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残高ゼロの極小ダンジョン経営~頼りない水晶コアと、ネズミ穴から始める迷宮拡張記~  作者: 盆ちゃん


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第47話:裏切りの蝙蝠と、逆襲の包囲網

第47話:裏切りの蝙蝠と、逆襲の包囲網

 迷宮第4層、マスターズ・チェンバー。

 深夜の静寂を破り、通信用の水晶が妖しい真紅の光を放って点滅した。

『――夜分遅くに申し訳ありません、シン殿。至急、お伝えせねばならないことがございます』

 水晶の向こうから響いたのは、『悠久の賢人会』の使者、吸血鬼の真祖ヴィクトリアの切迫した声だった。

「構わない。何か動きがあったか?」

『はい。先ほど、『暴食の狂宴』の幹部会議が開かれました。貴方の二箇所同時侵攻に激怒した三人のマスター――雷の獅子、猛毒の蟷螂、不死者の王が、貴方の迷宮に向けて十万規模の『魔物暴走スタンピード』を引き起こすことを決定したとのことです』

 その報告に、同席していたガストンとレオンハルトの顔色がサッと変わった。

「なぜ、敵の極秘会議の内容がそこまで正確に分かるのですか?」とガストンが問う。

『ふふっ。あのような野蛮な集団の中に、我ら賢人会の『内通者スパイ』がいないとでも?』

 ヴィクトリアの蠱惑的こわくてきな笑い声が響く。

『情報収集を担う蝙蝠のマスターは、とうの昔に我がリッチに寝返っておりますの。彼がもたらした情報により、スタンピードを引き起こす三つの迷宮の正確な『位置』もすでに特定済みです』

 水晶から、大陸の立体マップが投影され、シンの迷宮を取り囲むように位置する三つの赤い点が明滅した。いずれも、人間の国家の国境付近に位置するダンジョンだ。

「……なるほど。情報を流してくれた賢人会と蝙蝠のマスターに感謝する」

 シンは腕を組み、明滅する赤い点を見つめた。

「十万の魔物の暴走か。だが、俺はこの大深緑の迷い森を戦場にする気はない。連中が雪崩れ込んでくれば、森の木々が薙ぎ倒され、罪のない動物たちが巻き込まれるからな」

「ではマスター、どう迎え撃つおつもりで?」

 レオンハルトの問いに、シンは不敵な笑みを浮かべた。

「待つ必要はない。こちらから出向いて、奴らのダンジョンの『目の前』で叩き潰す」

 その大胆な決断に、幹部たちは息を呑んだ。

「ガストン。この三つの迷宮は、それぞれ商業共和国ヴァロワ、獣人連邦、そして聖王国の国境に近い。……すぐに同盟国のトップや、各国の冒険者ギルドに緊急通信を入れろ」

「相手のダンジョンから魔物が溢れ出す前に、人間国家の正規軍や冒険者たちで防衛線を張らせるのですね?」

「ああ。スタンピードの進行ルートを予測して情報を流せば、奴らも自国を守るために全力で軍を動かすはずだ。人間たちに『外に溢れ出た魔物』の掃討を任せれば、俺たちの負担は激減する」

 武力と資本による同盟。それはこの日のためにあったと言っても過言ではない。ヴァロワのアルベールや獣人連邦のガラン将軍ならば、シンの警告を100%信じて即座に軍を動かすだろう。

「だが、ただ外で魔物を迎撃するだけじゃ終わらせない」

 シンは円卓に身を乗り出し、冷徹な軍師の目を光らせた。

「奴らが十万の魔物を迷宮から吐き出すということは、当然、迷宮の内部は『もぬけの殻(空き家)』になるということだ」

「――ッ!!」

 レオンハルトが目を見開く。

「スタンピードが始まり、敵の主力部隊が迷宮の外へ出払った瞬間を狙う。レオンハルト、ザイード。お前たちはそれぞれ少数精鋭の特化部隊を率いて、手薄になった敵のダンジョン内部へ潜入しろ」

「敵の全軍が外に出ている隙に、心臓部を突くのですね……!」

「そうだ。狙うのは前回と同じく『ダンジョンコア』の奪取。……だが、今回はもう一つ指示を追加する」

 シンの声のトーンが、一段低く、凄みを増した。

「可能であれば、迷宮の最深部に引き籠っている『ダンジョンマスター』そのものを討伐しろ。……森と俺の仲間に牙を剥いた代償は、命で支払わせる」

「「はっ!!」」

 レオンハルトとガストンが、シンの放つ圧倒的な覇気にあてられ、深く頭を下げる。

『……ふふふっ、素晴らしいわ』

 通信の向こうで、ヴィクトリアが妖しく微笑んでいた。

『敵の最大の一手を逆手に取り、人間国家を壁として使いながら、無防備な喉元に刃を突き立てる……。我が主たちも、貴方のそのえげつない知略に大層ご満悦のようです。健闘を祈りますわ、シン殿』

 通信が切れ、戦略会議室には出陣の熱気が渦巻いていた。

 敵の思惑を完全に読み切り、自然を護りつつ、同盟国をも巻き込んだ巨大な逆包囲網。

 傲慢な三匹のマスターたちはまだ知らない。彼らが放つ十万の魔物による蹂躙が、逆に彼ら自身の命と迷宮を終わらせる「致命的な隙」となることを。

 テラ・マグナの大陸全土を巻き込む、最大規模の迎撃・強襲作戦が、今まさに始まろうとしていた。

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