!」

 地上では、凄まじい地響きと共に溢れ出した異形の群れと、待ち構えていた人間国家の軍勢が激突し、瞬く間に阿鼻叫喚の戦場と化していた。

 だが、人間側の軍勢は、決して単独で戦っていたわけではなかった。

『よし、敵の主力が外に出たぞ。……支援部隊、人間たちに悟られないよう、後方から援護を開始しろ!』

 戦場の遥か後方の高台や、森の木々の影。そこに潜んでいたのは、シンの迷宮の戦力の「半数」を占める隠密支援部隊だった。

 獣人連邦の戦場では、高台に陣取った『攻城岩鬼シージ・オーガ』たちが、獣人たちの頭上を飛び越える絶妙なコントロールで、魔物の密集地帯へ巨岩の雨を降らせる。

 聖王国の戦場では、エルフの精鋭たちが姿を消したまま強力な風の結界を張り、アンデッドの放つ毒霧が騎士団に届く前に吹き飛ばしていく。

「お、おお! 大精霊の加護か、我らの魔法が強化されているぞ!」

「岩が降ってきた!? なんだか分からねえが、魔物の群れが勝手に潰れていくぜ!」

 人間国家の兵士たちは、自分たちが「見えざる手」によって完璧にサポートされていることなど知る由もない。彼らはただ目の前の敵に集中し、被害を最小限に抑えながら、強固な防衛線を維持し続けていた。

 ***

 そして、戦場が最大の熱狂に包まれ、敵の迷宮が十万の魔物を吐き出し切った、その時。

『――作戦通りだ。迷宮の入り口の警備が完全に手薄になった。……各部隊、突入開始』

 シンの冷徹な念話の合図が、三つの迷宮の入り口の「死角」に潜伏していた潜入部隊のリーダーたちの脳内に響いた。

「了解した、マスター。……さあ、行くぞ」

 聖王国側の『不死者の王』の迷宮。

 その岩陰から音もなく姿を現したのは、漆黒の重装甲を纏ったレオンハルト率いる精鋭部隊だ。彼らはキュウビの配下の幻惑狐が展開する『隠密の幻術』に包まれ、外の戦場に気を取られている見張りのアンデッドたちを背後から一瞬で両断し、暗い地下階段へと滑り込んだ。

「ヒャハッ、完全に空き家じゃねえか。楽な仕事だぜ」

 商業共和国側の『猛毒の蟷螂』の迷宮。

 こちらには、獣人のザイード率いる冒険者部隊と、『鋼断の蟻人』たちが潜入していた。彼らは入り口を通らず、蟻人たちが迷宮の側面から地下へ向けて直接トンネルを掘削し、罠を完全に無視して内部へと侵入していく。

「長老様……そしてシン殿。このクロウ、必ずや敵将の首を持ち帰ってご覧に入れます」

 獣人連邦側の『雷の獅子』の迷宮。

 こちらに潜入したのは、白熊の長老の子飼いである黒豹の斥候クロウと、迷宮の暗殺部隊だ。同胞である獣人連邦をおとりとして使わせてもらった恩に報いるため、クロウは影に溶け込み、雷の魔物たちがひしめいていたはずの空っぽの迷宮を、最深部へと猛スピードで駆け抜けていった。

 十万の魔物を率いて、圧倒的な蹂躙を行うはずだった傲慢なる三匹のマスター。

 彼らは人間たちとの正面衝突に気を取られ、自分たちの最も無防備な喉元に、シンの放った『三つの致命的な刃』がすでに押し当てられていることに、まだ微塵も気がついていなかった。

 戦火の喧騒を背に、暗闇の迷宮を深々と進む潜入部隊。ターゲットの命とコアを奪うための冷酷な暗殺作戦が、今、静かに幕を開けたのである。

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